新たな役職
「というわけで、今後フォンターナ王国の国王代理はリオン・フォン・グラハムに、大将軍はピーチャ・フォン・アインラッド殿が就任することに決まった。評議会にいる者もそれ以外の者も、彼らを助けて、この国を盛り上げていってくれることを期待している。以上、評議会を閉幕する」
俺が声高らかにそう告げると、評議会に参加していた者たちがそれぞれに話し合いながら部屋から退室していった。
彼らは皆、それなりに国で力を持つ連中なので、この冬はフォンターナの街でいくつものパーティーを開いてより内容のある情報交換などを行っていくのだろう。
「なんでそんなに朗らかな顔をしているんですか、アルス様は。どういうつもりですか。いきなり辞任するなんて」
「いや、リオンに言ったら止められるかなと思って」
「当たり前です。急にやめると言われて、はいそうですか、と了承するわけがないでしょう」
「でも、評議会に来ていた連中はそれなりに喜んでいただろ?」
「……そういう人もいたかもしれませんね。アルス様よりは私のほうが相手取りやすいと考えているのでしょう」
「話が通じる相手だと思われているだけだろ?」
「それはまあ、アルス様よりは常識が通じるでしょうからね。しかし、やり方というものがあるでしょう。いくらなんでも唐突すぎますよ」
「まあ、いいじゃん。うまくまとまったんだし。リオンのほうが能力あるんだから頑張ってよ」
「まさか自分だけ逃げ出して休もうなんてことを考えてはいないでしょうね?」
「いや、そんなことはないぞ。俺だって辞職して無職になったってわけじゃないんだから。やることはしっかりやるさ」
評議会が終わったので俺も帰ろうかと思ったらリオンに捕まった。
まあ、リオンが怒るのもわかる。
急に言われたら誰だって怒るだろう。
だが、決まったものは仕方がない。
これからのフォンターナ王国の趨勢はリオンにかかっているのだ。
やりたくなければリオンも他の者に押し付ければいい。
もっとも、リオンはそれをしないだろう。
一度は没落したグラハム家を再興するためにここまで頑張ってきて、王の代わりに国を動かすまでに上り詰めたのだ。
それを自分から降りることはしないだろう。
ちなみに宰相兼大将軍職を辞した俺は一応財務大臣に就任している。
一番の仕事内容はバルカ銀行でしっかりお金を造ることにある。
これは評議会にいたメンバーもあまり重要度を理解していなかった者が多かったが、実はかなり大切なことだ。
というのも、現在のフォンターナ王国では複数の貨幣が用いられている。
俺がバルカ銀行で作った銀貨とそれ以外の既存の貨幣だ。
それらが混在している状況なのだが、バルカ銀貨以外のほうがちょっと問題だった。
聖都をはじめとして複数の街が【裁きの光】によって街ごとお金が塩に変わってしまったという重大事件があったために、貨幣不足の懸念があるのだ。
流通しているお金が不足すると経済が停滞する。
商品を買いたいのにお金そのものが出回らなくなったら、買いたくても買えなくなる。
デフレの始まりになる可能性があるというわけだ。
なので、可能な限り社会にとって必要な量のお金を生み出し、供給し続けなければならない。
このへんの経済的な考え方を驚くべきことに貴族や騎士の集まりである評議会のほとんどの連中が理解していなかった。
たぶん、今まで基本的な税収が麦だったこともあるのかもしれない。
貨幣不足という概念そのものがないのだろう。
なので、それ専属でしっかりと経済を回す担当の者が必要だ。
今は俺がそれをやろうと思う。
ちなみに、そのための第一弾の策はすでに発動している。
パウロ教皇がトップを務める教会に対しての貸付がそれだ。
新しく教皇に就任して、フォンターナ王国に総本部を置いた教会に対して俺は多額の資金を貸し付けた。
たぶん、これはパウロ教皇にとっては向こうの立場を理解して、足元を見た悪魔的な所業だと思われただろう。
が、これはデフレ予防の策のひとつというのが正解だ。
パウロ教皇に貸し付けたお金はすぐに使われる。
各地にいた司教を臨時大司教相当という役職でフォンターナに集め、そこから組織を再編して失われた教会のパイプを再構成するには金がかかる。
つまり、教会を通して多額の貨幣が社会に供給されることを意味する。
実際のところ、今の俺にとって貸付という事業そのものはそれほど儲けにはつながらないのだ。
なにせ、自分のところで原材料となる銀を生み出して、それを貨幣にすることができるのだ。
金を稼ぐ必要もなく、作り出せる。
それをわざわざ教会に貸し付けるのは、作り出した金に意味をもたせるためでもあった。
が、このやり方にはそれなりに問題点もある。
ひとつは銀の価値そのものの変動だろう。
俺は白い犬人であるタロウシリーズを通して銀を作り出せる。
しかし、それは言い換えると銀はいくらでも作り出せる石ころと同じようなものでもあるのだ。
銀の価値そのものの暴落の危険性があった。
もし、銀が価値を失えばバルカ銀貨そのものに価値がなくなる。
そうなったら紙幣が紙くずになるのと同じになってしまう。
あるいは、銀貨以外の貨幣が値上がりすることになるのだろう。
そのへんの動きをきっちり見極めて行動していかなければならない。
それと同時に経済そのものも育てなければならないだろう。
いつまでも、農民が収穫した麦を権力者が取り立てるだけの社会ではいけない。
ゆっくりでもいいから確実に経済的に成長していかなければならない。
というわけで、俺は自らを宰相兼大将軍という仕事から財務大臣にして、動向を見極めることにしたのだ。
決して楽をしたかったからでは断じてない。
こうしてフォンターナ王国には最強の財務大臣が誕生したのだった。
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