神との対話
「うわっ、びっくりした。アイシャさん、ですよね?」
「ええ。私の名はアイシャ。あなた方に神として利用されている存在です」
「さっそく使っているんですね、それ。使い心地はどうですか?」
「……あまりうまくいきませんね。まだ、慣れていないというのもあるでしょうが。これはあなたが作り、持ってきてくれたものだとカイルから聞きました」
「そうですよ。まだまだ、試作段階のものですからこれからもっと改良されていくと思うので、使い勝手はあとで詳しく聞かせてください」
「ありがとう。ですが、すごいですね。このように魔力だけで操作できる人型があるとは思いもしませんでした。この社にたまに入ってくる者たちからも、そのような情報はありませんでしたから驚きました」
「それはそうでしょうね。その技術は教会の影響下にない東方の技術を用いていますから」
神アイシャがカイルと一緒に神殿の入口まで顔を出した。
といっても、神像はいまだ神殿の奥に安置されたままだ。
では、いったい今目の前で俺と話をしているアイシャという存在は誰なのかというと、紛れもなく神様本人だった。
神殿に入ることができたカイルに持っていかせたものがある。
それは、新しくグランが研究開発していた魔装兵器だ。
アトモスの里で採れた精霊石という土の魔石に何らかの模様と技術を組み合わせて、岩の巨人として動かす兵器。
それをグランは調べ上げ、独自に作ってみたのだ。
だが、それは魔装兵器ほどの大きなものではなく、小型タイプだった。
巨人とはとてもよべないほどで、一般兵よりも低い身長、あるいは女性の平均身長くらいのものだった。
それを見て、俺はその魔装兵器とはよべないような魔導人形を神界へと持ってきていたのだ。
アイシャの依り代になるかもしれないと思って。
つまり、魔力で動く魔導人形の核をカイルが神殿に入り、神像へと触れさせたのだ。
その核に神像から魔力が流れ込み、もこもこと現れた岩でできた魔導人形を神像になりながらも意識を保っているというアイシャが操作しているのだ。
ちなみに、俺とも会話できるように発声もできるようにしている。
ラジオのスピーカー部分の構造を利用して、声帯となる岩が振動して音を響かせて発語できるようにしたのだ。
器用に女性の声になるように調整して声帯の岩を動かしているのだろう。
「というか、こちらの声が聞こえるのですね? 声帯はつけましたけど、耳となる鼓膜なんかは取り付けていないのですが」
「そのようですね。ただ、私は思念を読み取ることであなた方が言わんとしている内容を理解はできています。この社の付近くらいであれば、こうして会話をすることは可能なようですね」
「思念を読み取ることができるのですか?」
「ええ。といっても、表面的なものだけですが。心の奥底であなたが何を考えているかまでは読み取れません。あくまでも、口にして発した思いを汲み取っているくらいでしょうか」
「それでもすごいですね。で、ほかはなにかその依り代になっている魔導人形について意見などがあれば聞いておきますよ?」
「そうですね。では、もっとかわいく作ってください」
「……はい? かわいく、ですか?」
「ええ。これは岩でできた二足歩行する物体というだけです。もっとかわいく、せめて人のように見える感じにしてほしいです」
「な、なるほど。開発者には伝えておきましょう」
かわいく作れときたか。
まあ、確かに言われてみれば小型ゴーレムって感じで、見た目は非常に無骨なものになっている。
女性であるアイシャの依り代とするならもう少し外見もそれっぽいものになるようにしておくのもありかもしれない。
俺はフォンターナの街に帰ってきた後、一度ブーティカ家にも顔を出していた。
そこで、かつてあった出来事について、ブーティカ家に詰問したのだ。
どうやら、不死者の王を倒せる武器を作るというブーティカ家の悲願はやはり後ろめたい気持ちの表れからだったようだ。
当主だけが知る一子相伝のように伝わっていたらしい。
だが、昔の話すぎるというのもある。
アイシャを像にしたという事実を以ってしてブーティカ家を誅するというのも考えものだ。
なので、現当主には隠居してもらい、嫡男であったルークを新たな当主として代替わりさせることにしたのだ。
光の剣という不死者の王すらにも通じる神器を開発したこともあり、もはや悲願を語る必要もない。
臭いものに蓋をするというわけではないが、これまでの流れを断ち切るいい機会ではあると思う。
「と、いうわけで、彼らも反省しているのでどうか許してやってください」
「……正直、いくら言われても許す気にはなれません。が、あなたが次の条件を飲むのであれば、不問とすることにしましょう」
「条件ですか? どのようなものでしょうか?」
「簡単なことです。もう、我々兄妹のことはそっとしておいてほしい。それが私たちの願いです。あなた方が神界と呼ぶこの地は私と兄だけの場所としてほしいのです」
「神界の立入禁止ですか……。どうしましょう、パウロ教皇? 教会の運営が成り立たないことになるんじゃ?」
「いえ、そうでもないと思います。正直なところ、今回の件で教会が潰れたのは神の使徒と自らを呼称する元教皇たちが原因でもあります。神界という安全なところにいたがゆえに、聖都の危機に無頓着でした。教会はすべての機能を地上に集約したほうがいいと思います。ただ、赤い月が昇る時にはお伺いして力を授けていただければと思います」
「なるほど。パウロ教皇がそう言うのであればこちらも問題ありません。というわけで、それでよろしいですか、アイシャさん?」
「わかりました。けれど、アルス・フォン・バルカはもう一体、依り代となるものを持ってきていただけますか?」
「もう一体ですか? ああ、そうか。お兄さんの分ですね?」
「そうです。あなたはどうせ、不死者の王である兄の封印を解く気はないのでしょう? であれば、氷漬けの封印状態でも私と一緒に過ごせるように、もう一つ動かせる体が必要なのですよ」
「わかりました。近いうちにお持ちいたします」
こうして、ガロード暦3年の冬の時期に俺達の住む世界に大きな変化が訪れた。
神界が正しく神の住む場所となり、そこに人が住むことはなくなった。
こうして、ドーレン王国建国以来続いていた神と人間の関係はひとまず双方にとって健全で対等な関係へと修復され始めたのだった。
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