暗号化と盗用
「そう言えば、グランに聞いたぞ。カイルが魔法陣の解読を手伝ってくれたって感謝していたよ」
「あ、うん。そうなんだ。困っていたみたいだからボクも手伝ったんだよ。魔法陣っていうのも結構色々できて面白いよね」
「だな。特に今まで魔石は魔力の補充ができるものでしかなかったからな。それを魔法陣を使って魔道具として活用できるんだ。便利ってもんじゃないよ。でも、本当によく解読できたな」
「そうだね。かなり複雑で、魔装兵器とかだけだと解読は無理だったかもしれないね。まあ、それも教会の魔法陣とかを見ていたから解読に繋がったんだから、世の中って不思議だと思うよ」
「ん? 教会のってことは名付けの魔法陣のこととかか? あの魔法陣が解読のきっかけになったのか?」
「そうだよ。たぶんだけど、大元は一緒なんじゃないかな? 共通する部分もあって、それがいい手がかりになったんだよ」
魔導飛行船や魔導列車の開発をしながら、なんとなくカイルに話しかけた内容。
それは魔法陣についてだった。
魔装兵器や岩弩杖、あるいは東方の魔道具から、カイルが魔法陣を解析したことでこうして新たな道具を作ることができるようになった。
だが、実はそのためのヒントは教会の魔法陣にもあったらしい。
東方での魔法陣は基本的に勝手に盗まれないように暗号化というプロテクトがかけられていた。
それを解除し、さらに魔法陣の意味を読み取っていく必要があったという。
幸いにもグランもいくつかなら魔法陣を知っていたのもあり、それらも手がかりにはなった。
だが、一番のヒントは教会の名付けの魔法陣だったそうだ。
教会で使われている魔法陣は俺が洗礼式で【記憶保存】したものをそのまま使えば名付けができた。
一目見るだけでは覚えられない複雑なものだが、それを完全に魔力で再現すれば同じ効果を引き出せる。
つまり、あれは暗号化されていない、むき出しの魔法陣という名のプログラムだったのかもしれない。
その魔法陣は円の中にいくつもの幾何学的な模様やなんらかの文字が使用されていた。
それらの文字は魔法陣用の文字とでもいうのか、現在一般には使用されていないものだった。
が、東方の魔法陣は明らかにそれと似た系統の文字が使われていたという。
おそらく大昔から教会で使われていた魔法陣用の文字と、現在のブリリア魔導国で使われている魔導文字は共通のルーツを持つのだろう。
だからこそ、カイルは両者を比較することで魔法陣を解読することに成功した。
とまあ、カイルは簡単そうにそう言っているが、実際にはかなり難しい作業だったことは明らかだろう。
「しかし、カイルが魔法陣の仕組みを解析できたんであれば、今後は魔道具を東方から仕入れる必要もなくなりそうだな。調理用の加熱の魔道具なんかも作れるってことだろ?」
「そうだね。アルス兄さんの魔法で魔石も作れるし、他の魔道具も色々ここで作れそうだよね」
「いろいろ便利になりそうだな。加熱や照明器具も作れるだろうし、俺が精霊石を用意して作った回転機構を利用すれば作業効率も格段に上がるはずだ。風車もいらなくなるし、麦の刈り取りなんかも省力化できるかもしれないな」
考えるだけでいろんなアイデアが出てくるな。
魔導飛行船や魔導列車が完成したら、次はトラクターでも作ってみようか?
麦を収穫するときは鎌を片手にひたすら手作業で刈り取る必要があるが、その作業が必要なくなるかもしれない。
しかし、そのための材料の精霊石は俺が作らなければならない。
そうなると数が用意できないが、精霊石も作れるように呪文でも作るべきだろうか。
回転機構は便利な分、他の者に利用される可能性もある。
検討が必要かもしれない。
「……あれ? よく考えたら、まずいか?」
「え、なんのこと? なにがまずいの、アルス兄さん?」
「いや、東方、特にブリリア魔導国では魔法陣の技術ってもともとあったわけだろ? その技術を俺たちが抜き取ってこうして使うことができるようになった。けど、それって逆も言えるんじゃないか?」
「逆? ……あ、そうか。アルス兄さんは向こうで魔法陣を使っているんだったよね。それが盗まれるかもしれないってこと?」
「そう。それだよ、カイル。俺は東方でシャーロットの部下たちに対しても名付けを行っている。それはもちろん、教会で見て覚えた魔法陣を使ってだ。あれって魔力を見ることができれば魔法陣も見えるってことだろ。で、その名付けの魔法陣は一切暗号化されていない古典的な代物だった」
「つまり、シャーロットさんたちがアルス兄さんが使った名付けの魔法陣を見て覚えた可能性があるってことだね。それは確かに危険かもね。今はアルス兄さんが現地に行って名付けをしているけど、その方法を盗まれたら勝手に名付けが広がるかも」
そのとおりだ。
カイルの言う通り、教会の魔法陣が完璧に再現できればそのまま運用できる非暗号化魔法陣であるというのであれば、それを盗めるのが俺だけとは限らない。
もっとも、魔法陣はかなり複雑だから一度見た程度ではとても覚えきれるとは思えない。
が、東方でシャーロットの部下に名付けをするときには必ずシャーロットが立ち会っていた。
その時は、契約した取引の通り、きちんと名付けをしているかどうかを確認しているのかと思っていたが違うのかもしれない。
何度も魔法陣を見て、それを覚えようとしていたのかもしれない。
もし、シャーロットが名付けの魔法陣を手に入れたら、おそらく自分の国で使うことになるだろう。
聞いた限りでは向こうでは教会のような組織はなく、魔法使いは一般的ではなかった。
おそらく、大昔にあった魔法の伝導のための魔法陣の技術は歴史上のどこかで途絶えてしまったのだと思う。
そこに魔法使いを一気に増やせる技術を手に入れられたとしたらどうだろうか。
魔法使いを増やすとしたら、それは俺の魔法だろう。
壁を作り、道を作り、魔石も作れる数多くの魔法を使える者が東方で一気に広がる可能性がある。
それは向こうの国々のパワーバランスを大きく変えることになるかもしれない。
そうなったら、どんな事態になるのか想像もつかない。
魔道具をこちらで作れるようにもなったことだし、東方との契約は中止すべきかもしれない。
俺は今更ながらに危ない橋を渡っていたことに気がついたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は星の数を選択するだけでワンタッチで可能になりましたので、まだ本作を評価しておられない方はぜひ高評価をお願い致します。
また、本日第二巻が発売となります。
活動報告には販促用POPのイラストを公開していますので、そちらもあわせてご覧になって頂けたらと思います。
どうぞ宜しくお願い致します。





