リシャールの街と盗賊退治
「よっしゃ、それじゃ次は俺の番だな。行ってくるぞ、カイル」
「うん、お願いね、バイト兄さん。気をつけてね」
「おう、任せとけ。バルト軍、出るぞ」
カイルがリード軍を連れていくつかの盗賊たちを打倒し、聖都跡地の近郊は掌握することに成功した。
そして、そのリード軍が一度帰ってきたら、今度はバイト兄が率いるバルト軍が交代で出撃することになった。
カイルに指示された地点の盗賊たちを殲滅し、そこに新たな拠点を作る。
そうして、その拠点を新たな橋頭堡としてさらに勢力を拡大していく。
それによって、リード家は順調に支配地を増やしていくことに成功していた。
「ここの都市名はリシャールにするんだってな。いい名前だな、カイル」
「ありがとう、アルス兄さん。リード家の姓とシャーロットの名前を合わせてみたんだ」
「結婚相手のために街を作って、その名前をつけるってなかなか洒落てるな」
「何言っているのさ、アルス兄さん。リリーナさんのためにドレスリーナを作ったアルス兄さんのことを参考にしただけだよ」
「あ、そうだったのか。そういや、俺も似たようなことをしてたんだったな」
リード家として新たな領地を得る。
本国であるフォンターナ王国から切り取り自由の許可を得たリード家は、聖都跡地にいた青の聖女ミリアリアからの要請もあって、聖都跡地を押さえた。
その聖都それ自体は兄であり、神の盾である俺が地面ごと空に上げたため、今はこうして地上部分をリード家が自分たちの拠点としたわけだ。
新たに出来上がった人造湖でもある聖湖のほとりに作り上げた要塞のような街。
その名前をカイルはリシャールと名付けた。
ちなみに、いずれ作る予定の城の名前はシャーロット城にするらしい。
フォンターナの街に残ってそれを聞かされたシャーロットの顔は満更でもなさそうで、嬉しそうに頬を赤らめていたらしい。
どうやらカイルはバッチリと嫁さんの心を掴んでいるようだ。
そのリシャールの街を中心にして、リード家は東に勢力を伸ばしていく。
これは、もともとナージャによって荒らされていた土地がそちらの方向だからだ。
王都圏の南側に横に続く形で領地を得る。
そのため、北の王都圏から西に勢力を持つラインザッツ家、そして、南にはリゾルテ王国がある形になる。
両陣営の間にある空白地帯をかっさらうことになるが、今後の領地運営は一筋縄ではいかないだろう。
「取り込んだ元盗賊たちやそいつらに支配されていた農民たちはリード家のことを受け入れそうか?」
「いまのところは素直に従っているよ。いくつもの盗賊たちを相手にしたけど、やっぱりどこもそんなに蓄えがあったわけじゃなかったみたいだからね。自分たちが飢えないくらいの食料をリード家が持っていることがわかったら、おとなしくなったかな」
「やっぱ、バラマキ政策は短期的には有効だな。富を蓄える余裕があるところは、言うことを聞かないからバイト兄が潰しているし、とりあえず今年中にできることは完了かな?」
「戦いという面ではそうなるかな。でも、やることは山積みだよ。まずはどこに誰が何人住んでいるかを確認して、その人の土地を確定しないと税を取り立てることもできないしね」
「まあ、けど、その事務仕事ができる人材はカイルにたくさんついてきてくれたんだろ。せいぜい頑張ってくれたまえ」
どうやら、現状ではリード家は周囲の人間に受け入れられたようだ。
というか、やはり食べ物がなかったというのが大きいみたいだ。
リシャールの街という壁に囲まれ、豊富な食料を得ることに成功したことで、食うに困った連中がだんだん集まってきたのだ。
やはり、盗賊行為をしていた連中も一時的にはなんとかなっても、冬を越すだけの備蓄は心もとなかったのだろう。
圧倒的な軍の運用で、ほとんど無傷で盗賊退治を進めていくリード家を見て、勢力の弱い盗賊団などは自分たちから頭を下げに来たりした。
カイルはそれらの者たちに対しては寛容に許すことで、盗賊たちに怯えていた民衆にも頼りがいがあるところを見せることにも成功したらしい。
リード家の評判は上々といったところだ。
が、中にはリード家などなんぼのもんじゃいと気勢を上げる盗賊団もいる。
周囲にいくつもの盗賊たちが現れ、その中から頭角を現したリーダーがいる盗賊団などがそうだ。
そのような連中は他の盗賊団を吸収しながら成長し、人数を増やしていった。
その結果、冬を越せるだけの量の食料も確保できたり、なによりも周辺の住人を脅して税を取り立てるように作物を上納させるエセ領主のようになっていたのだ。
それらの者たちからすれば、急に現れたリード家は盗賊たちの権利だと言わんばかりの奪ったものや土地、収奪し続ける予定の利益をかっさらう相手にしか見えないのだろう。
そのために、おとなしく従うという行動には出られなかったようだ。
が、そんな相手にはカイルはバイト兄を差し向けることにした。
好戦的な相手には戦い好きなバイト兄を当てることで、派手な戦果を得ることを期待したのだろう。
そして、バイト兄はそんなカイルの期待を裏切ることはなかった。
当主級の力を持つバイト兄がヴァルキリーに騎乗する騎兵を率いて、ド派手に戦う。
しかも、バイト兄はこれまでにも他の貴族領で盗賊退治をしていたこともあり、盗賊相手に戦い慣れていた。
盗賊たちを見つけては千切っては投げといった感じで、派手に暴れまわったのだ。
戦いに敗れた盗賊たちも簡単には終わらない。
なにせ、もともとが生きるために戦うようになった連中だからだ。
盗賊行為をやめるということはすなわち死に直結する。
そのため、拠点を潰されて散り散りになった盗賊団のメンバーは各地に散り、ゲリラのように商人や村人を襲おうとした。
が、それらもことごとくバイト兄がヴァルキリーに乗って追いかけ回したのだ。
それによって、周囲は以前と比べ物にならないくらい安全が確保された。
これならば、今後は商人たちももう少しこの無法地帯にやってくることができるかもしれない。
とりあえずは、今年中に聖都跡地の近郊を掌握し、安定させるという第一段階はクリアと言えるのではないだろうか。
ならば、次は第二段階だ。
来年以降に備えて、リード領をより安定させて、住民たちの心をさらにガッチリと掴む必要がある。
そのために、カイルは秘策を発動したのだった。
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