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希望の街

「と、いうわけで西の地には冒険者の街を作ろうと思っているんだ。どうかな、おっさん?」


「なにが、どういうわけなんだよ、坊主。冒険者の街ってなんだ?」


「だからさ、いずれくるかもしれない未来に備える意味があった西方探索の話はおっさんにもしただろ? もしかしたら、領地を欲しがる騎士や貴族が西の地に領地を求める日が来るかもしれないって」


「ああ、それは確かに俺も聞いたさ。だけど、そこからどう、冒険者云々の話になるんだ?」


「そうだな。それじゃ、もう一度最初から順を追って説明しておこうか」


 バルカラインでバイト兄と話をし、その後、おっさんとも情報交換を行う。

 その中で俺がおっさんに話したことは、西の地の運営方法についてだった。

 俺は西を冒険者の街にしてみようと考えている。


 現状で俺が発見した西の海と接する土地。

 そこでは、フォンターナ王国では手に入らない海の幸が取れた。

 そのため、西で海の幸を採取し、こちらに持ってきて売ればどれも宝石のような価値がつくことになる。

 すでに現地ではヴァルキリーを投入し、土地の支配権確保を進めているところだ。


 そして、この西の地にはバイト兄に話したように将来に対する備えという意味があった。

 もしかして、フォンターナ王国がすべての貴族領を抑える天下統一のようなことを果たした場合についてだ。

 安定した国をつくるためには争いを無くす必要がある。

 そのためには統一を果たした原動力のフォンターナ軍も軍縮する必要も出てくるかもしれない。

 そうなった時、起こり得る心配は軍人たちの無職化だった。


 争いのない平和な世界になれば、今まで求めてきた軍の兵数は必要なくなる。

 最低限、平和を維持するための人員はどうしてもいるだろうが、軍は基本的に金食い虫の組織だ。

 どうしても維持費がかかりすぎるために減らす方向に動かざるを得ない。


 だが、そこで問題が生じる。

 今までは軍にいることで糧を得てきた者もまた存在するからだ。

 領地としての報酬を求める者もそうだが、軍縮されて働き場を失うことを嫌がる者も当然多く出てくるだろう。

 そんな者たちが国の方針に不満をいだいて、新たな動乱を引き起こす可能性がないでもない。

 故に備えておくという意味があった。


 だが、西の地はかなり扱いづらい場所でもある。

 なんと言っても魔物が多数おり、しかも強いのだ。

 ヴァルキリーの力を借りて縄張りという名の支配領域を確保したとして、それを広げ続けるというのも難しい。

 それになにより、西で手に入れた物を回収し、お金に換えるシステムが必要だった。

 そこで俺が考えたのが、冒険者という存在をつくるということだった。


 冒険者というのは西の地で働く勇敢な者たちの呼び名だ、ということにする。

 仕事内容はとりあえずこんな感じだ。

 最初はバルカラインに設置した転送魔法陣を使って西へとひとっ飛びする。

 そして、向こうにある拠点で冒険者登録をするのだ。


 冒険者登録をした者は、ジャングルの中、あるいは海に向かって冒険をする。

 そして、その冒険で情報、あるいは物品を持ち帰ることを目的とする。

 情報はなんでもいい。

 例えば、ジャングルで新種の植物を発見したとかでもいいし、それが食べられるものであったという報告でもいい。

 あるいは魔物を倒して、その魔物の素材を拠点にある登録所で買取してもらうこともありだろう。

 海の魚やその他のものを回収して買取させるのもありだ。


 その買取費用は少し高値に設定しておく。

 フォンターナ王国にいない魔物の素材などであれば、転送魔法陣で持ち帰るだけでも高く売れることは間違いない。

 買取金額を高くしておいても損はしないだろう。


 最初は冒険者の仕事はヴァルキリーが作った壁の中が主な仕事になるかもしれない。

 だが、だんだんその活動領域はその外へと向かっていき、真の意味で冒険が始まる。

 なにが高値で売れるかは全くわからない状態で、手探りで探していくことになるだろう。


「ちょっと待て、坊主。その冒険者とやらの制度をつくるのはいいが、人が集まるのか? 危険なんだとしたら誰もやらないんじゃないか?」


「そんなことはないさ、おっさん。基本的にまだまだこの世の中では貧乏なやつも多い。バルカでは減っているかもしれないけど、他の土地じゃ、食い扶持を減らすために家から放り出されるやつもいる。そいつらは今、フォンターナ軍が取り込んでいるが、それをこの冒険者制度で肩代わりするのさ」


