新たな行事
「……ついでに、お盆も作るか」
「え、なんですか、アルス? 盆? 食器のことですか?」
「いえ、違いますよ、パウロ教皇。死者の葬儀について考えていたので、それなら新しくもう一つ行事でも増やそうかなと思っただけです」
「……これ以上、教会に混乱をもたらさないでほしいのですが」
「いや、教会にとってもお金になるんじゃないですかね。意外といい収入になると思いますよ」
「ほう、そうなのですか。では、そのお盆というのがどういうものか聞かせてもらえますか、アルス」
俺は葬式を通じて、フォンターナ王国の中や外に関わらずにすべての貴族らに対して影響力を持てるようにしてみようかと考えていた。
どれほど時間がかかるかはわからないが、俺に葬式を頼まない限りは天国にいけないとなれば、いつしか俺の神の盾という名称にも箔が付くのではないかと考えている。
教会、あるいはその他での神の盾という名乗りはかなりあいまいなものだ。
というのも、今までそんな名称を名乗ったやつは一人もいない。
言ってみれば、俺がいきなり「自分はこれから神様を守る盾になる」といって、教皇と同等の地位になったのだと主張しているに過ぎないのだ。
そのため、普通の感性をもつ者であればあるほど、「こいつは何を言っているんだ?」と頭がおかしい者をみる目を向けてくる。
なので、現在の俺の肩書はよくわからない「神の盾」というよりも、フォンターナ王国の財務大臣であると認識されている。
しかも、すでにバルカ家の当主は息子に譲っているので、本当にその役職しか持っていないのだ。
であるので、先日会ったヨーゼフという名のドーレン王の忠臣と俺はほぼ同格くらいにしかならない。
だが、この葬式を通じてそれも改善するかもしれない。
神の盾という肩書を持つ俺が死者の魂を神界に運ぶ役割を担っている、となればただの自称ではなくなる。
むしろ、天国に行くには神の盾というよくわからないものを有難がらなければならなくなる。
そこで、そんな俺の肩書をさらに補強するために、もう一つ手を加えてみることにした。
それがお盆という行事である。
もちろん、これは前世からの知識の流用だ。
死んだ者はあの世に行くが、年に一回決まったタイミングで現世に戻ってくる。
子孫はその先祖の霊を暖かく迎え入れてもてなし、そして再びあの世へと送りましょう。
わかりやすく言えば、だいたいこんな感じの行事になるだろうか。
このお盆という行事は世界的に見ると結構珍しいものだと聞いたことがある。
基本的には死生観というのだいたい二分されており、死んだ者は死後の世界に行くか、輪廻転生するかになるのだ。
死後の世界に行ったのであれば現世に戻ることはありえないし、輪廻転生して生まれ変わっているのであれば先祖の姿で毎年戻ってくるのもおかしい。
本来は仏教の世界でもこんな行事はなかったようなのだが、様々な地域に伝来する過程で変質し、日本の祖霊信仰と合流したことでこのような形になったらしい。
では、このあたりの人間はこのお盆という行事を受け入れるだろうかという疑問に行き着く。
このへんでは輪廻転生という概念はあまりなく、死んだら天国に行きたい、と考えている者が多い。
そのために、現世にわざわざご先祖様が戻ってくるかどうか。
だが、これは案外受け入れやすいかもしれない。
なんと言っても、この場合は天国に相当する神界が実在し、しかも、俺や一部の者は実際に行ったり来たりしているのだ。
つまり、死んだ者の魂が死後に天国である神界に行ったのだとしても、そこから地元へと戻ってきたとしてもありえない話ではない。
そして、数日間滞在した先祖の霊が再び神界に向かって地上を発つ。
概念的な理論立てはできているのではないだろうか。
では、このお盆という行事をすることで、俺の神の盾という名は意味を増すのかどうかだが、意外といける気がする。
というよりも、葬式とセットでやることで初めて説得力が生まれるのではないだろうか。
「……考えましたね。確かに、話の流れの中で大きな矛盾点はありません。まあ、いくつか気になる点はありますが、言い出したらきりがありませんしね。ですが、このお盆という行事は良さそうです。地上に戻ってきた霊魂が迷わずに神界へと向かうように儀式を行えば、たしかに教会にとって大きな収益が生まれそうです」
「ああ、いいですね。毎年喜捨を弾んでもらえるでしょうね。貴族などは天空霊園で儀式をしたとしても、一般人はそうもいかない。各地の教会で儀式をすれば、地方の教会の運営費になるかもしれませんよ、パウロ教皇」
「喜捨をしていただけるというのであればありがたい話ですね。なにせ、老朽化している教会もあるので」
「ふむふむ。なら、こういうのはどうでしょう。お盆は基本的に夏に一回する行事でいいかなと思っています。冬は新年の祝いがあるけれど、夏は特にないですし。で、さらにがめつく集金したいのであれば、毎月月命日というのをやれば更に喜捨を集められるでしょう」
「月命日ですか?」
「そうです。ガロード暦を使って、亡くなった人がその月の何日に天に召されたかを覚えておいて、同じ日に毎月祈りを捧げるのです。教会から神父様が自宅訪問して祈りの言葉でも唱えてやれば皆喜びますよ」
「……よくもまあ、そんなことを次から次に考えつきますね。ですが、できないことはありませんか。夏にお盆をやるというのもいいですね。基本的に洗礼式などは雪解けを待って春に行いますし、収穫の時期とずらせば多くの人が参加しやすいかもしれません」
「まあ、そのへんはおいおい考えていけばいいかもしれませんね。さて、とりあえずこっちはドーレン王家の葬式をしっかりやらないと」
まあ、神の盾という名を広く知らしめて信用度を高めるにはどうしても時間がかかるだろう。
結局は気長にやるしかない。
が、それでもできることはやっていってみよう。
そのためなら、前世の知識だろうが、教会の宗教観だろうが、なんでも利用していこう。
そう考えて、俺はパウロ教皇とともにお盆という新たな行事の実施に向けてさらなる検討を重ねていくことにしたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





