弟との会話
「兄さん、難しい顔してどうしたの?」
「ん? カイルか。いやちょっと考え事をな」
道路について考えがまとまってきた俺に対して弟であるカイルが話しかけてきた。
今年洗礼式を終えた少年だ。
「じつはな、俺がせっかく作った窓ガラスが全然売れないみたいなんだよ」
「ああ、あの透明できれいなやつ? 倉庫に山積みになって邪魔だってお母さんが言ってたよ」
そうなのだ。
俺は以前街にまで行ったときにひらめいた新商品である窓ガラス。
絶対に売れるだろうと思って作ってみたのだが、全然売れなかったのだ。
街で見かけた建物はすべてレンガ造りのもので、窓が存在しなかった。
あまりに閉鎖的で牢獄のように感じてしまう造りだ。
だから、俺は新たな建物として開放感あふれる窓ガラス付きの家が増えれば喜ぶ人も増えるだろうと思ったのだ。
だが、実際には全く売れなかった。
理由は単純だ。
住人たちは別に現状で不満を感じていないからだろう。
俺がいくら「これはいいものだよ」といったところで、今まで見たこともないものに手を出そうと思う人はいないということだ。
俺はこの世界に生まれて痛感していることがある。
それは、いいものが売れるわけではない、ということだ。
商品として売れるものはすべて欲しがる人がいるからであって、便利なものが売れるとは限らないという事実だった。
そういえば前世でも経済力の低い国や地域では、高機能高性能の商品よりもシンプルで壊れにくいものしか売れず、日本製品は苦戦するところもあったという話を聞いたような気がする。
村では物々交換をしているこのあたりの地域ではなおさら必要ないものに金を掛ける人はいないか。
「なんか売れそうなもんてないもんかな」
「売れそうなものか〜。ボクだったらあれがほしいかな」
「え? カイル、なんか欲しいものでもあるのか?」
「うん。兄さんの新しいお家にあるきれいな家具とかって、いつもいいなーって思いながら見てるんだよ」
家具か……。
そういえば魔法で宿屋を再現したときになんにもなかったんで、入り口の扉とかと一緒に用意したんだったか。
テーブルにイス、棚なんかを適当に見繕って作ってもらったんだった。
ベッドなんかも新しいものにしたから木の香りが良くて俺も気に入っている。
「そういや、あんまり木こり連中って家具を作って売ったりしてないよな。なんでだろ?」
「運ぶときに重いからじゃないの?」
「……なるほど。ありえるかもな」
確か、マドックさんは木こりが切った木は薪にして売ることが一番多いと言っていたような気がする。
理由はいくつかある。
生活魔法に【着火】という呪文があるために火事を警戒して木造建築が少ないため、大きな木材の需要が少ないためだ。
必要とするのは家具の材料と薪くらいなものなのかもしれない。
ただ、村では古いものも大事に使うためにそれほど家具の需要というのはない。
対して街はどうかというと、距離が遠い。
歩いていくと3日もかかるのだ。
そこそこ儲けを出している行商人なら荷車を引ける使役獣を購入して運ぶことができるかもしれない。
だが、木こりにはそこまでの蓄えがないため使役獣を買えない。
結果、運べるのは背負子に積んだ薪くらいになってしまう。
そういう事情があるのかもしれない。
「面白いアイデアかもな。一度家具が売れるか聞いてみようか」
「うんっ。売れるといいね、兄さん」
「もし売れたらカイルのお手柄だな。うまいもんでも行商人から買って食べようか」
「やった、約束だよ」
うん、いい考えかもしれない。
それに正直に言うと俺が魔法で作る以外にも商品となるものが欲しかったのだ。
俺の魔力量は人よりも多いかもしれないが無限にあるというわけでもない。
それに俺が作ったものだけが売れるというのもいびつなのだ。
極端なことを言えば俺がいなくなっただけで経済破綻を引き起こすだろう。
ある程度土地が余るくらいにまで広がってきたし、そろそろ自分だけじゃなくて周りの人もお金が稼げる環境を作っていってもいいかもしれない。
会社でも作ってみようか?
見たところ、各家庭で内職のようにして作ったものを行商人が買い取るという流れがあるが、多くの人がまとまって共通の商品を作るというシステムがないみたいだし。
家具がある程度売れるのであれば、頑張って工場のような建物でも作って人を雇って商品作りをしてみても面白いかもしれない。
弟との会話から、俺はいろいろとやってみたいことが頭の中に浮かんできたのだった。
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