文化と歴史
「うーむ、文化の保護とは言ったものの、どうするのがいいんだろうな」
リオンとの話の中で俺の中に明確化された問題。
それはフォンターナ王国で急速に失われつつあるかもしれない、目には見えない文化についてだった。
近年の激変する社会情勢によって、今後国にある文化がどう変わっていくかはわからない。
それぞれの地域で生き残っていく文化もあることだろう。
逆に人知れず消えていくものもあるはずだ。
だが、一定程度の保護は必要だと感じた。
やはり、なんといっても一度消滅してしまった文化というのは二度と戻ることはないからだ。
なので、国として文化を保護していくためにも財務大臣としての権限を使ってそこにお金を回そうとは思う。
思うのだが、では実際にどうすればいいのかというとこれが難しい。
というよりも、そもそも文化とはなんぞやという話になる。
現在のフォンターナ王国は旧貴族領を複数飲み込んで成立しているのだが、それぞれの貴族領は長い歴史の中で独立して文化を発展させてきた。
俺は旧フォンターナ領の中だけでもどんな文化があったかすらしっかりとは把握していない。
ましてや、それ以外の旧貴族領でどんな文化があったのかすら理解がないのだ。
「となると、やっぱり必要なのはしっかりした調査か。ペイン、いるか?」
「はい、なんでしょうか、アルス様」
「これから保護していくべき文化についてまとめた資料が必要だ。各地にある文化について調べてきてほしい」
「わかりました。しかし、どういう基準で調べればいいのでしょうか?」
「そうだな。さしあたって、100年くらい前からあるものかな。それを可能な限り見つけてくれ。それは形の有無に問わずに、すべてを把握したい」
「形の有無、ですか?」
「ああ。例えば、100年以上前に建てられた建物は文化財として登録して保存していくかもしれない。が、100年前の建物を作った職人の技術は形のない無形の文化財として保護する必要があるかもしれない。実際に目で見ることができる物も重要だし、それを生み出す技術や風習もそれと等しく重要だってことだな」
「……なるほど。有形、無形問わずというわけですね。その話ですと、建物や彫刻、工芸品、書物などの古典的な物が対象となると理解すればよいでしょうか?」
「そうだな。ただ、各地の祭りのやり方や音楽、演劇なんかも文化的に価値のあるものだろう。それらも把握したい」
「なるほど。芸術方面もですね。了解いたしました、アルス様。調査は少し時間がかかるかと思いますがよろしいですか?」
「もちろんだ。よろしく頼むよ、ペイン」
俺に知識がないのであれば、これを機にしっかりと調査でもしてしまおう。
そう考えて、俺はペインに文化についての調査を依頼することにした。
文化の保護と言えばなんとなく前世で聞いたことのある文化財という言葉が頭に浮かんだのでそれを利用する。
国などが「これは国にとって歴史的にも価値があると認める品だ」といって文化財として認定し、それを保護するシステムでも作ろうかと思ったのだ。
建物などが一番に思い浮かんだが、それ以外にも技術や芸術などの無形文化財も忘れるわけにはいかないだろう。
たぶん、ペインの調査では国中にある文化財を完全に把握するのは難しいのではないかと思う。
いや、逆に100年前という基準では多すぎるということになるかもしれない。
が、やるなら早いに越したことはない。
なぜなら、俺の魔法があるからだ。
【整地】や【壁建築】、あるいは【道路敷設】や【線路敷設】といった魔法がある。
この魔法があることによって、フォンターナ王国は日々開発が続けられていた。
荒れた土地を開拓してそれまでよりも効率よく利用できるように、再利用されていく。
しかし、それは言い換えると簡単に今までにあったものを壊して作り変えるということを意味していた。
どんどん壊して、新しく作る。
その結果、失われていくものも多いだろう。
もしかしたら、歴史的に価値のあるはずだったものが現在進行系で破壊されているかもしれない。
そのようなことを防ぐためにも、調査は不完全であってもいいからなるべく早くするほうがいいと感じたのだ。
「しかし、歴史的価値、か。その歴史もよく知らんのだよな」
文化財の保護について考えを巡らせていて、その根幹に位置するのが歴史の重要性だった。
どのようなものであっても、必ず歴史が存在する。
有形であれ無形であれ文化財は歴史的に価値があるからこそ、後世に残していく意味があるのだ。
が、俺はここでも無知だった。
文化について知らないことが多いのと同じように、歴史についてもあまりにも知らなかったのだ。
いや、一般的に言えば、俺は歴史について割と知っているほうだと思う。
生まれはしがない貧乏農家だったが、結婚した相手であるリリーナはまれに見る本好きだった。
そのリリーナによって数々の歴史書を読み解きながら解説を受けたこともある。
そして、それ以降、本を集めていた。
各地にある書物を集めてバルカニアでは図書館も作っている。
それに、攻め落とした土地ではなるべく書物を回収して、それをリード家の魔法である【念写】などを使って紙の本として複製もしてきたのだ。
だが、そのような本から歴史を学んだとして、果たしてそれは本当に正しいのだろうかという疑問が常につきまとっていた。
というのも、この地には昔から地域に深く根付いていた教会が歴史を捏造していたというのもある。
なにせ、初代王やその妻を利用すらしたシステムが構築されていたのだ。
何が正しい歴史なのか。
それすらわからない状態が今も続いているのだ。
そんな状態で歴史的価値のある文化財がなにかを認定することができるのかと疑問が出るのは当然だろう。
ならば歴史の研究もしていく必要があるのかもしれない。
これまでの各自の視点から正しいとされた歪んだ歴史ではなく、客観的視点と物的証拠を根拠とした歴史の調査。
それらをまとめ、さらには今後も続くであろうフォンターナ王国の歴史を記録していく作業部署があってもいいのではないだろうか。
そう考えた俺は、改めて文化だけではなく国内の歴史についても調べていくことに必要性を感じたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





