研究の変貌
「おお、成功したのか、グラン」
「やってみるものでござるな、アルス殿。魔導人形の材質をこれまでの岩から硬化レンガに変更することができたでござるよ」
「いいね。硬化レンガは通常の岩よりも遥かに硬い。金属かと思うくらいだからな。それに色が白っぽいから今までの岩よりも体として使いやすいかもな」
「いや、それだけではないでござるよ。魔導人形の構成材質を硬化レンガに変えられるということは、魔装兵器にも転用できるということでござる。あれはもっと大型化できるでござるよ」
「魔装兵器を大型化?」
「そうでござる。これまでのブリリア魔導国で開発された魔装兵器には欠点があったのでござる。それは、精霊石を核として作り上げた魔装兵器の構成材質がありふれた岩だったことでござる。あの岩を材質として使用している限り、魔装兵器の大きさは3mを超えられなかったのでござるよ」
「……そうか。関節部分が自重に耐えられないってやつか。岩が材料だと3mを超えてくると自己修復機能があってもその体重を膝が支えられないとか、そういうことだな?」
「そのとおりでござる。しかし、より硬さのある硬化レンガを使用できるのであれば、魔装兵器はもっと大きくできるでござるよ」
「いいな。それなら、魔装兵器も改良してしまおうか。材質を硬化レンガに変えて、大きさを大きくする。そうだ。ついでに、タナトスから型でも取らせてもらって作るのはどうだ? 魔装兵器も武器を持てるようにできれば面白いだろ」
「いいでござるな。魔導人形での動作確認で、かなり複雑な動きが再現できることが分かっているのでござるよ。巨人状態のタナトス殿から型を取らせてもらえば、武器ぐらい握って戦える魔装兵器ができるに違いないでござる」
あれやこれやと精霊石に魔法陣を書き込んでの研究をグランと続けていた。
その結果、面白い成果が得られた。
それが今まで精霊石から出てきていた岩を硬化レンガに変えるというものだった。
これはシンプルながらに、大きな成果だと言えるだろう。
なにせ、硬化レンガは下手な金属よりも遥かに硬い物質なのだ。
それを構成材料にできるというのは魔導人形だけに限らず、魔装兵器にまで影響を及ぼすことが考えられた。
さっそく、考えついたアイデアを実験する。
その結果、それまでの3mという大きさを超える魔装兵器を作り上げることに成功した。
それもタナトスと同じ5mで、しかも、今までのゴーレムのようなものではなく、人のように複雑な動きも可能となった。
これならば、武器を持って暴れさせることもできるだろう。
ただ、メリットもあればデメリットもあるようだ。
今までの魔装兵器であればたとえダメージを受けて破損しても、そのへんの岩を使って自己修復できた。
だが、構成材質を硬化レンガに変えると修復の効率が落ちるようだ。
破損を治すための岩の量がより大きくなってしまうようだった。
その分、ダメージを受けにくいという面もあるが、飛行船から落とすのは破損を直しやすい岩タイプのほうが便利かもしれない。
使い分けを考えておいたほうがいいだろうか。
「でも、とりあえず魔装兵器、並びに魔導人形の研究はこれで一段落ってところかな? 魔導人形は日常動作は問題なくできるように調整が終わったから、あとはリリーナ監修の体が必要になるだけだし」
「そういえば、以前アルス殿はこんなことを言っていなかったでござるか? 魔装兵器の研究をするときに、回転するだけの機能のものがあってもいいかも、と言っていたのを覚えているでござるよ」
「あ、そうそう。たしかにそう言ったな。そうなんだよ。魔装兵器や魔導人形は人の形をしたものを意識を集中して操作しないといけないだろ? そうじゃなくて、誰が使っても一定の速度で回り続ける道具みたいなものがあれば面白いかなと思ったんだよ」
「一応、それも研究はしたでござるよ。遠隔操作の魔法陣を組み込むかわりに、回転するだけの効果を持つ魔法陣を書き込めばいけるはずでござる」
「あ、もう作れるんだな。なら、ちょっと作ってみるか。ちょうど改良したいものもあったしな」
「改良したいものでござるか?」
「うん。飛行船を改良しようと思っているんだよ」
アイシャの依り代を作る研究が一息ついたが、その後もグランとの研究は続く。
研究対象が人形から動力へと移った。
以前、俺がグランに言ったことをきちんと覚えていて、調べてくれていたようだ。
グランは精霊石から出した岩が魔力を込めると回るという動作を繰り返す仕組みをすでに作ってくれていたのだ。
それを利用して俺が作りたかったもの。
それは新たな飛行船だった。
バルカニアを天界として空に浮かべたときから感じていたことがある。
それは、もう少し航空能力があればいいなというものだった。
今でもバルカには飛行船というものが存在している。
だが、この飛行船もけっして万能のものではなかったのだ。
今ある飛行船は炎鉱石という魔力を込めると炎が出る石を利用している。
ガスバーナーのように高火力の炎が出ることを利用して、袋の中の空気を温めて膨張させ浮力を得るのだ。
気球から発展した飛行船は、言ってみればただのでかい風船に人が乗る用の小舟を底につけただけに過ぎない。
そのため、乗員可能な人数は10名程度でしかなく、しかも、その飛行船を動かすための動力は風だった。
空にある空気は常に複雑に動いている。
いわゆる気流というものがそうだ。
そして、風の動きを読むことに長けた風見鳥という使役獣に飛行船を引かせてその気流に乗ることで、飛行船は空を移動することを可能にしていた。
だが、これは天気が少しでも荒れると使えない方法でもあった。
気流が乱れていれば乗員が落ちかねないほど揺れることになる。
雨が降っても困ることが多い。
意外と飛行船に乗れる条件というのは限られていたのだ。
だが、グランが開発した回転動力があればそれも変わる。
というか、飛行船も今までのように炎鉱石を利用した浮力に頼らなくなるというのもある。
浮遊石だ。
神界で発見し、バルカニアを空へと押し上げた浮遊石は、一切の魔力も必要とせずに宙に浮く。
その浮遊石で船を作り、そこに回転動力を用いて作ったプロペラでも取り付ければ、今までの飛行船よりも遥かに使い勝手のいいものができるに違いない。
こうして、俺とグランは人形作りから100人乗っても大丈夫な空飛ぶ乗り物づくりへと研究内容を変貌させていったのだった。
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