プレゼント交換
『もう明日には帰ってしまうのね、アルスちゃん』
『ええ。盛大な式を挙げていただき、二人に代わって感謝いたします、シャルルお姉さま。花嫁はきちんと責任を持って送り届けるのでご安心を』
『お願いね。私はいまだにあの魔導飛行船とやらが落ちちゃわないか心配でしょうがないの』
『そうですね。まあ、空を飛ぶ竜にでも襲われなければ大丈夫でしょう』
『ふふ、そんな怪物がいたらさすがのアルスちゃんもどうしようもないわね』
『全くです。ここらへんに竜はいないのですよね。もうあんな目に遭うのはコリゴリですよ』
『……え?』
『ん? どうしましたか、シャルルお姉さま?』
『えっと、私の勘違いかしら? 空飛ぶ竜に襲われたことがあるのかしら、アルスちゃん?』
『あれ? そう言えば、言ってなかったでしたっけ? 魔導飛行船に乗っているときに空竜に襲われて大変だったんですよ。あ、そうだ。これどうぞ。実際の話とはちょっと違って脚色されていますが、その時の話をもとに作った絵本です』
カイルとシャーロットの結婚式が無事に終わり、その他の日程も消化されていった。
残すところは後一日で、明日には帰ることになる。
そのため、こうしてシャルルへと歓待に対しての謝意を伝えているときだった。
魔導飛行船の話になったために空竜に襲われた話をした。
そして、自分の魔法鞄に絵本が入っていたことを思い出したのだ。
これはいい機会だと思ってシャルルに絵本を手渡す。
絵本についている文章はこちらの文字でシャルルには読めないだろうが、それでも絵を追っていけばストーリーは十分理解できるはずだ。
シャルルはその絵本をじっくりと読み込むように目を通していく。
『すごいわね。こんなにわかりやすくて、面白いお話の絵がついた本というのはきっと貴重なものなのでしょうね。もらってもいいのかしら?』
『もちろんですよ、シャルルお姉さま。気軽に買えるというほど安くはないでしょうが、それは子ども向けに作ったんですよ』
『子どもに向けて? 本を子ども用に作るなんて豪華ね。しかも、こんな絵を描き込んでいるし。一冊ごとに絵を描くなんてしていたら、やっぱり値は張るものではないかしら?』
『そうでもありませんよ。魔法で絵そのものを別の紙に複写していくだけですから、一枚ごとに手書きで描くような手間にはなりませんし』
『……驚いたわ。本まで魔法で作っているのね』
『そうですよ。まあ、それができるのは西でも今のところ我々くらいでしょうけど。ちなみにブリリア魔導国ではどうなのですか?』
『実は最近になって羊皮紙に複写するための魔道具が完成したの。私が何年もかけて研究させたのよ。やっぱり、情報を少しでも早くやり取りして共有していくのが重要だものね』
『同感です』
どうやら、シャルルは俺の渡した絵本の内容ではなく、その作りそのものに興味を持ったようだった。
まあ、明らかに創作物の現実味のない内容の絵本だからな。
ただ、竜は本当にこんな姿かたちをしているのか、なんて質問はされたのだが。
しかし、シャルルは意外と頭がいい人間なのかもしれない。
ガタイの良い肉体にもかかわらずに女言葉を使うというインパクトのある人だが、その肉体からは武人である雰囲気が強く感じられていた。
だが、ここまでシャルルと話していて感じたのは武門一辺倒ではないということだった。
カメラ代わりに【念写】を使って結婚式のシャーロットたちの姿を映したときや、今の絵本への食いつきからも、内政官としても優秀なのかもしれない。
というか、この人はブリリア魔導国の第二王子だったのだったか。
なんとなく話しやすい雰囲気だったので、王族ということすら時々忘れそうになる。
これも、この人の人柄が為せるわざなのかもしれない。
『そうだ。よければ、フォンターナ王国からブリリア魔導国に留学する際にはこのような本をもう少し用意しておきましょう。絵本に合わせる文章はそちらの言語に翻訳してみても面白いでしょうね』
『あら、いいわね。なら、私もお返しをしないといけないわね。後でなにかいい本がないか見繕っておくわ』
『ありがとうございます。実は私は本を集めるのが趣味みたいなところがあるので助かります』
そう言って、シャルルはその部屋にあった本などからも何冊か見繕って渡してくれた。
一応、平易な文章のものから、難解なものまでいくつかある。
これは助かる。
交換留学は来年以降の話ということでまとまっている。
ひとまず今回は国へその話を持ち帰り、人選を済ませて準備をする必要もあるからだ。
その間に今もらった本でも使って、留学候補生たちは最低限簡単な文章は読めるように準備しておいたほうが良いかもしれない。
こうして、カイルたちの東方での結婚はつつがなく終わりを迎えて、帰路につくことになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





