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終わりを見据えて

「ふーん。まあ、お前がしたいことはわかったけど、やっぱりそれは本当に必要なことなのか?」


「どういうこと?」


「アルスだって知っているだろう? 今、フォンターナ王国は他の貴族領とにらみ合っている。ラインザッツ家やメメント家、それにパーシバル家なんかがまた同盟を組んで挑んでくるかもしれないってやつだ」


「ああ、その話か。三貴族同盟の復活だ、ってやつだね」


 俺が東方でシャーロットの結婚話をセッティングしたり、西で海を探したりしている間も、フォンターナ王国周りには動きがあった。

 それは国外の他の貴族がフォンターナ王国に対して共闘する動きを見せ始めたのだ。


 どうやらかつての勢いを失って大きく弱体化したパーシバル家までもを担ぎ出して、三貴族同盟を再度立ち上げたらしい。

 これはおそらく周囲への鼓舞が大きいのではないかと思う。

 かつて覇権貴族として君臨していたリゾルテ家を打倒した三貴族同盟であればフォンターナにも勝てる、と周囲に喧伝することができるという狙い。

 それに、敵対していたラインザッツ家とメメント家が共通の敵を作り上げることで、他に割くリソースを減らしてフォンターナに集中することができると踏んでいるのではないだろうか。


 そして、その三貴族同盟にほかの貴族を取り込んで、大貴族同盟などと名乗っているらしい。

 この大貴族同盟がフォンターナ王国に対して持ち出そうとしている大義名分は失われた聖都だ。

 かつて、王都の南西にあった聖都という教会の本拠地。

 それはまさにすべての人にとっての聖地とでも言うべき場所だった。

 その聖地を奪い返すのがフォンターナ王国と戦う理由であるといい、聖戦である、と叫んでいるようだ。


 どうやら、教会を通して争い厳禁としたのはそこまでの効果が見られなかったようだ。

 というよりも、火に油を注いだようになって、大戦でも勃発するのだろうかと心配になってしまった。


 だが、国のトップであるリオンはうまく対応しているらしい。

 実は大貴族同盟の中に含まれているはずのメメント家とは裏で取引が済んでいる。

 表向きは同盟に参加しているメメント家だが、その内実は王都圏から追い出されてしまった影響が大きく非常に厳しいものがあるらしい。

 そこに目をつけて、裏から取引を持ちかけていざ戦いが起こったときには戦闘に加わらないように言ってある。

 メメント家は東側に領地を持つ貴族であり、そこから攻撃が来ないというだけでも非常に大きな意味があった。

 あとはラインザッツ家などの西方面の主力にフォンターナ王国も集中すればいいだけだからだ。


「まあ、けどその話は今すぐどうこうってことでもないだろ。小競り合いはあるらしいが、大きな戦いに突入する可能性は来年以降だってリオンが言っていたから」


「いや、時期の問題じゃないだろ。国中がみんなで一致団結して戦おうってときに西の海にかまけている必要があるのかって話だよ」


「なるほど。まあ、そういう意見はあるかもしれない。だけど、これは必要な行動なんだよ、バイト兄」


「必要な行動?」


「そうだ。どっちかというとその大戦が終わった後の話だけどな」


「……お前がなにを言っているのかよくわかんねえよ。もっとわかりやすく説明しろ。なんで西の開拓が必要なんだよ」


「現状の戦力差を考えれば、たとえ大貴族同盟が相手でもフォンターナが負けることはそうそうない。軍の仕組みがあまりにも違いすぎるからな。だから、大貴族同盟とやらが聖戦を主張して挑んできて、それをフォンターナ王国が跳ね返したとしよう。最終的に教会の不戦協定を破った各貴族たちをリオンは処分して、領地を取り上げることになるはずだ」


「まあ、勝つか負けるかはやってみないとわからないけどな。油断しているとよくないぞ、アルス」


「ははは。そうだね、バイト兄。ただ、仮定の話だよ。どのくらいの時間がかかるかはわからないけど、フォンターナ側が大貴族同盟を相手に勝利して、その貴族が持つ領地を取り上げたとしてだ。その場合、リオンはその領地をどうすると思う?」


