必要な機能
嬉しそうにカイザーヴァルキリーにいろんな知識を教え込んでいくカイル。
そのカイルの行動でだんだんとカイザーヴァルキリーにできることが判明していった。
まず、カイザーヴァルキリーの【共有】はほかのヴァルキリーの使う【共有】とは少し効果が変わっているらしい。
というか、同じでもあるし、多少変えられるとでもいったところか。
今までならば、お互いに【共有】を持つヴァルキリー同士で魔力や魔法を共有しあっていた。
が、迷宮核などと【合成】されたカイザーヴァルキリーは【共有】を持たない他者に対しても、一方通行で【共有】するという離れ業をできるようになったらしい。
カイルや他のリード家の人間に対して、カイザーヴァルキリーが【共有】を使う。
その際、それらの者がヴァルキリーと魔力や魔法を共有することにはならない。
あくまでも、カイザーヴァルキリーの脳の機能の一部を【共有】できるのだそうだ。
要するに、カイザーヴァルキリーの記憶容量の一部を【共有】状態にしているらしい。
カイザーヴァルキリーは【並列処理】を使い、自分の脳の機能の一部を貸し出し、そこにカイルなどが【念話】で覚えてほしいとして出した情報を【記憶保存】していく。
それらを【共有】された者たちは閲覧することもでき、さらには情報の新たな保存も可能なのだそうだ。
つまり、カイザーヴァルキリーのしていることはインターネットで言うサーバーのような感じに近いのかもしれない。
あくまでも、記憶する容量を多人数に貸し出しているだけで、カイザーヴァルキリー自体は情報の記憶くらいしかしていないのだろう。
なので、それほどカイザーヴァルキリーにとっては負担になっていないようだ。
「それって、リード家なら全員がその知識を【共有】できるのか、カイル?」
「ううん。そうじゃなさそうだね。これは実際にカイザーヴァルキリーに会って、この子から【共有】状態にしてもらわないといけないみたい」
「そうか。ということは、賢人会議での情報を【記憶保存】したいんなら、一度参加者たちにはカイザーヴァルキリーに顔を合わさせないといけないわけだな」
「そうなるね。そうすれば、今までみんなが出した情報をいつでも共有できるから、議論もさらに活発になると思うよ、アルス兄さん」
「……いや、そうはならないかもよ、カイル」
「え? どうして? だって、こんなに便利なことってないでしょ?」
「甘いな、カイル。甘すぎるぞ。そんなんじゃ、カイザーヴァルキリーのせっかくの力を使いこなせないぞ」
「ど、どういうこと?」
「今はまだカイザーヴァルキリーに【記憶保存】させた情報が少ないからいいんだ。だけど、今後覚えさせる内容は増え続ける。莫大な情報量であふれかえるんだ。しかもそれはすべてが正しくて有益な情報ではないかもしれない。間違っているかもしれないし、どうでもいい内容かもしれない。そんな玉石混淆の情報の海から、必要な情報を探し出すのがどれだけ大変なことになるか分かるか?」
「……そういうことか。そうだね。蔵書数の増えた図書館でも探している本を見つけるのはだんだん大変になってきている。言われてみれば、たしかにカイザーヴァルキリーの記憶した情報もすぐにそうなっちゃうかも。いや、それ以上に探しにくくなるのかな。でも、それならどうしたらいいんだろう……」
「検索エンジンを作れ」
「検索エンジン? それはいったい何なの、アルス兄さん?」
「情報の海から必要な情報をすくい上げるための仕組みだ。【共有】された情報の中から探したい情報の単語なんかで検索をかけて、それに関連するものを表示する方法だな。たとえば、『聖剣 作り方』なんて感じで複数の単語を組み合わせて、より検索したい内容を絞れるようにできればありがたい」
「そっか。鍵となる単語で情報を探せるようにすれば、知りたい情報を見つけやすくなるってことなんだね。でも、それじゃ【記憶保存】してもらった映像なんかは対象にできないよね。なら、映像には後付で鍵となる単語を紐付けさせるようにしてみるとか? うーん、どうすれば一番いいんだろう」
どうやら、このカイザーヴァルキリーの力はリード家ならば誰もが使えるというものではないらしい。
あくまでも、これから一度でもカイザーヴァルキリーに直接会って【共有】してもらわなければ使えない。
が、これはこれでメリットもあるだろう。
今、バルカニアにいないリード姓の者たちが勝手に知識を盗み見て悪用する危険性が減ることにもつながる。
知識の共有できる人物は俺やカイルが選んだ者たちに限ることにした。
これによって、限定的ではあるがカイザーヴァルキリーによるサーバー機能でインターネットのような道が拓けた。
が、かといって、それをカイルのように無邪気には喜んでばかりもいられない。
なぜなら、それがすぐに破綻する未来も見えていたからだ。
情報を手軽に保管できるというのは大変ありがたい機能だろう。
だが、今のバルカニアにある図書館ですら本が増えすぎて、探すのが大変になってきているのだ。
図書館には本の虫などと呼ばれるほど、読書愛好家が何人かいたのでそいつらに司書として働いてもらっている。
今のところは、その司書に聞けば、ある程度、どこにどんな本があるかは分かるようになっていた。
だが、カイザーヴァルキリーの記憶情報はそうもいかない。
なんと言っても、カイザーヴァルキリーは使役獣なのだ。
【念話】で覚えていてほしい情報を【記憶保存】してもらっているだけで、カイザーヴァルキリー自身は文字が読み書きできているわけではない。
あくまでも、送られてきた情報をそのまま保存しているだけだった。
そうなると、いずれ間違いなく記憶された情報の数は天文学的な量になる。
そこから、自分が知りたい情報を探すにはどうしてもそれ専用の機能が必要だ。
そして、それを作れるのはカイルくらいしかいないのではないだろうか。
カイルにはぜひとも前世で幾度とお世話になった某大先生に匹敵するような検索システムを構築してもらいたい。
【念話】の使えない俺はカイルに検索についての話を教えながら、頭を抱えて悩むその姿を他人事のように見守っていたのだった。
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