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旅人

「え? 誰が来たって?」


「浪人とかいってる。なんか、いろんなところを点々と旅してるんだってさ」


 ある日、俺がカイルに魔法の指導をしているときだった。

 拠点にいる俺にバイト兄が人がやってきたことを告げてきた。

 こんな辺鄙な村には今まであまり外からの人が来ることもなかった。

 珍しいこともあってか、わざわざ伝えに来てくれたのだろうか。


「いや、違うぞ。この村のことを聞いたみたいで、はるばるやって来たって言ってたぞ」


「へー、この村のことが話題にでもなってんのかな」


「多分、お前が大猪を倒したことだろうな。話してみようぜ。連れてくるぞ」


 そう言ってバイト兄が玄関を飛び出していく。

 それにしても大猪のことが話題になっているのか。

 一体何をしに来たのか、少しドキドキしながら、その旅人がやってくるのを待つのだった。




 ※ ※ ※




「お初にお目にかかるでござる。拙者、旅をしながらものづくりに励んでいるのでござる」


「……拙者? ござる?」


「はっはっは。拙者の地方での話し方でござるよ」


「もしかして東の出身とか?」


「おお、よく知っているのでござるな。確かに拙者はこの地より東にて生まれたのでござるよ」


「……島国だったりする?」


「はて? 別に島国というわけではござらんが、どこか思い当たる土地でもあるので?」


「いや、気にしないで。改めて、はじめまして、アルスです」


「これはかたじけない。拙者、グランと申すでござる。以後お見知りおきを」


 バイト兄が連れてきたのはこの辺とは違う話し方をする男だった。

 東にはこんな風に話す人もいるのか。

 どんなところなのだろうか。


「で、グランさんはここにどういった用件できたの?」


「ふむ。実はこの地で大猪が討伐されたと聞いたのでござる。是非一度、見てみたいと思った次第で」


「ふーん。別にいいんじゃない。まぁ、剥製にしているわけじゃないから全身が残っているわけじゃないけど……」


「ちなみにどの御仁が大猪を討伐されたのでござるか。ぜひお会いしたいのでござるが」


「え、俺だけど」


「は? アルス殿のような子どもがですか? 失礼ですが信じられないでござる」


「まあ、罠を使ったし、そうたいしたことはないよ」


「むむむ、いや、失礼した。拙者、他の村では大猪というのはひどく凶暴で恐ろしい生き物だと聞いていたので」


 まあ、そういう話を聞いているというのはおかしな話ではないかもしれない。

 実際、この北の森近くにある村だったらどこもその話は伝わっているだろうし。


 かつて、広大な面積に広がる大森林を畑に変えるためにいくつかの村が作られた。

 だが、結局はどこの村も開拓には成功しなかった。

 開拓村はなくなるか、この村のように以前よりも規模を縮小して、なんとか維持するという状態になっている。


 理由は大猪にあった。

 ある程度、開拓が進んでいくと必ず大猪問題にぶち当たるのだ。

 木を切り開き、畑を作ったというのに、大猪によってその畑の作物が荒らされる。

 さらに大猪の特性が問題だった。

 畑の作物の味を覚えた大猪は子どもにまで教えるようにして、その食べ物を食らいつくしていく。

 だが、それだけならまだよかった。

 問題なのは人間の味を覚えることもあるということなのだ。


 大猪は雑食で好んでは食べないが肉を食べることもある。

 当然、人間を食べることも可能性としてはあるわけだ。

 森を切り開き食べるものがなくなった大猪が畑の作物を食べる。

 それを食べきったら、他に残ったものはなにか。

 不幸にもなんらかのきっかけで人の味を覚えた大猪によって、いくつかの村が壊滅した。

 この村でもその話は親から子に、そして孫へと語り継がれている。

 家にこもっても、農家のボロ家ならばその巨体による突進であっけなく崩壊するのだ。

 北の森付近にある村に住む人間にとって、大猪というのは恐怖の代名詞といっても過言ではないのだろう。


「でも、結局はただのおっきいイノシシってだけだろ? なんでわざわざ見に来ようなんて思ったんだ?」


「アルス殿は大猪と戦ったというのに知らないのでござるか? 大猪は【硬化】の魔法を使うのでござるよ」


「え、そうなんだ。全然知らなかったんだけど。ああ、でも、だからあんなに攻撃が通じにくいのか」


「然り。そして、そのように魔法を使う生き物から取れる素材は様々なものを作る材料となるのでござるよ」


「材料?」


「そうでござる。大猪から取れる牙。その牙からは魔力を通せばそこらの金属よりも硬い武器を作り上げることも可能なのでござる」


「まじかよ」


「まじでござる。そして、拙者は各地を放浪してそのような特殊な素材を探しながらものづくりをしているのでござるよ」


「え、っていうことはグランさんは大猪の牙から武器を作れるの?」


「そうでござる」


「すごい。俺に武器を作ってくれない。礼は必ずするから!」


 思わぬ話に俺は舞い上がってしまった。

 だが、大猪の牙は金属よりも硬いのか。

 捨てずにきちんと保管しておいてよかった。

 俺は倉庫の片隅に置いたままにしてある大猪の牙があることを思い出しながら、この偶然の出会いに感謝するのだった。

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