帰国と助っ人
「おう、おかえり。どうだったんだ、アルス? 海は見れたかよ?」
「あ、来ていたんだね、バイト兄。なんだかんだといろいろあったけど、きっちり海を発見したよ。あとで持ち帰ってきたものをバイト兄も見てみたらどうだ?」
「つっても、魚とかそんなんを持って帰っただけじゃないのか? 俺は魚よりも肉が好きだからな」
「ところがどっこい、魚だけじゃないんだな、これが。向こうにはいろんな魔物もいたんだよ。どいつもこいつも強かったよ」
「お、そうなのか。へー、魔物がな。どんなのがいたのか聞かせろよ、アルス」
ネルソン湿地帯を越えての海を探す探索事業は第一回を無事に終えた。
いや、無事と言ってもいいものなのだろうか。
魔導飛行船が大破したのであまり無事とは言えないが、俺が転送魔法陣を向こうに設置したのでこれからは行き来だけなら安全に行うことができる。
ちなみに、魔導飛行船は今のところ俺専用の乗り物という扱いだったりする。
最初は大量に作ろうかとも思ったのだが、やめた経緯がある。
せっかく空の上にある天界という安全な俺の寝床を作ったのだ。
そこに許可なく入ってこられる可能性のある魔導飛行船を大量に作る気にはなれなかったのだ。
だが、魔導飛行船はたった一つだけしか作らなかったというわけではない。
前世で聞いた話だが、常に失敗を想定して予備も作っておくほうがいいという話を思い出したからだ。
試作機がなんらかのトラブルで壊れたとしても、それと同じ予備機を作っておけば安心だということもある。
そのため、墜落した魔導飛行船は大破してしまったが、今は予備機が俺の専用機として使用されている。
こうして、西の海の入り江で転送魔法陣を作った俺はバルカニアに戻ってきた後、魔導飛行船を用いてバルカラインに降りてきていた。
ここは現在急ピッチで都市開発を続けていて、少し前に見たときともまた風景が変わってしまっているほどだった。
そこで、遊びに来ていたバイト兄と鉢合わせたのでこうして話しているというわけだ。
「へー、空竜に羽獅子に大蛇と大亀か。それ以外にもいるみたいだし、北の森の比じゃない魔境だな。そんなところに転送魔法陣を作ったとして意味があるのか?」
「ん? そりゃ、あるに決まってるでしょ。こっちでは手にはいらない物を手に入れられるんだよ?」
「そうだけどさ。話に聞いた限りじゃ、西の魔物と戦えるのは当主級である俺やお前やバルガス、あとアトモスの戦士くらいじゃないのか? どうやって、西の土地を確保し続けるんだよ?」
「おお。さすが領地経営になれてきたバイト兄は言うことが違うね。昔なら俺も戦わせろって言ってただろうし」
「茶化すなよ。で、どうするんだ? アトモスの戦士の力を借りるのか?」
「それもいいかもね。けど、ほかのもっと頼れる助っ人に西の土地を確保する仕事は任せるつもりだよ。そっちのほうが確実だしね」
「他の助っ人? 誰がいるんだ? リオンに頼んでフォンターナ軍でも出してもらうつもりか? でも、フォンターナ軍はあくまでも対人間の軍で魔物相手はそこまで得意じゃないはずだけど」
「あはは。フォンターナ軍をそんなところに連れていったら被害甚大で大変なことになるよ。そうじゃないさ。助っ人はヴァルキリーに頼むつもりだ」
「……ヴァルキリー? そうか、角ありたちを転送魔法陣で連れていくのか」
「正解だ。ヴァルキリーは最高の戦力であり、そして、魔法を使える魔獣でもある。支配領域の拡大にはもってこいだよ」
バイト兄が質問してくるので、俺は今後の予定を少し話すことにした。
指摘された通り、向こうの魔物の強さは別格だ。
当主級であっても一人で戦うには危険が大きい。
そんなところに拠点を作ったところで意味があるのかと思うのは当然だろう。
だから、そのための戦力を投入することにした。
魔法を使える角ありヴァルキリーの群れを西に送ることにしたのだ。
ヴァルキリーは今や最強の一角といってもいいだろう。
群れで魔力を【共有】し、数多くの魔法も使える。
たとえ、出会った魔物たちが攻撃魔法を使えたとしても【防魔障壁】という魔法まで持っているのだ。
最終手段として【裁きの光】があるので、万が一とてもかなわないと思うような相手がいるようなら、その魔法も使用する許可を出してもいいだろう。
そんな角ありたちを拠点から放つ。
周囲の魔物を駆逐して、安全を確保するのが狙いだ。
そして、その周辺の危険度が下がった後は壁の設置もするように言ってある。
【壁建築】でいいので、ヴァルキリーの行動範囲を取り囲むように壁を作らせるのだ。
それは言ってみればマーキングとしての意味をもたせている。
この壁の範囲内はヴァルキリーたちの勢力で、縄張りであると周囲の魔物に主張するわけだ。
魔物といっても、別にゲームのモンスターのように相手を見かけたら無条件でバトルを挑んで襲ってくるわけではない。
その地に自分たちでは敵わない相手がいるとわかれば、近寄ってくることはなくなってくるだろう。
こうして、俺は転送魔法陣を設置した西の拠点から一時帰国したあと、向こうの土地の安全確保をヴァルキリーに委ねることにしたのだった。
ただ、この作戦には一点だけ気になる点がある。
空竜の存在だ。
空を飛ぶ巨大で強力な竜。
それはいくらヴァルキリーが壁を作り、縄張りを囲んだところで意味がないかもしれない。
空竜はほかにもいるのだろうか?
魔導飛行船を捕獲して移動していたことを考えると、竜の巣があってもおかしくはない。
俺はそのための対抗策を考えておく必要に迫られたのだった。
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