「そりゃあ、戦で頑張ったやつに与えるんじゃないのか?」


「そうだ。現状でもフォンターナ王国は土地の管理する者の数が不足気味だ。そこに更に遠方の土地を手に入れても管理しきれない。だから、リオンは戦で活躍した者や、これまでの功績、あるいは大貴族同盟に与せずにフォンターナについた貴族などに土地を与えることになるだろう」


「ふんふん。そうなるだろうな」


「で、もしもすべての貴族との戦いに勝利して争いが終わったと仮定しよう。フォンターナと敵対した貴族を倒し、その領地を取り上げて、配下に配る。その先はどうなる?」


「どうって、戦う相手がいなくなったんなら争いがなくなるんじゃないのか?」


「終わると思うか? バイト兄だったらどうだ? それまでは戦場で剣を振るって戦って、そしてその結果によって土地という財産を手に入れる可能性があったんだ。それが、すべての相手を倒して平和になったから、今後は二度と戦場にでる機会が無くなったと言われて納得するか? もしも、自分が領地を手に入れていなかったら、あるいは、手に入れた領地が自分の希望よりも遥かに少なかったらどう思う?」


「……そりゃあ、またどこかで戦が起こらないかと思うだろうな。ああ、そうか。要するにすべての戦いが終わっても、戦いたがるやつが必ず出てくるってことか」


「そういうことだ。まだ、気が早い話かもしれないけど、フォンターナがすべての貴族との争いに勝利した場合、どうしても国として安定を求めることになる。その安定に必要なのは戦いじゃない。むしろ、戦いがないことが重要なんだ。けど、土地がほしい配下の貴族や騎士にとってはそれはちょっと都合が悪いことになる。要するに、平和になっても好戦派が必ず出てくるってことさ」


「……なるほど。それはわかった。けど、そのことと西の海がどう関係するんだ?」


「好戦派たちの目を国内に向けさせないためだよ。平和になったのにもかかわらず戦が無くなったら困る連中は、たぶん、いざとなったら国内で争いの場を作り出そうとする。だけど、それは困るわけだ。だったら、外に目を向けさせるのが一番楽なんだよ」


「そうか、他のところでも土地があるならそこを領地にしようってことだな?」


「そうだ。だけど、現状で外って言えばどこになる? たぶん、その好戦派たちが目をつけるのは東方になる。けど、東方のブリリア魔導国とはカイルが婚姻関係を結ぶ相手でもある。あんまり戦う相手になることは望ましくない。故に、他の土地が必要なんだよ」


「じゃあ、お前が海を見に行くっていったのは、魚が食いたいんじゃなくて、それが理由なのか?」


「ま、海の幸が食いたかったのも事実だから、両方の意味があるかな」


 バイト兄に俺の考えを話すと、どうやら理解してくれたようだ。

 俺がネルソン湿地帯の向こうを見に行ったのは何も酔狂でというわけではない。

 一応、きちんとした理由もあるのだと知っておいてもらう必要があった。

 なぜなら、さっきの話の好戦派たちが担ぎ上げそうなのは、バイト兄だからだ。


 農民出身ながら成り上がり、幾多の戦場で活躍し、広い領地を手に入れたバイト兄。

 その性格は幼い頃よりは落ち着いたとはいえ上昇志向があり、仲間思いだ。

 そして、バイト兄は今もフォンターナ軍にいる。


 たぶん、さっきのような未来が来た場合、好戦派が領地がほしい、戦場に出たいと泣きついてくるのは俺やリオンではなく、バイト兄のような気がする。

 バイト兄はこれでなかなか面倒見がいいし、慕われているからだ。

 そこで、「よっしゃ、俺に任せとけ」などと言えば、バイト兄は平和になったフォンターナ王国で動乱を引き起こそうとした集団のリーダー格に担ぎ上げられることになるかもしれない。


 そうならないように、今からできるだけ手を打っておこう。

 こうして話して聞かせたのも予防のためだし、西の海を開拓するのもそうだ。

 バイト兄と話しながら、今後どうなっていくのだろうかとつい考えてしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そこで朝鮮出兵ですよ
[一言] アルス、あったまいいわ〜! おっちゃん、戦後の処理に全然気づかんかったわ〜(^ω^)/
[一言] なるほど、貴族の後の敵は魔獣たちになるのかも? ってアレらは強すぎるから現状ではムリなのかな?
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