新年最初の評議会にて
「明けましておめでとうございます、ガロード様」
「うん、おめでとう、アル。今度俺も天界に連れていってね」
バルカニアを空に浮かべてすぐ、年が明けた。
今はフォンターナの街にて新年の祝いで国王であるガロードに挨拶を行っている。
今までは当主代行である俺が挨拶を受けていたが、これからはガロードに対応してもらうことにした。
昨年は一気に国土が広がり、それにともなって挨拶に来る人の数が激増しているが、ガロードには頑張ってもらおう。
ちなみにガロードはまだ年齢一桁のお子様だが、それを侮るような者はあまりいない。
というのも、俺の魔力パスを受けて強化された状態であるがゆえに、今のガロードは魔力量からくる身体能力が化け物レベルなのだ。
バルカ城にいたときからバイト兄の軽い訓練を受けていたこともあり、最低限の体の使い方も覚えている。
なので、そのへんの騎士の一人や二人では逆立ちしても勝てない強さを持っている。
もしかすると、当主級ですら危ないかもしれない。
今のガロードを正面から見て、ただの子どもだ、と思うようならそいつはよっぽどの節穴ということになる。
最初はこうした挨拶や儀式での仕事がガロードの主な活躍の場所となるだろう。
そのうち、国王としての仕事を覚えてもらいたいが、ぶっちゃけて言うと俺も国王の仕事がどんなものなのかはさっぱり分からない。
そのへんのことはリオンにまかせておいたほうがいいだろうか。
「それではこれより、臨時評議会を始める。今回の議題は、今年のフォンターナ王国の動き方についてだ。リオン、後を頼む」
「はい、アルス様。それでは皆様にご説明させていただきます。ただいま、フォンターナ王国を取り巻く状況は大きく動いています。そのひとつは昨年にあった聖都消滅における影響で、フォンターナ王国におられたパウロ教皇が教会の指導者となり、この地を教会の総本部となされたことです。パウロ教皇はすぐに各地に連絡を取り、点在していた司教たちを大司教相当に引き上げるためにこの地に集結させることにしました」
新年の祝いでガロードに挨拶をしたあとは、通常ならば宴会が待っている。
が、今回だけは臨時で評議会を開いた。
フォンターナ王国でそれなりの地位にいるものが集まっている今は話し合いがしやすいからだ。
その評議会での議題は今後について。
その中でもいくつか重要なものが何点かあった。
まずは教会の動きだ。
パウロ教皇は以前話していた通り、各地から司教を集めて組織の再編を行っている。
すぐに行動に出たからか、年が明けるまでに各地から必要な人数はそれなりに集まっているようだ。
だが、その後にあった、教会からの声明が議論を呼んだ。
戦の禁止。
今までは割となにかあるたびにすぐに騎士同士や貴族同士が戦を始めていたのだが、それらを禁止するように声明を出したのだ。
一応理由はある。
ナージャが使った【裁きの光】でものすごく多くの人が亡くなったという事実があるからだ。
大きな街ならばそれひとつで数万以上の人が住んでいたところもある。
そんな街がいくつもナージャによって滅ぼされているのだ。
特に王都圏の南でその被害度合いが大きかった。
であるので、争い合うのはやめましょうと教会が声明を出したのだが、どうやら一応ほとんどの貴族や騎士はそれにうなずいたらしい。
しかし、すぐにそんなものはなかったかのように戦い出す可能性が高い。
なにせ、今まで各地で戦いが途絶えたことがなかったのだ。
血で血を洗う行為が続いていたのに、それを急にやめられるわけもない。
「やはり、要注意の勢力としてはラインザッツ家、メメント家、それにリゾルテ王国があるでしょう。しかし、それ以外にも注意すべき者たちがいます」
「大勢力の陣営以外に注意する相手がいるのか、リオン?」
「はい、アルス様。ナージャによって魔法を【収集】された貴族や騎士、あるいはその地の領民たちです」
「……そうか。なるほどな。ナージャが手当り次第に取り込んだ影響で魔力のつながりがめちゃくちゃにこんがらがっている。その影響で多数の魔法を使える人間がたくさんいることになるのか」
「はい、そのとおりです。現状では誰がどんな魔法を使えるのかははっきりと確認できないほどです」
リオンが言う要注意の者たち。
