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バイリンガル

 【並列処理】の使い方。

 もともとはカイルが同時に複数の人の話を聞き分けられると聞いて俺が作るように勧めた魔法だった。

 そして、カイルが【並列処理】という呪文を作ることに成功したとき、すでにいたリード姓の者たちはそれを仕事に活用した。

 つまり、各地で事務仕事を行っている際にその魔法を用いて複数の人の話を聞いたり、同時にいくつかの処理を脳内でしたりしたのだ。


 だが、エイラ姉さんのやったのは仕事の効率化ではなく、学習の効率化だった。

 【並列処理】をすることで、いくつものことを同時に脳内で処理できるために行儀やマナー、立ち居振る舞いといったものが通常よりも早く習得できた。

 これは話として聞いてみたらそりゃそうだと思うことだが、ちょっと盲点だったと反省してしまう。


 なぜなら、今までカイルが名付けをしたのは「すでに勉強を一定程度修めた者たち」だったからだ。

 バルカやフォンターナ直轄領で俺が作った学校というものがある。

 小学校で基本的なことを教えて、そこで地頭が良さそうでやる気があるものは、バルカニアの学校に自己負担金無しで勉強できるようにも制度を整えた。

 そして、学校で文字や計算、あるいは他の科目などもしっかりと覚えた者の中からバルカやフォンターナで働きたいと思いを持つ者にカイルが名付けをして、各地で事務仕事や【念話】での連絡係として雇っているのだ。


 だが、これはエイラ姉さんのしたことを考えると非常に無駄な手間になるのではないだろうか?

 学校に入学した時点で【並列処理】ができれば、それを利用して学習効率を上げることができるのではないかという気がしてきた。

 まあ、だからといって誰でも彼でもカイルの魔法を授けるわけにはいかないのだが。

 【念話】という魔法が優秀であり使い方によっては危険である以上、バルカやフォンターナのために働くと誓う人でなければそう簡単に魔法を使えるようにするのは危険というのもある。

 が、今はなるべく早く覚えてほしいことがあるのも事実だ。


「なあ、カイル。エイラ姉さんがやったように【並列処理】を使えば、言葉も早く習得することができるようになるのかな?」


「言葉? あっ、そうか。東方の言語を話せる人を増やしたいんだね、アルス兄さん?」


「そうだ。あれからバリアントにはもう何人かのアトモスの戦士が集まりだしている。まだこっちに連れてきていないんだけど、いずれはこっちに連れてこないといけない。けど、そのときに通訳ができるのが俺とカイルとタナトス、あとはグランくらいだったらまともな生活はできないだろうと思ってな」


「向こうにいるエルビスさんはちょっと話ができるようになってきたって言ってたんじゃなかったっけ?」


「あいつは身振り手振りで強引に意思疎通している感じだな。多分まだちゃんとは話せないだろ」


「そっか。ならどうしよう? アルス兄さんの言うように【並列処理】が使える人に東方の言語を教えてみる?」


「誰が教えるんだ? 俺やカイルは人に言語を一から教えられるほど時間が取れないんじゃないか? それよりは、現場にいる奴らに覚えてもらおう」


「現場にいる人? もしかして、バリアントにいる人に覚えてもらうってこと? 確か通信兵はほとんどがアルス兄さんと一緒に戻ってきていたんじゃなかったっけ?」


「だな。今、向こうでリード家の魔法が使えるやつは数人だ。それも東西でやり取りするためにも残しとかないといけない。ということは、新しくカイルが名付けしないといけないかな」


「うーん、それが手っ取り早い方法ではあるのかな? なら、最初はアトモスの戦士のお世話係になる人を募集して、その人にボクが名付けをしてみようか」


「そうしようか。よし、一緒にバリアントに跳ぶぞ、カイル」


 異国の言葉を話すというのはなかなかに難しいものだ。

 ただ単に外国に行っただけではその国の言葉を話すことができるようになるとは限らない。

 自分から積極的に覚えようと努力しない限りは覚えられないだろう。

 多分、バリアントに残してきた連中も大多数はまだ向こうの言葉を話すレベルになっていないと思う。


 だが、【並列処理】が使えれば言語習得の速度はかなり早まることは間違いないと思う。

 なにせ、相手の言葉を聞きながら、同時にその言葉を自分の言葉に翻訳して意味を理解することもできるのだ。

 そして、さらに相手に返す言葉を東方の言語に直してから口にするというのも同時進行でできる。

 複数の人間の言葉を同時に聞き分けることができるようになる【並列処理】だからこそ、東方の言語を聞きながらの脳内通訳も可能だろうというわけだ。


 なので、カイルと一緒にバリアントへと向かった。

 バリアントには数百人というフォンターナの者たちが残っている。

 この者たちの最終的な目的は当主級になることでもある。

 だが、全員がその目的のために頑張れるかどうかは微妙なところかもしれない。

 なにせ、生まれ育った場所と全く文化が異なる場所なのだから。

 周囲の集落やシャーロットの部下に対して俺を通して名付けをして魔力を高めていこうと考えているのだが、時間が経ってやはりバルカなどに帰りたいと思う者も出てきているのではないだろうか。


 そいつらにこう言おう。

 帰りたかったらカイルの名付けを受けて【並列処理】を使えるようになり言語の勉強をしろ、と命じよう。

 東方の言葉を通訳できるレベルになれば連れ帰ってやると言えば、がむしゃらに勉強するのではないだろうか。


 そう考えたのはどうやら間違いではなかったようだ。

 バリアントに残っても簡単に当主級にはなれないと分かって、ホームシックになり始めていた者が何人もいた。

 そこでカイルに名付けをさせて、スーラなどから言葉をしっかりと覚えるように言い含めた。

 最終的にはアトモスの戦士とバルカの人間の通訳ができると判断されれば、俺が連れ帰ってやろう。

 なんだかんだで帰還を希望するものは多く、バリアントに残ったうちの数十人が東方言語のエキスパートとなるべく勉強を始めたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 外交官とまでは行かなくても 交渉役ぐらいは出てきそうですね。
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