聖騎士団
「今、我々には未曾有の危機が迫っています。
神をも恐れぬ神敵ナージャが聖都を攻撃し、教会を滅ぼそうとしているのです。
これは非常に危険な状態にあると言えるでしょう。
ナージャが教会の総本山である聖都を襲撃した際に予測される最悪の事態は、人類の滅亡へと繋がっているからです。
もしかすると、長く続いた不死者不在の時代のために、そのことをよくわからない者もいるかもしれません。
なぜ聖都への襲撃が人類滅亡の危機につながるかと言うと、聖都では古代から不死者の王という、聖剣を以てしても倒すことができなかった危険な存在が封印されているのです。
ナージャが聖都を襲えば、その不死者の王が復活するかもしれません。
そうなると、不死者の王から漏れ出る不浄の魔力によって大地は汚染され、生きとし生けるものに穢れが撒き散らされることになるでしょう。
不死者の穢れは伝染します。
もし、そのような事態になれば次から次へと穢れに侵されて自らも不死者になってしまう者が出てきてしまい、さらにそこから新たな汚染が広がります。
こうなってからでは手遅れになるでしょう。
故に、聖光教会大司教、かつ、聖人認定を受けた私パウロと、同じく聖騎士に認定されたアルス・フォン・バルカはこの未曾有の危機を防ぐために聖都へと向かいます。
いま、私のこの話を聞いた者は聖都へと祈りを届けてください。
私が率いる聖騎士団が見事ナージャの暴走を止められることを。
そして、私が進む道を整えてほしい。
北に位置するフォンターナ王国から聖都へと一切の滞りなく駆けつけられるように、皆さんに協力をお願いしたい。
すべての人の協力を以て、世界の平和を守りましょう。
我ら聖騎士団に神の御加護を」
フォンターナの街でパウロ大司教が話を終えた。
フォンターナの街にできた大教会の前での演説だ。
この演説はフォンターナの街の住人に聞かせるためのものでもあり、なおかつ、ラジオでも流して各地に広めるためのものでもある。
複数の貴族領やラインザッツ家の支配領域を越えて進まなければならない聖都への道。
フォンターナ王国の大将軍である俺が主体となって移動するとなると、各方面からその移動に難色を示された。
ナージャを倒すために聖都に向かう、といいつつ、その道中で進路を変えてどこの貴族領が攻撃を受けるか分からないという不安があったのだろう。
なので、その不安を解消するために聖都へと向かうのは教会の一団だとすることにした。
そのためにパウロ大司教の持つ聖人という称号までもを利用する。
そして、それと合わせて、俺はフォンターナ王国の宰相兼大将軍ではなく、聖騎士として聖都に向かうのだということにしたのだ。
本来俺が聖騎士に認定されたのは単に聖剣を作れる貴重な人材というだけなのだが、あたかも教会に所属する騎士であるかのようなイメージをもたせることにしたのだ。
これによって、各地に存在する関所などで無駄に時間を取られることがないようにするのが狙いだ。
一応保険として演説内でも道中の邪魔はないように、神の御加護をなどと言って牽制するようにパウロ大司教にはお願いした。
他の土地ではそれがどのくらいの効果があるかは、まだ分からない。
が、少なくともフォンターナの街では聖人パウロ率いる聖騎士団の出陣に対して総出で祝ってくれた。
演説そのものはうまくいったと思いたい。
「なあ、アルス。ほんとにこんな金属鎧を着ていくのか? 重いし、金属は寒さの影響を受けるんじゃないか?」
「そういうなよ、バイト兄。いつもどおりの真っ黒な鬼鎧は教会の聖騎士団っぽくないだろ。ブーティカ家に作らせたこの鎧は品があるし、なにより魔法攻撃に耐性のある立派な鎧なんだ。それを聖騎士団が全員着ていたら、各地の関所でも思わず通してしまいたくなるかもしれないだろ」
「なんだそりゃ。まあ、寒かったらいつもどおり頼むぞ、アルス。お前の【氷精召喚】で寒くなくしてくれよな」
「はあ。結局冬の移動になるとそうなるのね」
聖人パウロに同行する聖騎士団。
それは聖騎士認定を受けたことのある俺がトップとなって、急造した実態のない騎士団だ。
数は150人ほどだ。
屁理屈をつけて各地の貴族領を通過するために聖騎士団と名乗ってはいるが、やはり数があまりにも多かったら関所で呼び止められてしまう。
なので、事前に数を絞っておくことにしたのだ。
俺とバイト兄、そしてタナトスやライラ、イアンなどのアトモスの戦士も参加している。
いつもは鬼鎧を着ているのだが、今回は金属鎧を身に着けていた。
炎高炉で鍛え上げたバルカ鋼に対して、ブーティカ家の持つ魔法【属性付加】を使用して強化を行った。
この金属鎧に対して魔石を材料に【属性付加】した場合、魔法攻撃に対して高い耐性を持たせることができるのだ。
かつて、ウルク家のペッシなども似たような鎧を着ていたが、魔法剣での攻撃であってもほとんど無傷でいた優れものの防具となる。
もっとも、それを着ていたところで【裁きの光】に耐えられるかというとそうではないだろうが。
だが、まだらな模様の入ったバルカ鋼を用いて作った鎧に、魔石を使って【属性付加】をしたからかなのか、どこか不思議な神聖さを感じる鎧になっている。
もしかしたら、【魔石生成】で作ることのできる不死骨竜の魔石と吸氷石と精霊石の3種の魔石を使用したからかもしれない。
光に当たると青く光り輝くような、しかし、近くで見ると渋い色合いも感じられるような不思議な光沢を放つ全身鎧を着て、ヴァルキリーという純白の使役獣に騎乗して進み始めた聖騎士団は見た目のインパクトはバッチリだった。
そのため、多くの貴族領の関所でも、うやうやしくもてなすように通行を許可してくれたおかげで、以前パーシバル領の迷宮街へ向かったときよりもスムーズに移動ができた。
そして、フォンターナの街を出発して騎乗するヴァルキリーが駆け続けたことで、ついに聖都が見えるところまでたどり着いた。
あともう少しすれば聖都に到着する。
そう思ったときだった。
俺たちの進行方向の地平線の先で、天に届くかというような光の柱が出現したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。





