発見
「おう、そっちは大丈夫だったか、タナトス?」
「ああ。でかい魔物がいたから倒した。強かった」
「タナトスが強いっていうのはかなりの相手だな。バルガスも大変な目にあっていたみたいだ。ここはちょっと危険だな」
ジャングルをあちこち動き回り、俺の探索チームはようやく一人の要救助者を見つけることに成功した。
どうやら、着地に失敗して足の骨を折っていたようだ。
すぐに俺が【回復】を使い、拠点としている塔まで戻っていった。
その途中で大きな音が聞こえてきた。
何かが戦っている音だった。
危険だが、拠点に来られても困るために俺たちもその場に急行した。
そうしたら、そこでバルガスたちの探索チームが魔物と戦っていたのだ。
俺たちが遭遇したのと同じ魔物だった。
でかい図体にもかからわずものすごく速い速度で走り回りながら攻撃してくるその魔物をバルガスが防いでいた。
体の表面に魔力を高めて防御力をあげながらひたすら魔物からの攻撃に耐え続けるバルガス。
バルガスが攻撃を受け止めながら、他の者が岩弩杖や氷精槍で攻撃を加えていた。
だが、決め手にかけた攻撃しかできておらず、持久戦模様になっていた。
それを見た俺はすぐに援護攻撃をして、なんとか無事に助けられたということがあったのだ。
それに対してタナトスのほうはでかい蛇のような魔物に襲われたようだ。
巨人化したタナトスが力の限り暴れてなんとか倒したという話を聞かされた。
タナトス以外がその大蛇に巻き付かれていたら危なかったかもしれない。
どうやら、この鬱蒼としたジャングルのような森はかなり危険な場所のようだった。
「うーむ、どうしようかな。なんだかんだでバルガスもタナトスも要救助者を見つけてきたからな。ここで転送魔法陣を作って帰ったほうがいいのかもな」
「ん? 帰るのか、アルス? 海が見たいのではなかったのか?」
「そうだけど、さすがにこれ以上は移動が難しいだろ。魔導飛行船はもう飛べないんだぞ?」
「そうか。残念だな。せっかく海を見つけたのに」
「なに? それは本当なのか? 海を見つけたのか、タナトス」
「ああ。助けて連れて帰ってきたやつを見つけるまでに崖があった。その崖の向こうは海があった」
「……案内できるか? 道を覚えているのか、タナトス?」
「もちろんだ」
「よし。ならすぐに、ってわけにもいかないか。とりあえず今日はここで一夜を明かそう。で、明るくなったらタナトスが見つけた海を確認しに行こう」
思わぬトラブル続きだったが、いい知らせをタナトスが持ち帰ってくれた。
どうやら、海があるようだ。
空龍に襲われた場所からどれほど離れたのかわからないが、意外と近くまで来ていたのだろう。
その日は疲れを取りつつ体を休め、そして、朝日が昇り始めたころになってタナトスの先導のもとに海を見に行ってみることにしたのだった。
※ ※ ※
「おおー、本当に海があったな。よく見つけてくれたよ。ありがとうな、タナトス」
「……すごいな。本当にずっと向こうまで水があるぞ、大将」
「そうだな。……いや、まだわからないか。これが本当に海なのか、もしかしたらでかい湖なのかは確認しないとな」
「海だと塩が水の中に入っているんだったな」
「そのはずだ。といっても、俺も実際に海をこの目で見るのは初めてなんだけどな。とにかく確認してみよう」
タナトスが案内する道なき道を進み、言っていた通り崖を発見した。
そこからはたしかに海が見えた。
が、ちょっと降りられそうにはない地形だったので、そこからさらに迂回しながら海を目指して移動を続けた。
そして、そのかいがあってようやく白浜に到着したのだった。
どうやら、ここは崖を背後にしながら大きくUの字に突き出た入り江のような地形になっているようだった。
海の方にまで伸びた崖が波が来ないようにしてくれているためか、白浜にまで届く波は低く穏やかだ。
ちょっとしたプライベートビーチのような雰囲気のあるところだった。
「水は……、うん、塩辛いな」
「へー、どれどれ。……うお、なんじゃこりゃ。ほんとに塩の味がするじゃねえか」
「だからそう言ったでしょ。これは海水で間違いないと思う。一応あとで上から遠くを確認してみようか」
「なあ、大将。この海水って飲めないのか?」
「まあ、そのまま飲んだら逆に脱水症状でも出るんじゃないかな。飲むのは【飲水】の水だけにしとけよ」
「へー、けど、こんなに辛い塩水なのに魚はなんで泳いでいるんだ? あいつらはこの塩水を飲んでいるんじゃないのか? 平気なのか?」
「淡水魚と海水魚の違いだな。川の魚は海の水の中では生きていられないはず。ここにいる魚は塩水の中でも生きていられる体をしているんだよ。たぶんな」
「へー、まあなんでもいいか。食えるんだよな? 捕まえてみようぜ、大将」
「ちょっと待て。その前にもう一度ここに拠点を造ろう。もし、ここに魔物が来ても大丈夫なようにしておいてから、周囲を調べてみようか」
「そうだったな。置いてきた空竜の回収もしに行かないといけないからな。よし、さっさと済ませて海の魚とやらを食おうぜ。聞いたな、お前ら。キリキリ働けよ」
どうやらバルガスは白浜からも見えている海の魚をすぐに食べたいようだ。
その気持ちは俺もわかる。
バルガスの掛け声にあわせて全員が動き出し、この入り江に拠点を造り始めたのだった。
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