魔装兵器の作り方
「さて、と。硬貨造りをしている間にもう一つやっておくべきことがあるか」
画家くんに仕事を依頼し終えた後、俺は次の仕事に取り掛かることにした。
それは、かわいいお人形を作るという仕事だ。
神界にいる神であるアイシャに依り代となる魔導人形をもっとかわいくしろと注文を受けている。
もともとは人間大の人型ではなく、高さ3mを超える岩の巨人である魔装兵器が大元にあった。
それを小型化しただけの無骨なゴーレムのような体をアイシャが気に入らないという気持ちもわからなくはない。
なぜなら、魔装兵器だったときは細かな動きを要求されなかったからだ。
本来の魔装兵器の存在意義は、東方で巨人であるアトモスの戦士に対抗するために作られた戦場での道具なのだ。
それは自動修復機能を持つ兵器であり、基本的には圧倒的な質量によって相手をなぎ倒すだけのものでしかない。
つまり、それを単純に小型化しても同じように複雑な動きはできない。
そのため、例えば包丁を握って料理をしたり、ペンをもって字を書いたりという、人間ならば日常生活でごく普通にしている動作ができないのだ。
アイシャのいう「かわいい人形」という定義は言葉通りの可愛らしいものという意味だけではなく、もう少し日常動作を行える機能のついた体を要求しているのではないかと思う。
けっして、無骨な人形を細身にして可愛らしい少女の顔を取り付ければそれでよし、というものではないのだ。
「というわけで、魔導人形を改良したいんだけど、あれはそもそもどうやって作っているんだ、グラン?」
「魔導人形、あるいは魔装兵器に必要なものはすでに分析済みでござるよ、アルス殿。基本的には土の魔石である精霊石といくつかの魔法陣が必要だったのでござる」
「精霊石はともかく、魔法陣もか。魔装兵器の核になっていた精霊石には確か表面に模様があったっけ? あれが魔法陣だったのか? でも、あれを再現して作った精霊石は魔装兵器としては使えなかったんだけど」
「そうでござるな。アルス殿が魔法で精霊石を再現できるのはもちろん知っているでござるよ。そして、それをしても失敗したということも。あの核の表面の模様はたしかに魔法陣に由来するものでござるが、あれだけを真似しても意味がないのでござる」
「……つまりどういうこと?」
「実は魔装兵器には複数の魔法陣が使用されていたのでござる。表面の模様はあくまでもそれらが混在して絡み合った状態だったということでござるな」
魔装兵器を解析し、魔導人形という小型化という形で解析や分析を終えたグラン。
そのグランは今、バルカニアに帰ってきていた。
ブーティカ家はひとまずお家の悲願であった不死者の王にすら通じる聖剣を超える武器を完成させ、しかしかつての罪を償うように当主を交代することになった。
その影響でルークが忙しくなり、バルカとブーティカ家の共同研究は一旦解消することにしたのだ。
そのグランに魔装兵器の作り方について質問をしたら、わかりにくい回答が返ってきた。
グランの説明をじっくりと聞いて、だいたいこんな感じというのを理解する。
長々と話し込んで分かった魔装兵器の作り方はおおよそ次のようなものだった。
まず、魔装兵器の核となる大きめの精霊石を用意する。
その精霊石に魔法陣を書き込むのだそうだ。
書き込む魔法陣の効果は精霊石に魔力を送り込むと岩が出現するというものを刻み込む。
そして、その魔法陣を入れた精霊石に魔力を込めて大きな岩を出現させた後、その岩を加工する。
魔装兵器にしたいのであれば岩の形を巨人にするのだそうだ。
そして、岩の巨人の形にしたら、その状態で表面に新たな魔法陣を書き込む。
これによって、その岩の巨人の形を規定し、次から精霊石の核に魔力を込めた際に岩の巨人が現れるようにするのだ。
更に工程は続く。
2つの魔法陣を刻み込んだ岩の巨人の体に新たに魔法陣を入れる必要があるという。
これは遠隔操作のためのものと、自動修復のための2つの魔法陣が必要になる。
実は魔装兵器というのは動いている間は常に岩同士がぶつかって削り落ちている状態なのだそうだ。
それを自動修復機能で無理やり直しながら動かしているのだそうだ。
すごいゴリ押しの手法だと感じてしまう。
そして、それらの作業がすべて終わったら、最後にもう一つ魔法陣を刻む。
最後の魔法陣は大きな岩の巨人である魔装兵器を持ち運びできるように、精霊石の核という形に戻すためのものになる。
その際に、これまで刻んだ魔法陣を暗号化するような機能もあるようだ。
複数の魔法陣をよくわからない模様に変換しながら核の状態に戻すことで、単純にその模様だけを見られてもコピーしにくくするための効果があるという。
つまり、魔装兵器に用いられていた精霊石の核はこれだけの手間と暗号化によって作られていたのだそうだ。
俺がそれを表面的にそのまま再現しても同じように使えなかったわけが分かった。
岩を発射する岩弩杖も同じように処理されているらしい。
「ようするに、小型化したのは省力化するためか。常に壊れ続けながら動く魔装兵器はその分、動かすための魔力消費量が多くなる。小さいほど維持する魔力量が減るってことね」
「そうでござる。重要なのはどのような魔法陣を用いればよいかでござるからな。わざわざ大きく作るよりも、小型のもので実験したほうが試しやすいというのもあったでござるよ」
「しかし、よく解析できたもんだな。暗号化された魔法陣を解読するのは大変だったんじゃないのか?」
「よくぞ聞いてくれたでござるよ、アルス殿。それこそが最も大変だったのでござる。カイル殿がいなければ詰んでいたかもしれなかったでござる」
「あ、そうなんだ。カイルも研究に参加していたんだな」
「拙者が頼んだのでござるよ。あまりにも複雑怪奇だったので、助けを求めたのでござる。いやー、カイル殿はすごいでござるな。拙者が故郷で見たことのある魔法陣を含めて、いくつかのものを参考に暗号を解読してくれたのでござるよ」
天才かな?
さすがとしかいいようがないが、まあ、カイルならそれくらいやっても不思議ではないように思う。
とにかく、これで魔装兵器の仕組みは理解した。
そして、説明のとおりであれば魔導人形の改良そのものはそこまで難しくないはずだ。
こうして、俺はグランと協力して神の依代の改良に着手したのだった。
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