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パウロの予想

「そうですか。あなたも位階が上がったのですね」


「え? あなたもってことは、パウロ大司教もですか?」


「ええ、そうです。私もつい先程位階が上昇しました。今の私は大司教のさらに上の枢機卿だけが使うことができる【聖域】が使用できます」


「そうですか。俺のほうはさっき【浄化】が使えるようになりました」


「……なにがあったのですか、アルス? 私の予想を上回る魔力の上昇です。その原因であるあなたがそれほど慌てているということは、この魔力量の上昇はあなたにとっても何か予想外の出来事だったのではありませんか?」


 ナージャの話を聞いたすぐあとくらいだ。

 俺の位階が上昇した。

 その結果、俺は【浄化】という魔法が使えるようになっていた。


 これは教会によって名付けされた俺の魔力が一定値以上となり、それによって【浄化】を使用できる基準を越えたのだろう。

 これは位階が上がるなどといって、なんの前触れも無く突然魔法が使えるようになる不思議な現象を引き起こす。

 不死者の穢れを払うことができる【浄化】を使える者は教会では大司教の地位を手に入れられるほどで貴重な魔法だ。


 そんな魔法を使えるようになったため、一応パウロ大司教に相談にきていた。

 そこで、パウロ大司教も位階が上がったと聞かされることになった。

 パウロ大司教は【浄化】のさらに上の【聖域】という魔法が使えるようになったという。

 これは教会内では枢機卿と呼ばれるレベルの者が使用できるもので、普通ならばそうそう使用可能にはならない。

 それが【浄化】を使えるようになってわずか数年で【聖域】まで使用可能な魔力量に到達したことにパウロ大司教はさすがにおかしいと思っていたようだ。


 そんなパウロ大司教に状況を説明する。

 俺が勝手に名付けを繰り返して魔力が上昇したのではなく、ナージャのせいだと身の潔白を証明した。

 ついでにナージャが【裁きの光】という非常に危険な魔法までもを使えるようになったことも伝えた。


「それは……、非常にまずいことになりましたね」


「ええ、同感です。【裁きの光】を手にしたナージャがどういう行動をとるかは現段階では分かりませんが、フォンターナ王国に向かってくる可能性もありますからね」


「いえ、それはないでしょう。むしろ、私がナージャの立場ならば他のところを狙います」


「え? 他のところですか? パウロ大司教はナージャの次の動きが予想できるということですか?」


「はい。私がナージャの立場なら今度こそ教会を狙います。ナージャの【収集】は殺した相手から力を奪うことができるのでしょう? であれば、教会ごと街を【裁きの光】で塩に変えてしまえば、さらなる力を手に入れられることになるはずです」


「なるほど。そう言われればそうですね。……うん、有り得そうだ。追い詰められていたナージャはより力を求めるかもしれないってことですね。それに教会には神敵認定されて賞金までかけられているんだから、恨みを持っている可能性も高い」


「あなたから聞いたナージャの情報を集めると、今までの人生でいろいろ鬱憤をためているようですしね。強大な力を手に入れて、それを破壊衝動のために使おうと考えるのは非常に人間的であるとも言えます。そして、おそらくその負の感情に上限はありません。もっともっとと欲をかくことでしょう」


「欲を? 教会で神父や司教から力を得た先の話ってことですか。つまり、大司教とか枢機卿みたいなより上位の者を狙う可能性もあるってことですか」


「はい、そうです。教会関係者の持つ魔力は多くの住人と繋がっています。そして、それは位階が上の者であればあるほど多いのは自明の理です。あちこちにいる神父を何人も狙うよりも1人の大司教などを狙うほうが間違いなく効率がいいでしょう」


「あれ? そう言えば、パウロ大司教がここフォンターナにいるのは特例だとかって言っていたような。確か、大司教以上の位階の人は教会の中央に集まっているんじゃなかったでしたっけ?」


「よく覚えていましたね、アルス。そのとおりです。あらゆる貴族領にある教会ですが、貴族領の領都にいるのはあくまでも司教までです。それ以上の大司教や枢機卿といった者になると教会の中央、つまり聖都にいるのですよ」


「……つまり、パウロ大司教の予想はこうですか。【裁きの光】を手に入れたナージャは近場の教会を狙って動く。で、そこで更に魔力を高めた後は、より効率よく力を手に入れるために聖都を目指す可能性が高い、ということですか?」


「私がナージャの立場であればそうするでしょうね。それに教会を潰してしまえば神敵認定や賞金首の話もなくなると考えるかもしれませんから」


 なるほど。

 パウロ大司教の言うことには一理あるかもしれない。

 なにせ教会というのはすべての土地から洗礼式という儀式を通して魔力を集めているのだ。

 そんな魔力の終着点が教会中央である聖都ということになる。

 つまり、言い換えれば全土の魔力はすべて聖都に集まっていることになる。

 そこを狙って襲撃し、【収集】を行えばより大きな力が得られることは間違いない。


「でも、それってかなりやばいですよね、パウロ大司教。確か聖都は【聖域】を使える枢機卿が常に交代で魔法を発動し続けて不死者の王を封じているんじゃなかったのでは?」


「ええ、そうですよ、アルス。もしもナージャが聖都を襲い、【裁きの光】で枢機卿たちを殺害したら不死者の王の封印が解かれます。そうなった場合はこの世の終わりでしょうね」


 まじかよ。

 ナージャの行動が世界の破滅に繋がっている。

 ほんとに魔王みたいなやつだな。

 魔王ナージャが禁断の邪法を用いて邪神の封印を解く、みたいな流れになってきてしまった。

 不死者の王はかつて教会が封印することでしか対応できなかった存在だ。

 そして、その不死者の王は穢れた魔力で周囲の者も不死者へと変えてしまう。


 もしもナージャが聖都ごと【裁きの光】で教会関係者を皆殺しにしてしまったらどうなるだろうか。

 解き放たれた不死者の王とそこから発生する数多くの不死者に教会は対応できないかもしれない。

 なぜなら【浄化】や【聖域】といった魔法を使える者たちが聖都ごと消されているからだ。

 対抗手段が無くなってしまうことになるのではないか。

 もはや領地がどうのこうのという話ではなく世界の終わりが現実的なものにすら感じられる事態に発展してきていることに、俺はこのとき気が付き、背筋に冷たい汗が流れたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴァルキリー達と共有したせいで裁きの光が使えるようになったなら、とりあえずヴァルキリー達にひたすら魔法を使わせてたら使えなくなるのでは? 意図的な共有の無効化ができないなら、むしろ向こうの…
[良い点] 最新話追いついた パウロ枢機卿(予定)は相変わらず有能だな
[良い点] やっと最新話までたどり着いた…200p辺りから少し説明口調が強くなった違和感はありましたが、全体的にじわじわ世界が広がって面白かったです。
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