収集された魔法
「くそ……。やっちまった」
カイルの話を聞いて思わず頭をかきむしる。
【収集】というスキルを持つナージャがヴァルキリーから【共有】という魔法を奪い取った。
それによってヴァルキリーの群れ全体とナージャの魔力が共有されて失われた大魔法すら使うことができるようになったという。
うかつだった。
俺はナージャの【収集】の力の危険性に前から気がついていたにもかかわらず後手を引いてしまった。
というよりも、教会に神敵認定させて賞金首にし、すべての貴族や騎士と協力関係を構築できないように追い込んだ時点でもはやナージャには大した危険性がないと思い込んでしまっていたのだ。
だが、そうではなかった。
狙ってなのか、あるいは偶然なのかは分からない。
が、ナージャはヴァルキリーから有用な魔法を手に入れて、それを最大限に活用できるようになってしまった。
いろんなことが頭の中でまとまりのない思考として浮かんでは消えていく。
南方に位置する土地にいたナージャがヴァルキリーを手にする可能性はないわけではなかった。
と言ってもそれは角なしだったはずだ。
魔法を使えないように角を切り、その状態で販売したヴァルキリーが南部にいた可能性は否定できない。
騎兵としての優れた力を持つヴァルキリーだが、もとを正せばあれは行商人をしていたおっさんに荷運び用として売りつけていた商品でもある。
騎兵隊のような戦力として使えるほどの一括大量販売はしていなかったが、それでもいろんな商人が商売用に買っていた。
だが、そうなると角なしヴァルキリーからナージャは【共有】の魔法を手に入れたことになるのか?
まあ、できないわけではないだろう。
人間は両腕がないと魔法を発動できず、ヴァルキリーは角がないと魔法が使えない。
が、かといって、腕や角がないからといって魔法が失われるわけではないのだ。
例えば魔法を使える騎士が両腕を失ってしまうと、その騎士は魔法が使えないが名付けがなかったことになるわけではない。
その騎士が別の誰かに名付けをすれば自分が使えなくなった魔法を授けることもできるし、継承の儀をして子を作ればその子に魔法と魔力パスを引き継ぐこともできる。
多分、それと同じなのではないだろうか。
角なしヴァルキリーは魔法を発動できないが、魔法を所有していた。
それを【収集】されたというわけだ。
【共有】を手に入れたタイミングも良かったのかもしれない。
なぜなら、前までは使役獣の卵というのはそれなりに貴重品で数が限られていた。
だが、今は少し事情が違う。
ビリーによって黄金鶏という【産卵】持ちの使役獣が再現されて、バルカにもたらされたのだ。
その黄金鶏によって今、バルカでは使役獣の卵を量産することに成功している。
そのため、戦力にもなるヴァルキリーの数を増やしているところだったのだ。
【共有】できるヴァルキリーの群れの総数が増加していたことがナージャにとっては良かった。
それは使用できる魔力量が増えることも意味するが、俺に気づかれにくいというのもあるだろう。
ヴァルキリーの数が増えれば俺の魔力も増える。
そこに異分子であるナージャの魔力が紛れ込んでも、具体的な数値による増加量などはわからないため、俺が気づけなかったのだ。
つまり、現状ではナージャは魔力パス的に俺と親子関係にあり、俺が親でナージャが子になっているはずだ。
俺の魔力が上がったが、その代わりナージャは【共有】以外も手に入れていることになる。
要するに、ナージャやナージャに名付けされたマーシェル傭兵団の面々はバルカの魔法も使えるということになるのではないだろうか。
「多分、その考えで間違いないと思うよ、アルス兄さん。ちなみに、フォンターナ家の【氷槍】や【氷精召喚】なんかも使えるだろうね」
「……ヴァルキリー以外にも、東方で魔力集めをしていたのが仇となったか。というか、いくらなんでも気づけよ、俺」
「どうする、アルス兄さん?」
「どうするもこうするもあるかよ。なんとかしないと。とにかく情報が必要だ。悪いけど、カイルとリオンはナージャやマーシェル傭兵団がどう動くかを調べてくれないか?」
「わかりました、アルス様」
「うん、任せて、アルス兄さん」
慌てて対応しようとはするものの、こちらもすぐには動けない。
だが、まだ慌てるような時間じゃない。
なにも今すぐナージャがフォンターナ王国を目指して北上してくると決まったわけではないのだ。
そもそもの話として、ナージャとフォンターナやバルカは現時点で明確に敵対しているわけでもない。
しかし、【裁きの光】という強力無比な力を手に入れたナージャが何を求め、どこに向かうのか。
それを調べておく必要があるだろう。
あと、ついでにヴァルキリーが【裁きの光】を使えるかどうかも確認して、使えるのであれば初代を通じて全ヴァルキリーに使用禁止を命令しておかないといけないだろう。
危険極まりない大魔法をバルカニアやフォンターナ国内で使われたらたまったもんじゃないしな。
そんなことを考えているまさにその時、俺はなんの前触れもなく、急に新たな魔法が使えるようになったのだった。
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