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神の服

「なあ、リリーナ。服飾のことで思いついたことがあるんだけど、聞いてくれるかな?」


「はい。なんでしょうか、アルス様?」


「前に話して今もリリーナが頑張ってくれている神様の依り代とそれに合わせる服のことなんだけどさ。リリーナが職人に作らせているのもいいと思うんだけど、一般からも広く公募してみないか?」


「……公募ですか? どういうことでしょうか、アルス様。もしかして、以前に神様に奉納した衣服は気に入られなかったということなのでしょうか?」


「ううん、そうじゃないよ。神アイシャは前回奉納した依り代とそれに合わせる服のことをたいそう気に入られていたよ。でも、同じ服をずっと着続けるわけにはいかない。だからこそ、リリーナはその後も依り代の新しい開発や服作りを続けさせているんだろ?」


「はい。私としては完璧に納得できる物をこそ、神に捧げるべきだと思っていました。ですが、アルス様が完成度の是非はともかく、今用意できる最高の品をひとまず奉じて、のちにさらに完成度の高いものをお納めしたほうがいいのではないかと言われましたので、そうしたのですが」


「そうだね。だから、そのことは神アイシャにも伝えてある。いずれ新しい体となる依り代と新作の服が届くって。でも、次が最後という決まりも別にない。つまり、俺が言いたいのは今後何度でも神様に服を奉納し続けることができるし、神自身もそれを望んでいるってことだよ」


「そうかもしれませんが、神様に奉納する衣服に誰ともしれない一般人の作ったものを選ぶのですか?」


「ちょっと違うかな。俺の考えはこうだ。どうせ、定期的に神に衣服を奉納するのであれば、それは行事にしてしまってもいいのではないかってこと。で、行事にするならそれを利用してもいいと思う。つまり、毎年決まった時期にドレスリーナで服飾の品評会を行うんだよ。お題は神の依り代に合う服を作らせて、それをリリーナを始めとした審査員が見定めて評価を下す。そして、高い評価を得た服を神に奉納するっていうのはどうだ?」


「なるほど。それは面白いかもしれませんね。でしたら、その品はパウロ教皇に清めていただくというのもいいかもしれませんね。最も優れた品を穢れなき状態で神界へと贈り、神に着ていただく。職人にとって何よりの名誉に違いありません」


「ああ、それはいいね。教会のことを無視して神アイシャと直接会ってばかりいたら文句が出るかもしれないし、一枚かませるのもありか。どうかな。この品評会をドレスリーナで開くっていうのは?」


「はい。私は賛成いたします、アルス様。職人たちも腕によりをかけて最高傑作の服を作り上げることでしょう」


 バルカラインという街の基本構造が出来上がった。

 バルカの領地で採れる産物を一箇所に集中させ、そこで効率よく物を作り上げて出荷する。

 いずれは一大工業地となればいいが、まず最初に手を付けようと考えたのが衣服に使える生地の大量生産だった。


 バルカラインで生地を大量に作り、それをバルカラインとフォンターナの街の間にあるドレスリーナで服にする。

 そこまではいい。

 が、それなら、ドレスリーナにももう一つ付加価値をつけたいと思ってしまった。


 現在のドレスリーナは多くの人をアパートに住まわせて、街全体で服を作らせている。

 その服は主にフォンターナ軍にて使用されていた。

 これまでは基本的に服は着る人間の体の大きさをきちんと採寸し、それに合わせて生地を裁断し縫製するのが一般的なやり方だ。

 だが、このドレスリーナでは違う。

 俺が医者のミームと一緒に統計をとって導き出した、S・M・Lなどといったサイズごとに既製服をつくるようにしていたのだ。

 この既製服としての作り方によって、今までよりも遥かに早く、多くの服を仕立てることができるようになっていた。


 俺としてはそれでいいと思っていた。

 フォンターナ軍に卸した軍服を実際に使用してみての着心地や耐久性などのデータをドレスリーナにフィードバックして、より良い服を作る仕組みができあがっていたからだ。

 実際に、ドレスリーナで作られる服の品質は上がってきている。

 なので、ドレスリーナの服は高い評価を得られると思っていたのだ。


 だが、俺の想像とは少し違うイメージが一般的に定着しそうな雰囲気を感じ取っていたのだ。

 というのも、ドレスリーナで作られた服はトレンチコートのような軍服以外にも肌着や下着などがある。

 それらももちろん、軍に卸していた。

 つまり、軍には毎年必ず兵に対して服を支給している。


 その結果、兵は新しい服を毎年手に入れられるので、古くなったドレスリーナ製の衣服を古着屋で売っていたのだ。

 これがどうやらあまり良くなかったようだ。

 いくら耐久性が優れているといっても、使えばどうしても傷んでくる。

 そんな傷んだ状態のドレスリーナ謹製の服を一般人は古着屋で買うのだ。

 そうするとどうなるか。

 一般人からするといつも古着屋にあるのは傷んだのが当たり前のドレスリーナの服ということになる。


 普通に考えれば使用されて使い古されたからこそそんな状態になっているのに、あまり事情を知らない人からするとドレスリーナは傷んだ服をよく作る場所なのかとイメージしてしまうらしかった。

 これが一人二人ならば放置していても良かったかもしれない。

 が、増えてくれば困る。

 ただでさえドレスリーナは既存の服よりも安く大量に供給できることを目指していたのだ。

 それが、ただ単に安かろう悪かろうの服を作っていると思われるのはあまりに心外だ。


 故にブランド力を高める必要があると感じていた。

 強制的に入らされる軍に無償で支給される服というイメージではなく、神に奉納されるほどの品質の服を作る街。

 そんなブランド力をドレスリーナに持ってほしかったのだ。

 そのための品評会だ。

 当然、審査員はこちらの息がかかった者を送り込み、ドレスリーナで作られた服を最終審査まで残そうと思う。

 神に奉納する衣服を一着に絞る意味もないのだから、何着かの奉納品に毎年ドレスリーナの服が入っていればそれは十分ブランドとしての力を与えてくれるだろう。


 あとは、ほかからも腕自慢の職人を呼び寄せる目的もある。

 我こそは神の着る服にふさわしい仕立て屋だと自信のある職人がドレスリーナで開かれる品評会に出てくれるだけでも価値がある。

 その後にドレスリーナで工房でも作ってその腕を奮ってくれないかと頼むのもいいだろう。


 こうして、俺はリリーナと共同で神の服の品評会を開催する準備を進めていったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一大ブランドとして広めたいのですね。 働く女性の服だったシャネルのように、、
[一言] ドレスリーナ・コレクション2020 ですね!
[一言] 季節の服とか品評会の時期に合わない代物も多そうやなあ(目反らし
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