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「……なんだ? なんか嫌な感じがする」


「アルス、これはやばいぞ。なにか来る」


「お、おい。どうしたんだよ、大将? それに、タナトスの旦那も」


「わからん。けど、なんとなく嫌な感じがするんだよ、バルガス。これはあれか。不死者の王級に強烈な圧力を感じるぞ。おい、操縦士。すぐに魔導飛空船を移動させろ」


「は、はい。了解です。どこに行けばいいでしょうか?」


「どこでもいい。とにかく動かせ。すぐにこの場を離れるんだ」


 ネルソン湿地帯を越えて西の地を見ようと考えていた俺たち。

 魔導飛行船に乗って、空の旅と洒落込んでいたのだが、その日のうちには湿地帯を越えられなかった。

 そのため、そのまま飛行機の中で寝ることにしたのだった。


 魔導飛行船はその設計段階で浮遊石を用いて作られている。

 そのため、なにもしない状態でも地上には降りずに、地面から離れた高いところを浮いている状態になっている。

 下が湿地帯であるので、いちいち着陸せずにそのまま魔導飛行船の中で体を休めていたのだ。


 だが、その寝ている状態でも俺とタナトスが嫌な気配を感じ取った。

 どう表現していいかわからないが、なにか嫌な感じがビンビンしている。

 それは、不死者の王が放つ穢れた魔力とは違うのかもしれないが圧倒的強者に感じるプレッシャーのようなものだったのかもしれない。


「大将、あっちだ。向こうからなにか飛んでいるぞ!」


「どこだ、バルガス。あっちか。……なんだあれ? 翼の生えた魔物か?」


 動き始めた魔導飛行船の窓から外を見ていたバルガスが声を上げる。

 その声の指摘する方向へ俺も視線を向けた。

 たしかに、バルガスの言う通り、何かがいる。

 翼膜がついた大きな翼をバサバサと羽ばたかせるようにして空を飛んでいる生き物だった。


 暗い。

 もう真夜中で明かりのない夜ではそれがなんなのかがはっきりとはわからなかった。

 だが、なんとなく竜の一種ではないかという気がした。

 翼のある空を飛ぶ竜。

 それが明らかに魔導飛空船に向かって飛んできていたのだ。


 失敗したかもしれない。

 操縦士を休ませるために夜は飛行しないことにしていた。

 何より、海を探して移動していたために暗くなる夜に飛行することは躊躇われたのだ。

 だが、今更ながらに飛んでいればよかったと思う。

 少なくとも日中に飛行中はあんな化け物とは遭遇しなかったのだから。


 魔導飛行船は浮遊石を構造材に使用しているために常時浮いている。

 が、それは地上300mくらいの高さだった。

 精霊石に魔法陣を書き込んで岩を出し、重さを調整できるようにして地上へは近づくように設計している。

 だが、重りなしの状態での高度300mは空を飛ぶにはいささか低すぎた。


 なので、魔導飛行船の形は前世で見ていた飛行機の形を踏襲していた。

 なだらかな丸みを帯びた先端で胴体は筒型。

 そして、その胴体部分から左右に突き出た両翼にプロペラがついている。

 プロペラが回転することで前に進む推進力が生まれるが、そのプロペラがついている翼はきちんと揚力が発生するようにカイルにも計算してもらって作っている。

 これによって、プロペラを回して飛んでいるときには、発生した揚力によって高度をあげることができたのだ。


 そのために、魔導飛行船が飛んでいる最中の高度はおおよそ10000mほどにもなる。

 これは確か前世での飛行機と同じくらいの高度だったように思う。

 こんなに高く飛ぶ必要があるのかと周りから言われもしていたが、どうやらこの世界でも意味はあったのかもしれない。

 なにせ、そこまでの高度では他に飛んでいるやつなど見かけなかったからだ。

 たぶん、そんなに高く飛ぶのはいかなるモンスターでもいないのだろう。


 だが、プロペラを止めて地面から浮いた状態になっている今の300mくらいの高さであればそうではない。

 鳥なども飛んでいるし、それ以外のモンスターもいたのだ。


 失敗した。

 フォンターナ王国やその周辺の地域ではそれでも大した影響はなかったのだ。

 だが、人類未踏の地では違った。

 こんなに強力な、空を飛んでいる化け物がいたのだ。


「駄目だ、追いつかれるぞ、大将」


「ちっ。仕方ない。攻撃するぞ」


 どんどんと近づいてくる謎のモンスター。

 鳥のような翼ではなく、コウモリの羽のような翼膜のついた翼を持つ爬虫類のような見た目をしている外見が近づいてきたことでわかるようになった。

 それが羽ばたき一つでぐんぐんと接近してきて、こちらに2本の足を向けてきた。

 もしかしたら、見たことのない空飛ぶ物体を見つけて、捕まえようとしているのかもしれない。

 まるでとまり木に止まろうと足の指を広げてつかもうとしてきたのを見て、俺は攻撃を加えることにした。


 腰につけていた革の鞘から剣を抜き取る。

 その剣は光そのものだった。

 暖かく柔らかな光を放つ、しかし、実体の見えない剣。

 かつて不死者となったナージャすら倒した光の剣だ。

 これは不死者に対しての特効もあるが、しかし、元の空絶剣としての機能も残っていた。


 魔導飛行船に掴みかかろうとしている竜に対して、魔導飛行船の中から迎撃する。

 本来ならば相手に対して斬りつける剣という武器を、魔力を込めてその場で振るう。

 すると、その斬撃は剣の軌道上ではなく、魔導飛行船の外の今まさに掴みかかろうとしていた竜に対して効果を発揮した。


「くっ、浅かったか」


「ギャアアアァァァァァァァス」


 だが、その光の剣による空間を超越した攻撃は失敗した。

 お互いの位置が空中で猛スピードで移動しているうえに、空飛ぶ竜の正確な位置が窓から見えにくいところになっていたためだ。

 どうやら攻撃した場所が少し狙いからズレていたようで、浅く切りつけただけになってしまったようだった。


 その急な見えない攻撃に空飛ぶ竜が怒り狂った。

 というよりも、予想もしていなかった小さな虫けらに噛まれてしまったので、つい手で叩いたとでもいうように、胴体から伸びていたしっぽを振って魔導飛行船を叩きつけたのだ。


 ガンっと大きな音がして、飛んでいた魔導飛行船が大きく傾く。

 たった一撃だった。

 それによって魔導飛行船の翼が破壊され、大きな揺れに襲われた。

 それまでは比較的快適な空の旅だったのに、一転して状況が変わってしまった。

 まるで回転式ドラム洗濯機の中で回される洗濯物のように、俺たち乗員の体は船体の中でシェイクされて体を打ちつけてしまった。


 そして、不覚にもその際に頭を打ち付けて、俺は意識を失ってしまったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勝った!第三部完!
[一言] 知能の低い野生の獣なら、不可解なダメージを受けたらびっくりして距離を取ると思うのだけど。自己回復力に相当な自信があるか、お互いに傷がつく縄張り争いを常時しているような狂犬タイプなのかな? 高…
[良い点] 地球では高度1万mを飛んでる鳥って、一応記録は残ってるようなので、条件さえあえば不可能ではないんですね。
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