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副団長の証言

「聞け! 我が名は聖騎士アルス。不死者の存在を感知し、それを倒すために参上した。不浄なる不死者の魔力に侵されていない者はすぐにここへと集まるがいい」


 聖都があった場所から逃げ惑うようにしながら不死者と戦う傭兵たち。

 そいつらに届くように俺は魔力を練り上げて、クレオンの歌声のように聞く者の心に響くように叫んだ。

 フォンターナの人間としてではなく、聖騎士としてここに来たと告げたのだ。


 その声を聞いて、多くの傭兵たちがこちらへと向いた。

 その瞬間、パウロ大司教が【聖域】を発動する。

 【裁きの光】とはまた違う、どこか暖かさを感じるような柔らかな光の柱が出現する。

 不死者の王を封じるために用いられてきた【聖域】だが、今のように不死者が周囲にあふれかえる状態になったときに人為的なセーフエリアを作り出すこともできるのだ。

 というか、本来はそういう使い方なのに、セーフエリア内に強引に不死者の王を閉じ込めていたらしい。


 そんな柔らかな光が安心感を人々に与えたのか、傭兵たちは光に群がる虫のようにあちこちからこちらを目指して走ってくる。

 手に武器を持った荒くれ者たちがこっちへと駆け寄ってくるのは、なかなかどうして怖いものだが、それよりも危険な存在が傭兵たちの後ろから追いかけてきていた。


 不死者だ。

 見た感じだと、不死者の魔力によって侵されてしまい、自身も不死者に成り果てた元傭兵なのではないだろうか?

 鎧を着込んで、武器を手に持った不死者が近寄ってくる。

 遠目からもその姿を観察していると不死者によって体の状態が違っているようだ。

 全身が爛れたような状態のゾンビみたいなやつもいれば、体から肉が腐り落ちて骨だけになっているようなやつもいる。


 もしかすると、不死者になってしまったその人が持っていた魔力量によって姿に違いが生じているのかもしれないと思った。

 魔力量が多い人ほど原型をとどめていて、魔力量が少ないと骨だけのスケルトン状態になるのではないだろうか?

 だが、圧倒的な魔力を持つであろう竜が不死骨竜となっていたことを考えると、いずれはすべてが骨になるのかもしれない。

 そんな検証しようもない仮説を考えながら、集まってきた傭兵たちをセーフエリア内に受け入れる。


「バイト兄、出ろ」


「おっしゃ、任せろ。行くぞ、みんな。不死者どもを残らずぶっ殺せ」


 どうやら、不死者というのは足が速くはないらしい。

 走って逃げてくる傭兵たちよりもゾンビのほうが遅く、スケルトンも同様だ。

 なので、傭兵たちをひとまず回収した後、余裕を持ってこちらも攻撃に移ることができた。


 ヴァルキリーに乗ったバイト兄が剣を持つゾンビ型不死者に近づいていく。

 そして、そのままの勢いでズバッと切り裂いた。

 今、バイト兄が手に持っているのはフォンターナの街の教会に奉納した新しく作った聖剣グランバルカだ。

 たとえ【浄化】が無くとも不死者の不浄な魔力からの悪影響を受けずに相手を攻撃できる切れ味鋭い日本刀型の武器。

 その切れ味は凄まじく、不死者の体を斜めにスパンと切り落としてしまった。


 アンデッド状態の不死者は体を切っても動くのではないだろうか?

 そう思ったのだが、どうやら違ったようだ。

 体を両断された不死者は地面へと倒れ伏し、そして、しばらくすると穢れた黒い魔力をその体から出さなくなった。

 それによって、周囲への悪影響もなくなる。

 どうやら、不死者を倒せばそれで終わりのようだ。

 ただ、やっかいなのが【浄化】がない状態では攻撃しているほうが不浄な魔力に侵されてしまうということか。

 【浄化】が使えなければ相打ち覚悟で不死者を倒して、その後自分の首でもはねて二次被害を防がなければいけなくなるのかもしれない。


 バイト兄に続いて、他の者も不死者を倒していった。

 どうやら、氷精槍が役に立っているらしい。

 バイト兄以外の者はヴァルキリーに騎乗しながら、手に持つ魔法武器である氷精槍に魔力を込めて攻撃を繰り出していた。

 氷精槍は魔力を込めると槍の先から氷の槍が突き出る魔法武器だ。

 どうやら、この氷部分も【浄化】が効いているようで、特に問題なく不死者に対してダメージを与えられていた。

 あとは、こちらに被害が出ないように気をつけながら、討ち漏らしがないように発生した不死者を残らず倒していくだけだろう。


「あ、あの、ありがとうございました。助かりました。えっと、その聖騎士様、ですか?」


「ああ、そうだ。おまえたちはマーシェル傭兵団に所属する傭兵だな? ん……、見たことがある顔だな。お前は確か、マーシェル傭兵団の副団長ではないか? 手配書に載っていただろ」


「はい。そのとおりです……」


「変な気を起こすなよ? 今はここにいる不死者を倒すことが先決だ。それは分かるな?」


「はい、もちろんです。抵抗する気はありません」


「そうか。だが、お前たちには罪を償ってもらおうか。今回の件はお前たちマーシェル傭兵団が原因だろう? ならばお前たちも不死者と戦う義務がある。我こそはと思う勇者はそこにいるパウロ大司教から【浄化】を施してもらえ。そして、不死者と戦え。そうすれば、少なくとも俺がその功績を認めてやろう」


