生態系への影響
「文化の調査、歴史の調査、とくればもう一つ調べないといけないことがあるか。誰か適任がいるかな?」
フォンターナ王国における歴史を調べてみようかと思った時、俺はほかにも調べておくべきことに思い当たった。
というよりは、歴史や文化よりも先に調べておいたほうがいいことかもしれない。
なぜなら、こちらは緊急性があるかもしれなかったからだ。
その調査とは「生物」についてだ。
フォンターナ王国やその他の地域も含めて、どのような生き物が生息しているのか。
これは動物だけではなく植物も、あるいは魔物までもを含めて調べたい。
というのも、俺が文化や歴史を知らなかったと同時に、このような生物についても全然把握できていなかったからだ。
むしろ、生き物についての調査はこれまであまり大々的にはなされてこなかったようでほとんどデータがない。
だが、最近ずっと気になっていることがあった。
それは生態系の変化がないかどうか、という点についてだ。
基本的に世界は食物連鎖というピラミッド構造で成り立っている。
ピラミッドの上部には捕食者となる生物がいて、その下にはその捕食者に食べられる動物が多数おり、更にその下には捕食者に食べられる動物が食べる動物や植物などが存在している。
力のある捕食者ほど数は少なく、逆に食べられるばかりの力の弱い生物は数多く子供を産むことで子孫を残していく。
それが全体で見ると非常にバランス良く成立しているのが自然界なのだ。
だが、そんな自然の成り立ちを破壊しかねない行為が近年になって二度ほど行われている。
それは、俺の東方遠征と西方探索だった。
天をつくほどの高い標高を持つ山々で人も動物も行き来できない状況にあった東方世界。
そこに俺は東方遠征軍を引き連れて山を越え、しかも、その後は転送石や転送魔法陣を設置して移動可能にしてしまった。
また、つい最近、空を飛ぶ魔導飛行船ですら一日では踏破できない遠距離にあった西の海とジャングルにもたどり着いている。
そして、そこで得られた珍しい物品をバルカに持ち帰り、それをフォンターナ王国内での取引に使っているのだ。
その取引している品の中にはこれまでフォンターナではなかった米や木綿などの植物もある。
あきらかに本来こちらの地域では生態系に存在しなかった生物を持ち帰っているのだ。
そもそもの話として人が行き来し、荷物を移動させている際にも知らずになにかの種や卵が付着してこちらに持ち込まれている可能性はある。
そこからどんな影響が生態系に出るかは全く予想もつかない。
というよりも、現状での生態系がどのようになっているかがわかっていないからこそ、影響が目に見える形で出てきたときには手の施しようが無くなっているかもしれないのだ。
もっとも、俺としても本当は最初からこの問題についてはしっかりと対応していきたかった。
だが、もっと優先すべき問題があったのだ。
それは病気についてである。
後世で後々問題になるかもしれない生態系への影響よりもすぐに広く影響を及ぼすかもしれないのが未知の病気だった。
フォンターナ王国の人間がそれまでほとんど交流のなかった東方やあるいは西の地で病気にかかるかもしれない。
それは当然、今までかかったことのない病気だろう。
つまりそれは、我々の肉体はその病気に対して抗体や免疫といった体を守るための備えがない病気である可能性があった。
そんな病気をフォンターナ王国に持ち帰ったらどうなるだろうか。
まったくガードのない肉体が人体に影響を及ぼす病気には勝てないだろう。
つまり、病気はまたたく間に広がってしまう。
冗談抜きでその地域全域で人が大量に死ぬ危険性があったのだ。
故に、東や西に行った者はそこから帰ってきた際にしばらくは病気がないかどうかチェックする必要があった。
すぐに他の人がいる場所に戻るのではなく、体を【洗浄】や【回復】、あるいは【浄化】をかけてからしか行動を許可しないようにしていた。
その対策の効果があったのかどうかはわからないが、今のところ、バルカやその周辺で謎の奇病が蔓延するといった事態には陥っていない。
まあ、今後起こらないという保証もないのだが、一応やれることはやっている。
そんな検疫のような仕組みだけはしっかりと作っていたのだが、生態系への影響を抑える対策は正直未熟だと思う。
というのも、俺以外に生態系への影響などというものを気にしている人間がいないからだ。
大量にある荷物の中に目にも止まらないような小さな植物の種や動物の卵がついていたとして、誰もそれを危険であるとは認識していないというのが大きい。
たぶんだが、それらはもうどこかの経路からこちらの地域に紛れ込んでいるのではないだろうか。
一応、最低限の手は打ってある。
勝手に東や西から生きた動植物を持ち帰り、それを無許可で増やす行為は禁止にしているのだが、それがどこまで有効かは正直わからない。
なので、その後の影響への調査だけはできるように今からしておくべきではないかと思っていた。
今まで、どこにどんな生き物がいるかは、その地元の人間しか知らなかった。
いや、地元の人間ですらどんな生物がいるのかはしっかりと把握できていないだろう。
それを徹底的に調べ上げる。
リード家の【念写】があれば、動植物を見たままに、写真のように紙に描くことも可能なのだ。
どこにどんな動植物がいるかを調べ上げ、その姿をきっちりと記録して、できればどんなものを食べ、どんな生活をしているかを記録していきたい。
つまり、動植物のデータを纏めた図鑑が必要になるということだろう。
ダーウィンやファーブルみたいな生き物の記録を執拗に収集するやつってだれかいないだろうか?
唯一思い当たるのは使役獣のデータを集め続けているビリーか。
ビリーはまだ使役獣の孵化についての仕事を続けているが、部下をつけて組織でやっている。
もしかするとその部下の中で、誰か独立して仕事をしたいと思っている生物マニアがいるかもしれない。
そんなやつがいるのであれば、そいつにフォンターナ王国やその周辺での生態系の調査を任せてみるのもいいか。
こうして、俺は歴史・文化・生物についてを調べるための専門家チームを作り上げて、徹底的に調査をしていくことにしたのだった。
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