結婚式にて
『うう、きれいよ、シャルロットちゃん』
『涙もろいんですね、シャルルお姉さまは。はい、もう一杯どうぞ』
『ありがとう、アルスちゃん。いただくわ』
カイルとシャーロットの結婚式が執り行われる。
どうやら、ここでの結婚式もそれほど変わったものではなかった。
いわゆる教会と呼ばれる場所があり、そこに新郎と新婦が愛を誓い合って祝福される。
基本的な流れは似ているらしい。
が、ブリリア魔導国にはいくつかの種類の宗教があるというのが違いと言えば違いだろうか。
ブリリア魔導国はそれほど宗教について厳格な扱いはしておらず、誰がどの宗教であってもよく、仲が悪いというようなこともなく普通に日常生活を送っている。
が、東方では宗教国家も存在し、そこでは特定の宗教が大きな影響力を持っているという。
そして、最近はその国の宗教もブリリア魔導国で徐々に広がり影響力を見せ始めている。
ちなみに、ブリリア魔導国の王家が主に崇めている神はそれとは別の魔導の神だそうだ。
魔導神という神からもたらされた魔法陣の理論とそこから発展した魔道具を使って世のため人のために生きましょうというのが基本となる教義らしい。
だからこそ、新たな魔法陣をもたらした存在であるフォンターナ王国の人間と王族であるシャーロットが結婚することが認められたのかもしれない。
まあ、教義を単純に聞けばいいことのように聞こえるが、人によってはこの魔導神の教えも「魔道具を活用して世界を我らの手で安寧をもたらさん」などと曲解して使用するやつもいるらしい。
遣東使に出すメンバーはあまり過激な思想に染まらないように注意しておく必要もあるだろうか。
俺はカイルの結婚式を見ながら、そんなことばかりを考えていた。
が、そんな俺とは対照的に一緒に結婚式に参列していたシャルルは涙を流して二人を祝福していた。
やはり、こんなところまでシャーロットを警護するという名目を使ってついてきただけあってよほど仲が良いのだろう。
ウォンウォンとたくましい腕で目元を押さえながら男泣きをしていた。
「おい、記念に【念写】してやれ」
「了解です。念写。はい、できました。こちらをどうぞ、アルス様」
「ありがとう」
『……なにをしたの、アルスちゃん? それはいったい?』
『二人の記念すべき結婚式を永遠に残すために絵に残しました。どうぞ、差し上げますよ、シャルルお姉さま』
『……なにこれ? これは、嘘でしょう? あんな一瞬で目の前の風景を切り取って絵にしたというの? もしかして、これも魔法なのかしら、アルスちゃん?』
『ええ、そうですよ。【念写】という魔法です。バルカ家の領地で作られているバルカ紙に【念写】を使うと、一瞬にして絵や文字を書き記すことができるのですよ』
『信じられないわ。まさか、他にも魔法を持っていたなんて』
『いい魔法でしょう? 他にも記録として残しておきたい場面があるならおっしゃってください。お渡しいたしますので』
『あ、ありがとう、アルスちゃん』
『いえ、いいんですよ。私とシャルルお姉さまの間に遠慮はいりませんよ。しかし、ブリリア魔導国ではこういう魔法を使える者はいないのですか?』
『いないことはないかしら。ただ、やっぱり魔法というのは私たちの認識で言えば個人技の延長でしかないのよ。個人の資質に応じて魔力を利用して発現する力というのは強力ではあるけれど、全体としてみればそこまで重要視するものでもないかしら』
『でも、アトモスの戦士のような相手もいるのですよね? あいつら、個としてみるととんでもない強さだと思いますけど』
『ふふ。そうね。でも、数を揃えた魔道具の前にすれば、アトモスの戦士を相手取ることは可能よ。それに王族やそれに連なる一族であれば、一対一で戦っても彼らに後れはとらないわ。ブリリア魔導国としてはやはりうちよりも大国である帝国と、教義のために死すらいとわない兵ばかりの教国が要注意かしら』
『なるほど。ちなみに小国家群はどうなんでしょう? シャーロット様から聞いた話ではお父上の王はグランの作品を気に入っていたと聞いています。仲が悪いわけではないのですよね?』
『そうね。というよりも、あそこはあそこで小国同士が常にぶつかりあっているのよ。でも、外から手を出そうとすると、不思議と一致団結して抵抗してくるから、三大国は放置状態ってわけ』
『失礼。今、グランという名が聞こえてきたでござる。もしかして、グラン殿をご存知なのでござるか?』
結婚式の様子を次々と【念写】して紙に描写していき、それをシャルルに手渡しながら話を続けていた。
魔法のことから始まり、各国の情勢などについて話が広がっていく。
そんなふうに団欒しているときだった。
グランという名に反応して、一人の男が会話に混ざってきた。
それも、シャルルやシャーロットなどとは少し話し方が違う訛りの強い言葉だ。
ブリリア魔導国の人間が洋服のような服を着て結婚式に出席しているのに、ある一団だけが異彩を放つ格好をしている。
着流しのように布を体の前であわせて帯で止める、どこか和風の雰囲気を感じさせるその姿はグランが好む格好だった。
ということは、あれだろうか?
さっきからずっと気にはなっていたが、話しかけてきたこいつはグランの関係者なのだろうか。
急に話しかけてきたその男にこちらを攻撃するような気配はない。
ということは、なにか言いたいことでもあるのだろう。
一度シャルルに視線を送って、その男性について紹介してもらうことにしたのだった。
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