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聖女様との協力

「こ、これは?」


「これですか? こいつは魔導飛行船というものです。空を飛ぶ乗り物ですね」


「空を飛ぶ。ということは、やはりあなたはアルス・バルカ様なのですね」


「よくご存知で。いかにも私は神の盾アルス・バルカです。どうぞ、よろしく」


「聖光教会大司教のミリアリアです。よろしくお願いいたします、アルス・バルカ様」


 とりあえず、子どもたちに聞かれずに話ができるようにと考えて青の聖女ミリアリアを魔導飛行船へと案内した。

 彼女と一緒にいた子どもたちは他に連れてきていた兵に相手をさせている。

 何人かの子どもはミリアリアの姿が見えなくなりそうになって泣いていたが、しばらくは大丈夫だろう。

 ミリアリアのほうも子どもと引き離された状態でこちらに危害を加えようなどと考えることもないだろう。

 じっくりと聞きたいことを聞こうと思う。


「まず、第一にこの塩草は毒性があり薬物の原料である。このことを確認したいのですが」


「ええ、そのとおりです」


「……聖女様であるあなたがこの地に残ってただの薬や毒を必要とするとは少し考えにくい。ということは、いわゆる表には出せないような非合法な薬になるのではないかと予測するのですが、どんなもんでしょう?」



「……ご推察のとおりです。この塩草から作られる薬は裏の世界で通用するものです。ですが、塩害から土地を救う奇跡の植物であるというのもまた事実です。もともと、その塩草はドーレン王家が管理しており、後に聖都でも保管されていたのです」


「ふむ。ドーレン王家がかつて使用していた【裁きの光】は強力な大魔法ですからね。それによる大地への影響を最小限に抑えるためにも、こういう植物が管理されていたということですか」


「ええ。そして、その塩草は聖都の地下にあった保管庫にも保管されていたのです。おそらくは、そこから奇跡的に生き残った種が芽吹いたのではないかと思います」


「それは本当ですか? あなたが、あるいは他の教会関係者が薬物を得るためにこれを聖都跡地に栽培していたわけではないのですね?」


「はい。と、いっても証拠などはなにも出せないのですが。月並みですが信じてください、としか言えません」


「いいでしょう。どのみち、そのあたりのことは双方にとって証明できないですからね。では、次の質問です。この塩草を子どもたちを使って採取していましたね? これは売買するための行為であったのは間違いないですか?」


「はい。塩が取れることは事実でそれは売り物として商品になりますから。さらに、ほかにも塩害のひどい消滅した街などがあります。そこにも植えるつもりでした」


「ほかにもですか? 確かにナージャによって【裁きの光】が使用された場所はいくつかあると聞いていますが、薬物が蔓延することは危険ですよ」


「わかっています。ですが、そうせざるを得ないほど、この周囲の土地は汚染されています。まずは、麦が育てられるようにする必要があるのです。それに、薬物になるといってもやり方しだいです。塩草から作られる薬には薬効を調整して、精神を落ち着けさせる効果を発揮させることもできるのです」


「……ふむ。薬というのはおしなべて毒性があると言いますし、そういう可能性はあるのでしょうね。ですが、やはり危険性が高いと判断します。塩草はすべて回収させてもらいますよ。もちろん、売買も禁止とします。いいですね?」


「……分かりました。従いましょう」


 塩草はミームに薬効を調査してもらう必要があるだろうか。

 俺では判断がつかない。

 もしかしたら、ミリアリアの言う通りこれは普通の薬として利用できるものなのかもしれない。

 が、安易に許可は出せるはずがない。

 聖都近郊が薬物の密売所になってしまっては困るからだ。


 というか、本来パウロ教皇から招集がかかっているはずのミリアリアがここに残ってまで手にしようとしているという時点で相当な代物であると考えられる。

 どんな薬になるのだろうか?