それはナージャが残した遺産とも言えるだろうか。
ナージャは自分が力を得るために、手当たりしだいに【収集】していった。
魔法を持つ騎士や貴族からもそうだが、継承権を持つ当主級、あるいは教会の神父からも【収集】をしていた。
そして、そのナージャを俺が倒した時、そばにいた初代ヴァルキリーがナージャの力を逆に【収集】してしまった。
それによって、俺はナージャが消え去った後も高い魔力量を維持することに成功している。
が、これには大きな問題点があった。
それはナージャが集めた多数の魔法が今も他の者に使用可能状態になってしまっているということだ。
例えば、ナージャは教会を襲って神父を殺し、その神父が名付けをした住民たちの魔力パスを【収集】した。
すると、その結果、ナージャの魔力は住人たちからの魔力で上がったことになるが、住人側からするとナージャが使える魔法が使用可能になったのだ。
もちろん、ナージャはバルカの魔法である【整地】や【壁建築】などが使えるので、それらを使えるようになった南部に住む人は今もいるはずだ。
一般的に言うと農民は魔力量が少ない者が多く、それほど脅威にはなりにくい。
が、まとまって行動するようになると脅威度は上がるだろう。
【散弾】や【氷槍】といった攻撃用の魔法が使えるのもそうだが、【防魔障壁】なんかがあることを忘れてはいけない。
魔法をうまく使えるように頭をこらせば、それなりの戦力になる可能性がある。
ただ、どうやら調べた限り、ナージャが使っていた【収集】を始めとする迷宮探索者が使用していたスキルのような力は名付けによって魔力パスで繋がったとしても使えないらしい。
おそらくスキルは魔法ではなく魔術寄りのものなので使えないのではないかと思う。
それとありがたいことに使役獣であるヴァルキリーの魔法もどちらかというと魔術のような扱いらしく、【共有】を使う者が現れたという報告もなかった。
もし、【共有】が使えたら【裁きの光】を使えるやつも出てくる可能性もあったのだが、どうやらそういう心配は必要ないらしい。
ただ、この問題はいずれなんとかしないといけないだろう。
理想を言えばヴァルキリーの数を増やして、人間とつながる魔力パスを切ることができれば一番いいのだが、それにはまだ時間がかかりそうだ。
その間に、数多の魔法を使えるようになった者たちがその力を使って行動に出る可能性もあるかもしれない。
あとはまあ、普通にラインザッツ家などの大勢力がどう動いてくるかだろうか?
とくに、教会の中心地を消滅した聖都からフォンターナに移して司教たちを集めたことにかなり文句を言ってきているようだ。
そのへんはパウロ教皇と協力して対処していくほうがいいだろう。
また、それ以外にもちょっと問題があった。
フォンターナの庇護下に入りたいという貴族がごく少数だが出現したのだ。
今まではなんだかんだいいながら、どの貴族も自分たちの独立性を第一に考えていた。
だが、それを覆して向こうからフォンターナの下につくと言ってきたのだ。
それを断るのはあまりよろしくない。
もし断れば、今後同じような申し出をしてくる貴族が減ってしまう。
が、かと言って、フォンターナ王国と距離の離れた貴族を取り込んでしまえば、そこを守る必要が出てくる。
もし、そこでなんらかの問題が発生したときに対処しなければ非難されることだろう。
配下を守れない王国など存在価値がないと言われてもおかしくはないからだ。
故に、庇護下に入りたいという貴族を取り込めば、それを守るために多大な労力がかかることになる。
なかなか難しいバランス感覚が要求される政治の世界に突入してきてしまった。
「みんな、よく聞いてほしい。俺から提案がある」
「提案ですか? どのようなことでしょうか、アルス様?」
「ああ、前から考えていたことだが、俺、アルス・フォン・バルカはフォンターナ王国の職を辞そうと思う」
「……職を辞す、ですか?」
「そうだ。で、後任はここにいるリオン・フォン・グラハム殿に譲りたいと考えている。賛成の者は拍手で応えてもらいたい」
難しい問題からは逃げるに限る。
こうして、俺は臨時評議会で辞任を申し出たのだった。
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