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神界にて

「それにしても、思ったよりも神界での被害が大きかったんですね。まさか、神の使徒と呼ばれる方々が誰一人生き残らないとは思いもしませんでした」


「不死者の対応が後手に回ってしまったゆえですね。それに私もうかつでした。まさか、一番安全だと思っていた神殿の内部に侵入できなくなっていることに気が付きませんでしたから」


「そういえば、神殿は普段結界があって自由に入れないとかなんとか言っていましたね。なんであのときは我々は普通に神殿に入れたんでしょうか?」


「……おそらくですが、理由はひとつでしょうね。神アイシャの実の兄であり夫であるドグマ・ドーレンが神殿に入ろうとしたから、ではないでしょうか?」


「アイシャさんが不死者の王を神殿内に招き入れたからこそ、俺たちも入れたってことですか。でも、前にパウロ教皇はこうも言っていなかったでしたっけ? 教会で神父となる者は神殿内に入って神に誓いを行うとかなんとか」


「ええ、そうですよ。普段はこの神界の神殿というものは結界によって固く閉ざされています。ですが、赤い月が昇るとき、その神殿の結界が解かれて内部に入れるようになるのです。その時を見計らって新しい神父が誕生するのですよ」


「なるほど。神像にされてしまったアイシャさんも、それでも人類のために自分の力を使う機会を残しておいてくれたのかもしれませんね」


 神界にいたパウロ教皇とお金の面の話が一段落した。

 そこで、ふと神界についてのことに話題が移った。


 俺が神界で不死者の王を氷漬けにして封印した後、ナージャを追って地上に降りた。

 そのあとは神殿にパウロ教皇とアトモスの戦士が残っていた。

 神殿内部では不死者の王ですら、その不浄の魔力が清められる。

 なので、その神殿に立てこもるように言っておいた。


 そして、生き残った神の使徒がいれば、そちらも神殿内に保護しておくという話になっていた。

 が、どうやら、内部にいたパウロ教皇たちが気が付かないうちに神殿に結界が生じていたようなのだ。

 実は、普段は神界にある神殿には結界があって中に入ることができない。

 赤い月が昇る時だけ、その中に入ることができるようになっていたらしい。


 つまり、パウロ教皇たちが気がついたときには、神殿の外ではすべての神の使徒が不死者となってしまっていたらしい。

 どうやら、この神の使徒たちの生前の執着はこの神界にあったようで、ナージャのように地上には降りたりしなかった。

 そのかわり、神殿の外から中に入ろうともがく不死者が多数いる状況になり、まるでバイオハザードのゾンビの群れのようになっていたという。

 聖都から回収した迷宮核を別の地点に埋めても使えるかどうかを確認するために、俺がフォンターナに戻る前に一度神界に顔を出したときにその光景を見て驚いたものだ。

 慌てて神殿内にいるパウロ教皇たちの姿を確認するために殲滅戦をするはめになってしまったりしたのだ。


「……しかし、驚きました。まさか、この結界が張られている神殿内に入ることができる者がいるとは思いもしませんでした」


「カイルのことですね? まあ、あいつは昔から清らかな心を持っているらしいですしね。覚えていますか? バルカニアの北の森で俺やタナトスは近づけたくもない存在だと言いながら、カイルだけを呼び寄せて精霊契約した古い大木があるんですよ」


「そうでしたね。なるほど。カイルは神アイシャが結界を素通りさせて招き入れるほどの清らかな心を持っているということですか。私では駄目、なのでしょうか?」


「さあ、どうなんでしょうね。俺も自分では清く正しい心を持っていると思っているんですけど」


「きっと神の目は正しいということでしょうね」


 パウロ教皇と掛け合いをしていると、神殿の奥からカイルが歩いてきた。

 カイルは俺と一緒にこの神界に来ていたのだが、なぜか結界をすり抜けて神殿内部に入ることができたのだ。

 カイルが神殿に入っている間、俺とパウロ教皇はこうして神殿の外で金の話なんかをしていたというわけだ。


「よう、どうだった? 神像のある部屋まで行けたのか?」


「うん、大丈夫だったよ、アルス兄さん。でも、ちょっと気分悪くなっちゃった。まさか教会が崇める神様が一人の女性を犠牲にして作られたものだとは思ってもみなかったから」


