輸入品
「おっさん、例のアレはどうだ? 使ってみたか?」
「ああ、使ったぞ、坊主。あれはいいな。東方にはあんなものがあるのか」
フォンターナの街で執務をこなして、夜はバルカニアへと戻って寝る。
そんなある日、バルカ城でおっさんと出会ったので、軽く話をする。
例のアレ、というのは俺が東方で手に入れたあるもののことだった。
「売れそうかな?」
「そりゃ、もちろん売れるだろうな。東方でしか手に入らないものであるうえに、役に立つ。ただちょっと古いのばかりなのが問題だな。高値で売るには見た目だけでも修理しないといけないかもしれない」
「それは仕方ないよ。シャーロット王女に頼んで手に入れているといっても、あれは型落ちっぽいからな」
「型落ち?」
「そうだ。あの魔道具はおそらく東方では型が古くなりすぎてあまり売れなくなったものだと思う。それをバリアントに持ち込んで俺に高く売っているのさ」
「なるほどな。で、それを俺たちはもっと高値でよそに売る、と。ほんと、坊主はいいものを発見してくれたよ。まさか東方には魔石を使った魔道具なんてものがあるとは思いもしていなかったからな」
「俺もだよ。初めて見たときは驚いたからね。なにせ、薪を使わずに魔石を使って食べ物を温めていたからな。あれは絶対に役立つよ」
俺が東方で手に入れたもの。
それは東方で作られた魔道具だった。
魔石を使うと効果を発揮するという道具が東方にはあったのだ。
例えば魔石を消費して光る照明器具などがあった。
どうやら、東方では生活魔法ではなく魔石を利用する技術が発展しているらしかったのだ。
おそらくは攻略済みの迷宮というのがいくつもあるというのが関係しているのだろう。
魔物がいない迷宮で安全に採ることができる魔石。
そして、その魔石を利用して数々の便利な道具を作ってきたのが東方の歴史だった。
ときには戦のための武器を作ることもあり、それとは別に生活に役立つものも作られたようだ。
ただ、照明器具ならこちらではおそらくそこまで需要はないと思う。
なにせ、こっちはこっちで生活魔法という便利なものがあるからだ。
呪文を唱えるだけで【照明】や【飲水】を誰もが使えるという点では東方よりも優れているかもしれない。
が、【着火】はあくまでも小さな火を出して薪を燃やすという魔法だった。
東方で見つけた魔道具は薪が無くとも食べ物を温めることができる便利なものだった。
というか、あれだ。
俺が手に入れたその魔道具はおそらく電子レンジみたいな仕組みなのではないかと思う。
火を使わずにマイクロ波で水分でも振動させて温めているのではないだろうか?
調理済みの料理が乗った皿ごと温めることができたのだ。
電子レンジが偉大な発明であることは前世の記憶を通して考えてもはっきりと分かる。
なんともすごいものが東方にはあるなと感心してしまった。
というわけで、アトモスの里の警備隊が使っていた魔道具などでその存在を知った俺は、シャーロットに頼んでそれらの品をバリアントで買い取れないかと提案していたのだ。
それに対して、シャーロットも色好い返事をくれた。
今はまだ数が少ないが、少しずつ商人を通じて魔道具が運び込まれ、そこでエルビスなどが買取をする手筈になっている。
シャーロットがこの件に関してすぐに了承してくれたのは、おそらくは在庫処分品なのだろう。
近年になってブリリア魔導国は魔導技術を大きく向上させて新兵器なども開発していた。
そして、それに合わせて日常生活で使用する魔道具も改良していたのだ。
そこで、魔石の使用量の少ない高性能品などでも作ったのかもしれない。
が、古い魔道具が売れ残ってしまった。
それを処分する存在としてちょうど俺が現れたのだろう。
多分、東方で普通に在庫処分するよりも遥かに高い金額で売りつけられているのではないかと思う。
が、それでも十分もとは取れる計算だ。
なにせ、こっちは大雪山という人が越えられないという天然の壁を越えた全く別の領域を市場として見ているのだから。
照明用の魔道具などもアピールの仕方次第で結構売れるのではないかとも思っている。
「だけど、この温める魔道具だが種類が2つあるみたいだな? こっちの箱型はなんでも入れられて使いやすいが、この鍋型は汁物を作るとき専用なのか、坊主?」
「いや、違うと思う。箱型と鍋型は温める仕組みが違うんだと思う。箱型はマイクロ波、鍋型は遠赤外線じゃないかな?」
「マイクロ波? 遠赤外線? なんだそれは?」
「よくわからん。説明が難しいんだよ。とにかく、箱型のほうは比較的なんでも温めることができるけど、鍋型のほうは特化型なんじゃないかな? まあ、汁物でも作れんことはないと思うけど」
「……よくわからんな。鍋型が特化型っていうのはどういうことだ? なにに特化しているんだ、坊主?」
「米だよ。その鍋型魔道具は米を炊くことに特化しているんだ。ふっくらと美味しく米を食べられるように設計されているって聞いたから、間違いないと思う」
「米? なんだそりゃ?」
「食べ物さ。麦と同じように腹にたまる穀物で、東方では米を食う人も多いらしい」
「ほう、東方の食べ物か。おいしいのか?」
「俺は好きだぞ。おっさんも一回食べてみるか?」
東方遠征における最大の成果。
それはブリリア魔導国と国交を結んだことで間違いはないと思う。
そして、その結果、東方で作られた魔道具なるものを手に入れる伝手ができた。
が、それ以上に嬉しかったことがある。
それは米が手に入ったことだった。
この世界に転生して今まで必死に生きてきた。
幼少期は特にずっと空腹状態が続いていたので、ひたすら食べ物のことを考えてきたと言ってもいい。
なので、基本的には好き嫌いなどなく、なんでも食べてきたし、それで特に不満はなかった。
が、やはり米はうまかった。
この体で食べたので懐かしいというのはおかしいのだろうが、それでも久しぶりに食べた米は五臓六腑に染み渡り感動すらしてしまった。
鍋型魔道具はそんな東方米をふっくら美味しく炊けるように作られた専用魔道具だったのだ。
「というわけで、俺はこれから米作りをしようと思う。止めるなよ、おっさん」
「お、おう。別にいいけど、また仕事が溜まって怒られるなよ、坊主」
大丈夫だ、問題ない。
米作りも立派な内政仕事だ。
きっとリオンたちもそれを理解してくれることだろう。
こうして俺はフォンターナ国内での米作りを開始したのだった。
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