「……なるほど。確かにいまだに徴兵制になったはずのフォンターナ軍に志願してくるやつはいるからな。つまり、そいつらは仕事を探している。そこに金を稼げる仕事として、冒険者という希望をちらつかせるのか」


「そういうことだ。魔物が強かろうがなんだろうが、一攫千金を狙えると思わせることが重要なんだよ。新種の魔物の素材を持ち帰れば数年は働かなくてもいいくらいの大金が手に入るかもしれないと思ったら、危険があってもやるやつはいるだろう」


「そうか……。迷宮街の探索者組合に近い仕組みにしようというわけか。だが、あれは魔石というものが採れたのが大きいはずだぞ。魔物素材だけじゃなく、魔石を掘れば金になったからこそ、力の弱い奴らでも探索者として仕事を続けられたはずだが」


「そうだね。だから、冒険者の最初の簡単な仕事として魔石拾いの代わりの仕事を用意しておく必要はある」


「なにか当てがあるのか?」


「ああ。樹液回収だよ」


「樹液?」


「そうだ。西の地に広がる森を俺はジャングルと名付けた。そのジャングルに生えている木には表皮を傷つけると変わった性質の樹液が採取できたんだ。それを初級冒険者には回収させてみるのもありだと思う」


「……木から採れる樹液なんかに価値があるのか?」


「もちろんだよ、おっさん。今回の西方探索で一番の収穫と言えば、この樹液の発見だったと言ってもいいと俺は思う。といっても、まだこれをグランに預けて研究し始めたところだから断言はできないけどな」


 冒険者は危険な仕事だが人生一発逆転の可能性もある魅力的な仕事である。

 こうすることによって、全国津々浦々でくすぶっている若者たちを魔物はびこる危険な土地に向かわせて自らの希望で仕事をさせることができるかもしれない。

 が、人間誰だって死にたくはない。

 おそらくは、そんな甘い言葉にのせられて西へと渡った人の多くは現実には大金を手に入れられないだろう。


 だから、そういう一般人を対象にした仕事内容も用意しておくべきだろう。

 冒険者ギルドにある常設依頼というやつだ。

 といっても、それは別に物語にあるようなゴブリン退治みたいなものではない。

 俺が用意しようと思っているのは樹液集めだった。


 ジャングルで空竜の死体を回収しようとしたときに木を切り、道を作った。

 その際に、切った木から樹液が出てくることに気がついたのだ。

 そして、その木を見てなんとなく見たことがあるような感じがした。

 シダのような植物が巻き付いていたりしたが、そのシダが巻き付いている木はおそらくゴムの木だ。

 といっても、一度だけ前世で見たことがあるだけで、本当にその木の樹液からゴムが作れるのかどうかはわからない。

 わからないので、とりあえずグランに頼んでゴムを作れないかと試しているところだ。


 もし、そうであればかなりありがたい。

 ゴムが手に入れば新たにできることが増えるだろう。

 あらゆるものに応用できるゴム。

 それをつくるための樹液集めという仕事を冒険者という職業のセーフティーネットにしようと考えているわけだ。


 そして、冒険者が集めた品はすべて転送魔法陣を持つバルカが登録所で買取、そしてバルカラインという魔導列車の街に持ち込み、売りさばく。

 いくら冒険者に多めに支払うと言っても、バルカが売りさばく金額よりは遥かに少なくなるはずだ。

 つまり、バルカは希望を持って西へ向かった青年たちに仕事を与え、そいつらが命がけで手にした品物を買い取り、売るだけで利益を得られる。

 少なくとも損はしない。

 なぜなら、現状でライバルとなる競争相手が存在しないのだから。


「と、いうわけで西では冒険者の街を作ろうとおもっているんだけど、どうかな、おっさん?」


「……いいかもな。それなら収益が上がる。こっちも自分たちで魔物を相手にせずに金を稼げるというのも利点だ。やってみる価値はあると思う」


 こうして、俺はおっさんの賛同も得たことで西に冒険者の街をつくることになった。

 異世界に転生してお約束の冒険者ギルドというものはあいにくなかったが、どうやら自分の手でつくることができそうで、思わずニッコリと笑みがこぼれてしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 可愛くて巨乳のギルド受付嬢は必須ですね!
[一言] 冒険者ギルドには、夢とロマンが詰まってる〜(笑) アレンの伝説にまた、1ページ加わったね。
[良い点] 冒険者ギルドはロマン。
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