「え……、それは我々がしたことを許していただけるということですか、聖騎士様?」


「全てではない。が、ここで一緒に不死者相手に戦った者はその罪の一部を許そう。無事に生き残ったら、その後は悪いようにはしないと約束しよう」


「あ、ありがとうございます。ぜひ、我々にもともに戦わせてください」


「分かった。勇気ある者たちよ。我らと一緒に戦い、不浄なる魔力をこの地から一掃しよう」


「はい。よし、やるぞ、お前たち」


「「「「「おう」」」」」


 よかった。

 傭兵団が結構生き残っていて、【聖域】で作ったセーフエリアにたくさん逃げ込んできたのだ。

 万が一、こいつらが我が身可愛さに、俺やパウロ大司教になにかしようとしてきたら面倒なことになる。

 そう思ったから、俺は彼らも戦力として使うことにした。

 ちなみに俺は彼らの罪を許す権限などは何一つ持ち合わせていない。

 が、そのへんのことはパウロ大司教にでも任せて押し付けておこう。


「それよりも、副団長、聞きたいことがある」


「はい、なんでしょうか、聖騎士様」


「マーシェル傭兵団を率いていた団長のナージャはどうした? 姿が見えないようだがどこにいるんだ? それと、不死者の発生源となった不死者の王がいなかったか?」


「は、はい。それがよくわからなくて……」


「よくわからないというのはどういうことだ? 見たままを話してくれ」


「わかりました。その、団長であるナージャが聖都を攻撃したんです。【裁きの光】という強力な魔法で。そしたら、消滅した後からその場に不死者の王ですか? そいつが現れて」


「やはり、不死者の王が出てきたんだな? それで?」


「ええと、不死者の王がこちらを見て、近づいてきたんです。それでうちの団の仲間たちから不死者になるやつもいて、混乱してしまって。だけど、団長が不死者の王とちょっと戦っているのは見えていました。けど、その後、私も近くで不死者になってしまった団員から攻撃を受けてしまい――」


「つまり、ナージャと不死者の王がどうなったのか見ていないと?」


「はい。ですが、他の団員が言っていました。団長がなにか呪文を唱えて、地面に魔法陣が出たそうです。その魔法陣が光り輝いて、次の瞬間、団長の姿が見えなくなっていたそうです。で、それと同じく、そばにいた不死者の王も一緒に消えたらしい、というのを言っているやつがいました」


「なんですって? それは本当ですか?」


「おっと、びっくりした。パウロ大司教はその魔法陣について、なにか思い当たることがあるんですか?」


「ええ。もしかして、そのときにナージャは【神界転送】という呪文を唱えていたのではないですか?」


「え、あ、はい。そうらしいです」


「これは……、大変なことになりましたよ、アルス。もしかしたら、ナージャは不死者の王とともに神界に行ってしまったのかもしれません」


「……はあ。神界、ですか、パウロ大司教。神の世界があるとでも?」


「そのとおりです。教会の総本山である聖都はあくまでも地上でのものです。が、神界という別の場所が遠くにあり、そこには教皇だけが使用可能な【神界転送】という呪文を使用することで行くことができるのです。聖都を滅ぼして魔力を高めたナージャがその呪文を使って神界へと行ってしまったのかもしれません」


「あ、ホントだ。俺もその【神界転送】とかいう呪文が使えるようになっていますね。ですが本当にあるんですか、その神界とやらが。というか、なんでナージャがそんなところに行くんですか?」


「分かりませんが、おそらくはとっさに逃げるために使ったのではないでしょうか。あれはあなたがよく使っている転送石と同じように、一瞬で遠くの場所まで移動できる魔法でもありますから」


「ということは、ナージャは不死者の王から逃げるために【神界転送】という魔法を使って、けど、その魔法に不死者の王も一緒にひっついて移動した、とかそういう感じですか」


「今の話を聞く限り、その可能性があります」


 なんじゃそら。

 神が住む世界なんてものがほんとに存在するのか?

 個人的にはにわかには信じられないが、異世界に転生してきた以上、そういうこともあるのかもしれない。

 言われてから気がついたが、おそらくはナージャが聖都を滅ぼして魔力量を高めた影響で俺も位階がさらに上がっていたようだ。

 【聖域】に加えて【神界転送】という呪文が使用可能になっていた。

 その【神界転送】が呪文を唱えればどこかに移動できる呪文であるということは確からしい。

 そして、その呪文を唱えたときに現れた魔法陣にナージャと不死者の王が入り込んでしまったという。

 【裁きの光】という凶悪な魔法を持つナージャと、存在するだけで穢れを撒き散らす不死者の王というこの世で最もはた迷惑な存在ツートップが神界に行ってしまった。


「アルス、私たちも急いで神界へと向かいますよ」


 そして、どうやら俺もそこにいかなければならないようだ。

 神様がいるんならそいつになんとかしてもらえよ。

 思わずそう言いそうになりながらも、真剣な顔で焦るパウロ大司教に対してそう言うこともできず、俺は神界とやらへ行くことになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不死者の王とナージャが神界に行っちゃったなら ほっといても良いんじゃね? とかちょっと考えちゃいますね。 その場合どうなるんでしょうね? 神界で暴れた不死者の王は戻ってくるんですかねぇ 来…
[一言] これは親であるパウロ大司教も神界転送が使えるようになっているって事でおkなんですかね?
[一言] 神界に神様がいたらぶちギレ不可避
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