「私からも質問してもよろしいでしょうか?」


「ん? ええ、かまいませんよ」


「あなたは、アルス・バルカ様はなぜここに? すでに教会の多くの者を北に集めて、そこで教会を再編したのでしょう? なぜ、この聖都に舞い戻ってきたのでしょうか。それも、あなたが来てからいきなり地面が宙に浮かぶという異常事態が発生しています。あれもまさか、あなたが?」


「聖都跡地を空に浮かべたのは私ですね。この地はこれより我がものとします。異論は認めません」


「……そのようなことが許されると? 聖都は古来より教会があり続けてきた場所なのですよ?」


「教会はすでにフォンターナにて蘇りました。ですが、たしかに聖女様のおっしゃるように聖都跡地を放置しておくわけにもいきません。ですので、神の意見にしたがったのですよ」


「……神の意見、ですか?」


「はい。消滅した聖都の跡地を神の盾である私に保護してほしいとお願いされたのです。そのため、私が大地と切り離して保護しました。故にこの時を以って聖都跡地は教会ではなく、我がアルス・バルカの保護する土地となります」


「そ、そのような詭弁が……」


「ほう。聖女と呼ばれる大司教様がまさか神のお言葉を詭弁であると主張するのですか? もしそれが、神の耳に入ればどうなるのでしょうか。神敵であるとされても文句は言えませんよ?」


「……失言でした。お許しください」


「許しましょう。さて、これで状況は理解できたかと思います。そこで、私と協力しませんか、青の聖女様?」


「……協力、ですか。到底断れない状況に追い込まれているようにも思いますが、いったい私になにを求めるというのでしょうか?」


「もう一度、確認します。あなたの行動目的は孤児となった子どもたちを救うため。そして、塩害がひどく作物が育てられなくなった付近の地をもとの豊穣な土地に戻すこと。これで相違ないですか?」


「そのとおりです。私は本当に塩草を通してこの地をもとに戻したかっただけです。他意はありません」


「分かりました。では、微力ではありますが、私もその願いに賛同し、協力いたしましょう。ともに手を取り合って、この地を救おうではありませんか」


「……どういうことでしょうか? あなたが私と手を取り合うというのはなにを狙ってのことでしょうか?」


「あなたは青の聖女ミリアリアとして、今でも多くの民衆から絶大な人気を誇る人物として、私に頼んでほしいのですよ。かつて在りし日の聖都と人々の生活の復興を」


「それがあなたになんの得があるのですか?」


「いろいろですよ、聖女様。私はあなたの行動を助ける代わりに、あなたをほんの少しだけ利用させてもらうだけです」


 どうやら、塩草は平和利用するつもりだったらしい。

 それがどこまで本音であるかはわからないが、彼女がそう主張するのであればそれを認めよう。

 そして、そんな心優しい聖女様に俺は提案した。

 あなたの代わりにこの地を平和にすると。

 まあ、それを実際にするのはこの後にここに来る弟のカイルなのだが。


 おそらくは、この周囲でミリアリアの名は通っているはずだ。

 青の聖女ミリアリアが死の土地と呼ばれるようになったこの地を復活させるために働いている。

 そして、そのための助力を俺を通して、俺の弟であるカイル・リードに依頼させる。

 つまりは、大義名分をカイルが得るということになる。

 聖都の跡地で活動していたかつての次期教皇から土地を安定させるために呼ばれてカイルはこの地を平定する。

 十分に土地を得るための名目となるだろう。

 ちなみに、神の意見云々というのは詭弁どころか口からでまかせの嘘だったりする。

 あとで、新作の依代や服を持っていくときに口裏を合わせるようにアイシャにお願いしておこう。


 神の言葉によって聖都を取り戻しに来たという神の盾という存在である俺と、草の根の活動で多くの民衆から支持を得ている青の聖女。

 その二人から、この地を任されるカイルに反対する者は、それすなわち神敵である。

 この路線で領地を得てしまおう。

 いくら、覇権貴族であるラインザッツの力があろうとも、教会と敵対するのはためらうはずだ。


 本来はこのような大義名分を得るためのミリアリアの役目はパウロ教皇に任せるつもりだった。

 が、このあたりでは聖都を放置して北の地で教会組織を再編したパウロ教皇たちよりもミリアリアのほうが人気も高いだろうし、賛同が得られやすいと思った。

 なので、せっかくここでこうして利用できそうな存在と巡り会えたことをこれ幸いに、俺はミリアリアと協力関係を結ぶことにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あいかわらず、悪知恵ですね。 当然の選択とも言う。
[一言] あくまでも協力要請ですね。
[一言] 悪魔の取引よのう
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