当主の座の行方
「ドーレン王家の継承権、というか当主の座の行方ですか。現在の王に当主としての座が戻っていないというのであれば、どこかで先代のドーレン王は生きておられるという可能性はないでしょうか?」
「ありえませぬ。我らが探さなかったとお思いですか? もちろん、必死になって先代王の行方を探しましたとも。ですが、いまだ見つからず。もはや、生きてはおられますまい」
「なるほど。まあ、さすがにどこかで生きているのであれば出てくるはずですからね。もう王都にメメント家はいなくなったのですし」
「……もし、先代王が生きておられるのであれば、私は貴方様か、貴方様の弟であるカイル・リード殿が行方を知っているのではないかと考えています」
「……ほう。それはなぜでしょうか? 神の盾といえども、なんでも知っているというわけではないのですが」
「お戯れを。根拠はあります。魔法、ですよ」
「魔法?」
「【審判】という魔法をカイル殿が創造されたようですな。あれは、実にすごい魔法です。何度も、何度も我々の頭に直接声が届いていたのですから。あのような魔法を作れるとは驚きです」
「……ああ、なるほど。そういうことですか。つまり、あなたがたも使えるわけだ。リード家の魔法を」
「然り。【念話】や【自動演算】なども便利なものですな」
うーむ。
そういうことかと俺は思わずうなずいてしまった。
というか、当たり前か。
気づかないというほうがどうかしている。
ようするに、ここにいるヨーゼフはすでに確信を持っている。
俺か、あるいはリード家当主のカイルがドーレン王家の継承権に深く関わっているということに。
その理由こそが、リード家の魔法にあった。
かつて、メメント家が他の貴族軍と一緒になって王都を襲って占領した。
そして、その際に当時の王、つまり、今で言う先代ドーレン王はナージャによって殺され、しかも、継承権ごと【収集】されてしまった。
この時点では先代王がどうなったのか、ヨーゼフをはじめとして誰にもわからなかった。
そして、そのナージャが倒されて、初代ヴァルキリーがナージャからドーレン王家の継承権を【収集】した後も、まだわからなかったはずだ。
なので、探した。
血眼になって探す勢いで先代王の行方を探し回り、しかし、見つからなかった。
が、その状況に変化が訪れた。
今年になってから、ドーレン王家やそれに連なる貴族や騎士に使える魔法が増えたのだ。
王都圏に住む王家や貴族、騎士たちが急に【念話】や【念写】、あるいは【速読】などの魔法が使用可能になった。
それは今年に初代ヴァルキリーを迷宮核などと【合成】し、神へと変じた後、カイルがカイザーヴァルキリーに名付けをしたからだ。
急に魔法が使えるようになった。
それだけではなく、王都にいたドーレン王家のトップに立つ現王と魔力的なつながりがあるはずのすべての者が同時に同じ魔法を使えるようになったという事実。
ヨーゼフはそこに気がついたのだろう。
すなわち、それまでは全く不明だったはずのドーレン王家の当主として継承権を持つ者に対して、何者かが名付けを行ったということに。
そして、その何者かはすぐに分かった。
【念話】などという魔法を使える存在など、世界広しといえどもカイルをおいて他にはいなかったからだ。
つまり、自分たちが新たな魔法を使えるようになったことで、カイル、あるいはカイルの兄でありカイルに強く影響を与えうる存在である俺ならば、ドーレン王家の継承権についてなにか知っているに違いない。
そして、そんなカイルがいきなり聖都跡地の土地を押さえて領地の切り取りを始めた。
だからこそ、こうして会いに来たのだろう。
たとえ、かつて敵対して戦い合う間柄になったフォンターナ王国の貴族領といえども来ないわけにはいかなかったのだ。
失敗したかな?
ヴァルキリーの使える魔力量が激増する理由になった、ナージャが【収集】した力をそのまま丸々残すという判断。
それがあるゆえに、ヴァルキリーは群れ全体で莫大な魔力を保有するにいたり、そして、そのヴァルキリーに名付けをしたカイルも強くなった。
その力が失われるのは少々もったいないという思いから、不要な貴族や騎士の継承権なども名を捨てることもなく、そのままにしていたのだ。
だが、この冬にはカイルが【審判】という魔法も作り出し、年が明けるまでずっと裁判の判決を【念話】形式でヨーゼフや現ドーレン王も聞き続けたのだろう。
もはや、無視することなど不可能だ。
ここまで状況証拠が揃っている以上、しらを切ることも難しいだろう。
「私や弟のカイル・リードも先代ドーレン王の行方については存じません。が、すでに先代王は亡くなったものと確信しています」
「な、やはりそうなのですか……」
「ええ。偶然にも神敵であるナージャをこの聖都消滅時に倒した際に、手に入れたのですよ。ドーレン王の王冠をね」
「……信じたくはありませんでしたが、やはりかの神敵の手にかかっていたのですな。いえ、聖都や他の街に【裁きの光】を発動していた時点で無関係であるとは考えてはいませんでしたが、どうしても気持ち的に受け入れられなかったのです」
「そうでしょうね。なにせ、ナージャは本来王家と関わるような者ではありませんからね。で、どうしますか? ドーレン王家に継承権を戻しますか?」
「な、なんですと? そのようなことが可能なのですか? 本当に継承権を取り戻せるのでしょうか?」
「可能です。どうしますか、ヨーゼフ殿? ドーレン王家は継承権を取り戻したいとお考えですか?」
「もちろんです。それが叶うのであれば望外の喜び」
「では、その代わりにこちらのお願いも少し聞いていただきたいのですが」
俺は悪くねえ。
なんもかんもナージャが悪い。
俺はヨーゼフとの会話をこの論法で乗り切ることにした。
実際問題、悪いのはナージャだ。
が、ナージャが消えたあとになっても継承権が戻ってこないからこそ彼らは困っていたわけで、そこはやはり俺が原因でもある。
が、言わなければわからないだろう。
証拠がない以上、俺は悪くないはずだ。
現在、継承権を持っているのはカイザーヴァルキリーだ。
ドーレン王家に継承権を返すのはそれほど難しいことではない。
なにせ、俺が自分の息子に当主の座を譲ったように、カイザーヴァルキリーからドーレン王家の継承権序列第一位へと当主の座を譲ればいいだけだからだ。
なので、この際だから返してしまおうと思う。
そして、せっかくなのだからこれを機にドーレン王家と取引でもしておこう。
とくにドーレン王家と交渉する考えもなかったので、なにも決めていなかったがこうして急に話し合いが進んでいくことになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





