魂の行き先を決める者
「よくもまあ、そんな屁理屈を思いつきますね。今まで自分がしてきた行いをそのような論理で上書きするつもりですか、アルス?」
「まあ、いいじゃないですか、パウロ教皇。誰も損しないわけですし」
「ええ、まあそうですね。命を落とした者が救われるのであればそうでしょう。けれど、復興予定の聖都の扱いを霊園にする、というのはそれほど悪くはないかと思います。私としても、ここと離れた距離にある聖都は正直扱いが難しいと思っていましたから」
「よし、じゃあそういうことで。俺が神の盾としてドーレン王家の葬式を執り行って、墓を天空霊園に作る。で、葬式の細々した手順は教会の既存の方法を踏襲するってことでいいですね?」
「神界ではなにもせずですか?」
「ん? 神界ですか?」
「ええ。あなたの言う通り、人々は死んだ後に天国へと行きたいと願っています。天空霊園がそれに該当するかどうかはその人の考えによるでしょうが、歴史ある王家や貴族はこれまで持っていた知識から、神界こそが天国である、という認識を持っているのではないでしょうか」
「うーん、でも神様はあんまりもう神界に地上の人間が関わってほしくはないって考えですからね。じゃあ、立派な墓は天空霊園に作って、なんらかの遺品なり墓標みたいなものを神界に置かせてもらえないかどうか聞いておきましょうか?」
「そうですね。あくまでも墓としての機能は天空霊園でという方向で進めたほうがいいかもしれませんね」
俺が考えたアイデアをリオンの次にパウロ教皇に説明する。
こちらもリオンと同じように呆れてはいるものの、概ね賛成のようだ。
そのパウロ教皇に葬式の段取りなどの話を聞いた。
基本的には葬式のやり方というのは地方ごとによって差異がある。
人々を死後の世界へと送り出すという行為そのものは同じではあるが、微妙にやり方が違い、その伝統を破ったやり方では残された者が納得しないだろう。
だが、民間人ならばともかく貴族などは概ね似たような様式になっている。
俺も以前喪主を務めたことがあるが、貴族家の当主などが亡くなったときなどに行う葬式は最後に決まりがあるのだ。
それは当主級の魔法を使う、ということだった。
まだ、フォンターナが貴族領だったころ、先々代ドーレン王とともに王都に向かったフォンターナ家当主カルロスがその途上で命を落とした。
そして、その死をきっかけに俺はフォンターナ家の当主代行という地位につき、そして幼いガロードの代わりに貴族であるフォンターナ家の葬式の喪主を務めた。
その葬式では当時のパウロ司教が祈りを捧げて、最後に俺がカルロスの遺体に向かって魔法を発動させた。
今はもう使えないが、フォンターナ家が持つ当主級の魔法である【氷精召喚】を用いて、カルロスの遺体を氷漬けにしたのだ。
ドーレン王家やその他の貴族家の葬式は概ねこのように行われるらしい。
おそらくは、不死者という存在があるからではないだろうか。
死後も動く生きた屍となってしまう穢れた存在である不死者。
そんな不死者に自分たちの家から死んだ者が現れては、寝覚めが悪いどころの話ではない。
なので、攻撃系の当主級魔法が使える貴族などは葬式の最後にその遺体が二度と現世に復活しないように魔法を使用することが慣例となっていたのだ。
そんな理由があったからこそ、カルロスが亡くなった後にほぼ無関係の俺がフォンターナ家の喪主を務めることができた。
あの時、【氷精召喚】を使用できたのはフォンターナ領の中で俺と2歳のガロードだけだったからだ。
ドーレン王家はかつての力を失い大魔法である【裁きの光】が長らく使えない状態になっている。
が、それはそれとしてこの慣習は続いていた。
正式な手順に則って、火葬し、遺体が不死者として蘇らないように燃やすようにしているらしい。
ちなみに王都圏にいる攻撃魔法を持たない貴族をはじめとして、当主級魔法が無い騎士家なども同じ手法を用いることがあるようだ。
実際問題、それで長い間不死者が出ていないので良かったのだろう。
俺が先代ドーレン王にやる葬儀も基本的にはこの方式に則っていけば大きな問題にはならないだろう。
ただ、今の俺は【氷精召喚】は使えない。
そのために氷漬けにすることができないわけだ。
が、別に代わりの方法なんていくらでもやりようがあるだろう。
ようは、不死者になりそうにもない状態にしてやればいいのだ。
遺体を石に変えて像にしてもいいだろう。
とにかく、なんらかのやり方で遺体を処理して天空霊園に埋葬する。
こう考えると、この葬式はなにもドーレン王家に限らずにほかの貴族であってもやってもいいかもしれないな。
フォンターナ王国内外に関わらず、基本的には全員教会の教えを信じているのだ。
清く正しく生きて、そして死んだ後は天国に行きたい。
貴族だろうが騎士だろうが平民だろうが、みんなそう願っているのだ。
そして、それを具体的な手順で実行できるのは神界に行き来できる神の盾であり、天空霊園という土地を所有している俺だけなのだ。
教会の教皇とタッグを組んで葬式を執り行い、死者を埋葬し、その遺体は天空霊園で、そして魂は神界に送り届ける。
そうすると、逆の発想に行き着くのではないだろうか。
俺が葬式をすれば死者の魂は神界へと送られる。
では、俺が葬式をしなければどうなるだろうか。
死者の魂は現世でさまよって永遠に天国にはいけない、という論理が成り立たないだろうか?
つまり、俺が葬式をしなければそいつらは全員死後の魂の行き場を失うことになる、つまり、地獄に落ちることになると言えなくもない。
もし、そういう意識を全貴族、あるいは全騎士に植え付けられれば、俺と明確に敵対しづらくなるのではないだろうか。
やってみる価値はあるかもしれない。
ドーレン王家の葬式のことをヨーゼフにしっかりと説明しておこう。
そして、その葬式をつつがなく、盛大に執り行う。
その後、他の貴族も希望すれば葬式を行いますよ、と宣伝し、段々と俺に頼まなければ天国にはいけませんよという論法にすり替えてみよう。
こうして、俺のイメージ戦略は着々と具体的な案となって実行されていくことになるのだった。
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