リオンの思惑
「よし、とりあえず第一候補として聖都跡地とその周辺を考えるのはいいとしよう。だけど、問題はその後だろうな。うまく攻略して土地を手に入れても、あそこは距離があるぞ。フォンターナ王国からは飛び地となる」
「そうですね、アルス様。無法地帯化した土地をどう統治していくかも問題ですが、周りすべてが敵対勢力になるかもしれません。が、味方となりえる存在はいますよ」
「味方に? どこがなりそうなんだ?」
「リゾルテ王国です。旧へカイル領や旧ギザニア領は比較的リゾルテ王国に近い場所です。なので、私から連絡を事前にとっておけば協調路線を模索できると思います」
「リオンにはリゾルテ王国とつながりがあるからこそできる芸当だな。でも、いけるのか? リゾルテ王国にしても土地を広げたいと考えているんじゃないのか?」
「おそらくですが、この提案は受け入れられるでしょう。王都や聖都跡地はラインザッツ家の勢力範囲内になっています。リゾルテ王国にしても、そこと自国の領地を接して争いが頻発するよりも、間にほかの友好的な第三勢力がいたほうが国境線が安定しやすいですので。なにより、死の土地と呼ばれるような場所は必要ともしていないでしょうしね」
「ようするに、自分たちが必要ない土地にリード領ができたほうが緩衝地帯として機能してくれるってことになるのか。で、その間に他で取れる土地をとってしまおうってことだな?」
「ええ。そう考えてくれるように交渉をうまくまとめてみましょう」
「だが、他はどうなる? ラインザッツ家をはじめとして、フォンターナ王国から聖都までの間にある貴族の多くが大貴族同盟や北部貴族同盟として結託しているだろ。カイルが土地を手に入れたとしても、そこから集中攻撃を受けたら多分持たないぞ」
おそらく、リード家が狙う場所として他に丁度いいところというのは無いだろう。
カイルは軍を率いて聖都跡地やナージャの支配していた土地などを奪い取ることになるのだと思う。
だが、それにしてもいくつか厳しい条件があった。
その後の統治はもちろんのこと、周囲の勢力との関係も重要だ。
なにせ、領地がフォンターナ王国とはつながらない状態なのだ。
そんなことは提案したリオンもよくわかっているだろう。
どういうつもりであるのかはしっかりと確認しておく必要がある。
リオンは俺の妻のリリーナとの血のつながった弟ではあるが、今はもうフォンターナ王国を国王であるガロードに代わって差配する立場だ。
単純にカイルのためだけの提案ではなく、フォンターナにとって一番利益が出ると考えて言っているのだと思ったからだ。
「まさしく、その大貴族同盟が関係しているのですよ、アルス様。聖都が消滅してから、教会は有力者をフォンターナ王国に集めて再建しました。そして、戦禁止令を出し、それに逆らう貴族領からは神父たちを引き上げるとまで言っています」
「そうだな。こっちがそうなるように流れを作ったからな」
「ええ。そして、当然ながら多くの貴族はそれに反発しています。ラインザッツ家を中心とした大貴族同盟などはおそらく来年に入ればフォンターナ王国に対して攻勢を仕掛けてくるはずです。ですので、そこに先手を打っておきたいのですよ。今のうちに南に楔を入れておきたいのです」
「それって、体よくリード家を生贄にしようってことじゃないのか、リオン? 王都の南にある土地をカイルが奪っておけば、たしかに大貴族同盟を南北から挟撃できるようにはなる。本国は一方的に攻撃される危険は減るかもしれないが、カイルへの負担は半端じゃなくなるぞ」
「ですが、カイルが南に行けば、それを手助けするために頑張る人もいるでしょう?」
ああ、なるほど。
そういうつもりなのか、リオンは。
こいつはきっと俺を戦場に引っ張り出したいのだろう。
カイルが南にある大変な土地を手に入れて、しかも身の危険が迫るほどの状況になれば、俺が手を貸すために動くことは分かりきっている。
つまり、カイルが領地を手に入れれば、俺が南に行くことは確定しているようなものなのだ。
これはリオンなりの意趣返しなのかもしれない。
本来ならば、ガロードが勝手にカイルの領地問題で「切り取り自由だ」と言い出した時、リオンは止めるべき立場の人間だった。
カイルはこれまでフォンターナ軍に所属し、将軍職について何度も戦場に出て活躍している。
そして、なにより領地運営でも高い能力を持っているのだ。
そんな人物に対して主君になり得るはずの国王が切り取り自由と言った。
それは穿った見方をすれば、カイルの褒美はフォンターナ王家は出さないから自分で手に入れろ、と突き放したに等しい行為とも言えるのだ。
たとえ、ガロードにそんな気持ちはなかったとしてもそう考える者もいるだろう。
おそらく、リオンにとってもガロードが急にそんなことを言い出すとは思っていなかったと思う。
だが、国王であるガロードが他国の姫君であるシャーロットの前で、言葉が通じていないとは言えども一度口にしたことを引っ込めさせることは難しい。
ゆえに、とっさに思いついたアイデアを提示した。
カイルの領地問題とあわせて、俺を働かせるという一石二鳥の考えをひねり出したのだ。
すべての面倒事を放り出して宰相兼大将軍という職を辞し、リオンにすべてを押し付けて隠居しようとした俺を働かすために。
来年以降に起こるであろう戦に対する備えとして、人材の有効活用のために。
「ま、カイルは人に慕われているしな。きっと、色んな人が手助けしてくれるさ。もちろん、俺も微力ながら手を貸そう。カイルのほうはどうだ? 聖都跡地のあたりを狙う話をお前はどう思う?」
「ありがとう、アルス兄さん。ボクなら大丈夫だよ。頑張るよ」
「よし、なら決まりだな」
まあ、リオンの思惑がどうであれ、その考えに乗ってみようと思う。
せっかくカイルが結婚したのだから、領地云々の苦労はご祝儀代わりだとでも思うことにしよう。
お兄ちゃんとして多少の骨折りくらいならばやっても問題ない。
こうして、カイルを中心としたリード家は秩序が失われた無法の土地を救うために動き始めたのだった。
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