国土倍増
「結局落とせたのは貴族領8つか。あと5つも残っちゃったな」
「十分な戦果ですよ、アルス様。というよりも、あの合戦から短期間でこれほど領地を広げたという話は聞いたことがありません」
「だろうな。その分、管理できるかどうかが問題になりそうだ」
「確かに、そのとおりですね。手に入れた領地はどうなさるおつもりですか?」
「うーん、また配置換えをするか。奪った土地にいた貴族家の生き残りはフォンターナの街に移住させて、空いた土地にキシリア、ビルマ、イクスの3つの辺境伯領の領地を転封にしよう。今回新たに手に入れた領地から貴族領を2つずつ与えることにする。で、残ったもう2つの領地はリオンのグラハム領にしよう」
「グラハム家も領地を頂けるのですか?」
「ああ。リオンは今年からガロード様の傅役にもなっているだろ? それならそれ相応の領地を得てもいいはずだ。今回の切り取りでも軍を指揮してくれたから実績はあるとみなされるだろ」
「それを言うならアルス様こそそうではありませんか。バルカ家はフォンターナでもっとも功績を上げている家です。そのバルカ家の領地は加増されて然るべきではないでしょうか?」
「うーむ。バルカの領地はどうしたもんかな……。あんまり俺が自分で自分に土地を与えると文句も出そうだしな」
「確かにいろいろと言う者もいないではないでしょう。が、アルス様ほどの活躍をして領地が得られないというのはそれはそれで問題です。働きに応じた報酬を得るべきですよ」
「なら、俺はイクス家が転封になって空いたアーバレスト地区をもらおうかな。あそこは水資源が豊富だから米作りが更に進みそうだし」
「なるほど。もともとアーバレスト地区はイクス領とバレス領で二分していましたが、それを得るというわけですね。わかりました。私からも評議会に議題として提出して、他の者たちの了承を取り付けておきましょう」
「ああ、そうしてくれると助かるよ、リオン」
ワグナーの救援要請を受けて始まった北部貴族連合との戦いに一段落がついた。
あれから前線を押し上げて、ひたすら要衝となる貴族領の拠点を狙い続けて進軍した結果、8つの貴族領をフォンターナが切り取ることに成功したのだ。
これは今回新たに投入した新兵力の力も関係しているかもしれないが、一番大きかったのは以前から行っていた軍政改革の影響ではないかと思う。
一般的な貴族では騎士と従士が農民を集めて集団を作り、それを指揮して軍となす。
だが、フォンターナ軍では徴兵した兵を5人一組にまとめ、それを組み合わせて小隊や中隊、大隊などと編成して軍をシステマチックに運用するように切り替えていた。
さらに、工兵や騎兵、通信兵、偵察兵といった用途に応じて兵や隊の機能をまとめて運用し、それに適した魔法を授けることで従来よりも遥かに組織的な運用ができるようになっていた。
そのため、飛空船からの岩落としやアトモスの戦士といった追加戦力がいないカイル軍やリオン軍も北部貴族に快勝して領地を切り取っていた。
まあ、快勝したのは合戦で多くの騎士を含む兵力がそれらの貴族家から失われていたからでもある。
とにかくこうして8つもの貴族領を手に入れることに成功したのだ。
だが、問題もある。
ここまででフォンターナ王国の国土は旧フォンターナ領を始めとして、ウルク・アーバレスト・カーマス・ルービッチ・エルメス・ブーティカの7つの貴族領だったのだ。
それが今回の快進撃で8つもの貴族領を手に入れた。
単純な面積では比較はできないが、大雑把に言っても国土が倍以上に膨らむことになる。
そんなものをはたして維持できるのかという問題が発生する。
それに貴族家をこれだけ相手にした以上、無視できない存在もいる。
ラインザッツ家だ。
ラインザッツ家は覇権貴族としてドーレン王家と同盟を結び、他の貴族たちへの影響力を持つ。
もともと覇権貴族というのは他の貴族家が攻撃を受けたときなどに紛争解決に乗り出す役割もある。
貴族同士の争いに対してそこらへんで手を打てと命じたりだとか、奪った拠点を返還しろと求めていたりといろんなことをするらしい。
であれば、今回のフォンターナ王国対北部貴族連合の争いでも口出ししてくるかもしれない。
というか、間違いなくしてくるだろう。
なぜなら北部貴族連合の残された貴族家はラインザッツ家に泣きつくからだ。
つまり、新しく手に入れた土地を掌握して統治するだけではなく、ラインザッツ家に対する備えも必要というわけだ。
これはなかなか大変なことだと思う。
なので、以前も行ったように辺境伯という地位にある3つの家の領地を移すことにした。
ワグナー率いるキシリア家は旧エルメス領から南東にある2つの貴族領へ。
旧ルービッチ領を任せていたビルマ家のエランスを南にある2つの貴族領へ。
旧アーバレスト領の半分を治めていたイクス家のガーナも南西の貴族領へと場所を変える。
そして、それらの後背を守るようにリオンのグラハム家を配置していざというときの守りを任せる。
つまり、ラインザッツ家が攻めてきたときには必ず最初に辺境伯領が対応する必要があるということだ。
その代わり、領地は貴族領2つ分に加増となっていて、今まで通り切り取り自由にもなるので更に増やせる可能性もある。
それが嫌なら辺境伯という地位を捨てて、フォンターナに所属する一貴族として暮らしていくのもありだろう。
が、どうやらこの話を振ったところ、ワグナーもエランスもガーナも承諾してくれた。
こうして、フォンターナ王国はそれまでの北方の独立地域といえるものから、大貴族家と比肩するほどの領地を持つ大勢力になったのだった。
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