「ほんとにな。ひでえことしやがる」


「何言っているの、アルス兄さん。アイシャさんは兄さんにも怒っていたよ。せっかく会えた自分のお兄さんを氷で閉じ込めちゃうなんてひどいって言ってたよ」


「……話ができたのか? 神様のアイシャさんと?」


「うん。ていうか、なんでふたりとも聞こえないの? この神殿の外からずっと助けてって声が聞こえてたのに」


「まじか……。そんな声、聞こえていましたか、パウロ教皇?」


「いえ、聞こえませんでした。それは本当ですか、カイル?」


「はい、もちろんですよ、パウロ教皇。ここからでも聞こえていましたけど、神像の近くまで行けばはっきりと会話できるくらいまでは」


「相変わらずすごいね、カイルは。で? 俺に怒っていた以外でなにか他には言っていたのか?」


「あ、それなんだけどさ。不死者の王であるドグマ・ドーレンさんをもとに戻せる方法が分かったよ」


「はあ? 不死者の王をもとに戻せるの? え、どういうこと? 不死者は正常には戻らない不可逆性のものじゃなかったのか?」


「えっとね、この神殿の中の一番下の部屋に水が溜まっているところがあるんだって。ちょうど神像がある部屋の真下になるのかな。その水は神聖水っていうらしくて、神として崇められるようになったアイシャさんがドグマさんのために開発した水なんだって」


「へー、神聖水ね。それをどうすればいいんだ? 飲むのか?」


「ちょっと違うかな? なんでも100年とか200年くらいかけて毎日神聖水で沐浴すれば、その体の穢れが完全に消え去るんだってさ」


「そりゃすごい。長い時間が必要みたいだけど、不死者としてならたぶん寿命がないんだろうしな。気の長い話だけど、もとに戻せるのか」


 泣かせる話だ。

 実の兄が不死者の王と呼ばれる存在になり、自身は迷宮核と【合成】されて像にされてしまったアイシャという女性。

 この女性はどうやら神の像となったあとも、兄を助けるための方法を模索していたのかもしれない。


 全国各地から魔力パスを通して吸い上げられる膨大な量の魔力を用いて、神像という動けぬ存在でありながらも新たな不死者の王救済策を作り上げていたのだ。

 神像の下の部屋に超高濃度の魔力を凝縮したかのような神聖水を生み出し、それを溜めていたのだ。

 その部屋で数百年と長い時間がかかるが、沐浴しつづけることで不死者の王という状態から回復することができるという。


 ただなあ。

 せっかく封印した不死者の王を再び閉じ込めた氷から出すというのはちょっと考えものだ。

 神殿から一歩出てしまえば、まごうことなき災厄と呼べる不死者の王を自由に行動させるわけにもいかないだろう。

 それはあまりにも危険すぎる。


「下の部屋の神聖水の中に凍ったまま放り込んでおくというのはどうだろうか? 氷越しに癒せるならそのまま突っ込んでおきたいんだけど」


「ええ、いいですよ、アルス・フォン・バルカ。封印された状態の兄でも神聖水であれば癒やすことが可能ですから」


 俺が思ったことを口にする。

 だが、それに返事を返したのはカイルでもなければ、パウロ教皇でもなかった。

 それはこの場にはいなかったはずの女性の声。


 カイルに続いて神殿から出てきた神アイシャが俺に話しかけてきたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] もうカイル君が教皇で良いのでは!
[一言] え?自力で石化解いたん? よし、歴史の研究家に引き渡しちゃおう
[一言] 神界のお方付けですね。 なるほど、治すことが可能だったのですね。 でも不死者でなくなるってことは寿命も復活するんですよね。 死んじゃうのでは? 開放されるから良いのかな。
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