徹夜作業
「駄目でござるよ。こんな形をしていたのでは炉の中で熱が効率的に使えないのでござる」
「作りが甘い。まだまだでござる」
「どうしたのでござるか、アルス殿。寝るにはまだ早いでござるよ。拙者が照明をつけておくので気兼ねなく制作するがよかろう」
「一応及第点にギリギリ届くようになりましたな。ではもう少し大型のものを設置していくでござるよ」
「もっときちんと作るでござる。それではたとえ使用できてもすぐにだめになってしまうのでござるよ」
「いいでござるね。これならなんとか実用可能でござろうか。では次に行きましょうぞ。ふいごを作るのでござる」
「全く、アルス殿はなんとものを知らぬのでござるか。炉があっただけで鍛冶ができるわけではないに決まっているのでござるよ」
「いいですかな、アルス殿。炉に火をおこしても風を吹き込まねば温度は上がりませぬ。そのために風を送るふいごが必要なのでござるよ」
「ふいごは木で作るから自分は関係ない? 何を言っているのでござるか。そんなことではいい武器など手に入るはずもないでしょう。さあ、早く一緒に作り上げましょうぞ」
「いいですな。これはいいですな。やはり炉にあわせて新しく作り上げたふいごはまさに鍛治場の芸術品でござるよ。アルス殿もそう思うでござろう。ほら、しっかりと目を開けてよく見るでござる」
「これで終わり? 何を言っておるのですか。まだまだ終わりではございませんぞ。ほかにも必要なものはあるのです」
「鍛冶に必要なのは炉ですが、炉にくべる燃料というのもバカにはできないのでござるよ。燃やすものが悪くてはよいものができぬのは道理でありましょうぞ」
「そうです。ただ焚き火に薪をくべるようにしていればよいというものではないのです。木炭を作らねばならぬでござるよ」
「また炉を作るのか、でござるか? 当然でござるよ、アルス殿。絶対に必要でござる」
「この村は非常にもったいないのでござるよ。広大な森があり、木材が豊富。であるというのに上質な木炭を作ることができる人が一人もいなかったのでござる」
「よいですか、アルス殿。木炭づくりの秘訣は空気を遮断することにあるのです」
「薪は火がつき燃えると灰になるのでござる。しかし、密閉して空気を遮断するとどうなるか。木は灰にはならずにその形が残った状態で燃えるのです」
「いい木炭ほど使いやすいのでござる。ですが、この村ではそのようないいものが手にはいらないのでござる」
「そうでござるな。アルス殿もだんだんわかってきたではありませんか。なければ自分で作る。それが作り手というものです」
「拙者もあちこちを旅して来たのでござる。必要なものが手にはいらなくて涙をながすことも多々ありもうした。しかし、作り手たるもの泣き言は言えないのでござる」
「どうして一箇所に留まらずに旅をしているのか、でござるか。……まぁいろいろあったのでござるよ」
「ああ、駄目でござるよ、アルス殿。そこはこうしなければ気密性が保てませぬ。話をするのは構いませぬが、手は抜かぬように」
「うん、うん。いい感じでござるな。これならよい木炭が作れるのでござるよ」
「さあ、火入れでござるよ。なに? もう何日もまともに寝てない? 大丈夫でござる。それくらいで人は死なぬのでござるよ」
「そんなことよりも火入れでござる。何事も最初が肝心なのでござるよ。なに、拙者の指示通りやれば失敗はないのでござる」
「拙者にやれとおっしゃるのでござるか。ですが、この炉を作り武器を所望するのはアルス殿、あなたではござらんか。であれば、最後までやりきる気概を持たぬようでどうするのでござるか」
「さあ、早くやるのでござるよ。あっ、そんなに雑に扱っては駄目でござる。貸すでござる。よいでござるか、こうやるのでござるよ」
「うむ、見事な炉でござる。暖かな火が部屋に充満してきたではござらんか。暑い? この程度まだまだ序の口でござるよ」
「さあ、次はいよいよ大猪の牙を武器に変じていくのでござる。よく見るでござる。この牙はただ研ぐだけでもそれなりの武器にはなるのでござる。ですが、さらにここで触媒と兼ね合わせて……」
「ってどこに行こうというのですか、アルス殿。まだ説明の途中ですぞ。ああっ、何処に!!!」
アホか!
武器づくりのためにグランの設備建設をかってでたらほとんど寝る間も惜しんで働かされてしまった。
あいつあたまおかしいよ。
ものを作るクリエイターの頭のネジの飛び具合をなめていたのかもしれない。
とにかくこれ以上付き合っていられるか。
俺はグランの手を振り切ってベッドに逃げ帰ったのだった。
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