魔導飛行船
「すごいね、アルス兄さん。これはなにかな? かなり大きいものを作っているみたいだけど」
「お、カイルか。いいところに来たな。どうだ、一緒に乗ってみるか? グランと作った新飛空船だ」
「へえ、これって飛空船なんだ。なんだか今までの飛行船と比べると違いが大きそうだね。形もなんだか変わっているし」
「まあな。けど、形が変わっただけじゃないんだぞ。かなり航空能力が上がったはずだからな」
俺が飛行船の研究を始めてから、しばらく経った頃だった。
俺とグランの様子をカイルが見に来たのだ。
そのカイルが新しくできつつある飛行船を見て驚きの声を上げた。
カイルが見たのは飛行船とは言えない代物だった。
それまでの布の胴体の中を炎で空気を膨らませて空を飛ぶ楕円形の飛行船。
それとは大きく形を変えたそれは飛行機と言っていいものだと思う。
まず、全体的なシルエットが大きく変わっていた。
胴体部を筒状にし、両横に翼を付けたのだ。
その突き出た翼状部分の真ん中にプロペラが取り付けてある。
胴体の左右に翼があるために、ひとつの飛行機に対してプロペラは2つあることになる。
そのため、シルエットだけで言えば完全にプロペラ機の飛行機になっていたのだ。
この形になったのは、やはり前世の記憶から知識を持ってきていたからだ。
空気抵抗という空を飛ぶ上で最大の敵を攻略するために、長い年月をかけて研究された形であるというのが大きい。
浮遊石という素材を利用して作っているため、浮くのは簡単なのだが、それが前に進むためにはやはり似たような形にするのが一番良かったのだ。
基本的には浮遊石の持つ性質があるために、放っておいても勝手に浮く。
なので、高度を調整する機能も一応つけておいた。
それは魔導兵器の技術を一部利用している。
精霊石の核に魔力を送り、重りとなる岩を出現させるのだ。
その岩の重さで飛行機の重さを変えることで擬似的に高度を調整する機能を追加した。
ちなみに地上に降りたときは、ロープか何かで地面とくくりつけておかないと勝手に浮き上がってしまいかねないという欠点があるが、まあそれくらいはいいだろう。
そして、肝心の推進力はこれまた魔導兵器の技術を流用した。
岩の巨人を任意で動かすという遠隔操作の魔法陣を改良して、回転運動を引き起こしてそれによりプロペラを回すことに成功したのだ。
精霊石の核に魔力を込めて出現した硬化レンガの部品が運転手の意思によって回転し、それによって翼部分のプロペラが回る。
このプロペラが空気に作用して前に進む力を生み出すのだ。
それまでの飛行船が気流の流れに乗るだけか、あるいは風見鳥という使役獣数匹に紐をつけて引っ張らせるという原始的なものだったのに比べると技術的にも大きく変わってくる。
そして、それは速度と運行距離にも大きな違いを与えた。
今までのものであれば空の上をゆっくりと移動するしかなかったのに対して、この飛行機であればかなり速く移動できる。
しかも、宙に浮くという浮遊石を利用しているために、持てる魔力を全て推進力に振り分けることができるのだ。
一日で進むことができる距離も圧倒的に延びた。
「へー。すごいね。何人ぐらい乗れるのかな?」
「今作っているこの魔導飛行船だと詰めれば200人くらいは乗れるのかな? まあ、席がキツキツになっちゃうから長時間乗るとしんどいだろうけど」
「それでも、半分に減らしても100人は乗れるんだね。前の飛行船の乗員数よりはるかにいいじゃない。でも、もっと大型のものは造らないの?」
「今はまだこの魔導飛行船を改良していくことが大切かな。胴体の形や翼の形も改良が必要だし、プロペラ部分もそうだ。それに、内部の椅子の置き方ひとつとっても吟味しないといけないだろうな」
「ふむふむ。でも、本当に面白いね。とくにこの回転するだけの機構が面白いと思う。応用範囲が広そうだよね。飛行船だけじゃなくて、ほかのものにも使えそうだ」
「そりゃそうだ。これが成功したら、地面と水上にも対応することができるようになるだろうからな」
「地面と水? あ、そうか。列車とか普通の船にも使えるよね」
「そうだ。特に列車は早いところ実用化を目指してもいいだろうな。なにせ、今はヴァルキリーが引っ張っているけど、魔導列車が完成すれば昼だろうが夜だろうが移動が可能になるし」
「いいね。よし、それならボクも協力するよ、アルス兄さん。回転機構はどこにあるの?」
「それならグランがいくつか作ってあるはずだ。こっちだ」
やはり、カイルも男の子ということか。
乗り物系を見た瞬間、目の色が輝いて自ら列車の開発を申し出てくれた。
作り始めて思ったのだが、乗り物を作るというのは奥が深い。
魔導飛行船で言えば、羽の角度やプロペラの構造などで性能がガラリと変わってくる。
とりあえず試作一号機は完成したのだが、完成したそばからもっと改良したい場所が見つかったのだ。
そのため、次に作ろうかと思っていた列車や船などは後回しになっていた。
それをカイルが手伝ってくれるというのであれば、これほどありがたいことはない。
なにせ、カイルの頭脳を以ってすれば、構造上計算しなければいけない部分のシミュレーションがあっという間に終わるのだ。
こうして、カイルの協力によって、バルカニアでは陸海空の乗り物が恐竜的進化を遂げることになったのだった。
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