シャーロット
『私たちをすぐに解放しなさい。こんなことをすればどうなるかわかっているのですか? すぐに我が国が軍を率いてやってきますよ』
『それは怖いですね。なんとか穏便に話を進めたいものですが』
『できるわけがないでしょう。あなた方は誰に剣を向けたかわかっていないようですね。ブリリア魔導国の王女たる私がいる以上、このような無礼は決して許されません』
『驚きました。まさか、このような時期にアトモスの里に王女様がおられるとは思いもしませんでした』
『覚悟しておくことです。すぐにお父様が私を助けるためにここに来るでしょう。そうすればあなたはお終いです』
『どうでしょうね。意外と戦ってみないとわからないかもしれませんよ』
『ありえませんわ。見たところ、あなたもどこかの王族のようですが、お父様には勝てません。そうですね……、お父様と一騎討ちをして、膝をつかせるようなことが万に一つでもあれば健闘したと褒めて差し上げましょう』
『……それほど力の差がありますか? ブリリア魔導国の国王と私では』
『もちろんです。王家は長年の婚姻により、代々力を高めて継承しているのです。ブリリア魔導国はその中でも絶大な力を持つ家です。敵うはずがありません』
『ですが、最近は帝国に押され気味のようですね。アトモスの里を狙ったのはそのために戦力を求めたからではないのですか?』
『……まさか、あなたは帝国の人間、ということですか?』
『さて、どうでしょうね』
タナトスと一緒に巨大な精霊石を見て、押収品の性能を確認した後のことだ。
ようやく、アトモスの里という名の大渓谷内にいた人たちを収容し終えたと報告があった。
そのため、ここにいる責任者と話をしようと考えたのだ。
だが、最初に話そうとした警備隊の指揮官の様子に違和感を覚えた。
何かを隠している。
そんな気がしたのだ。
そこで、もう一度相手の建物を調べてみた結果、興味深いものが見つかった。
この場にはあまりふさわしくないような女性物のドレスのようなきれいな服が見つかったのだ。
だが、収容したブリリア魔導国の関係者の中にそのドレスを着るような者がいるという報告はない。
ということは、もしかしてすでに逃げた後なのかもしれない。
が、せっかく話し合いをするのであればなるべく身分の高い者のほうがいい。
そこで逃げたかもしれない女性を追いかけたのだ。
その結果、こうして思わぬ大物と話ができることになったわけだ。
ブリリア魔導国の第三王女のシャーロットと名乗る女性が発見された。
念の為に連れてきていた追尾鳥のおかげで、大した苦労もなく発見できたのだ。
そして、こうして捕らえた王女様を丁重にお迎えして会話を交わす。
その間にも俺はシャーロットを観察し続けた。
シャーロットはその身から発する魔力量がかなり多い。
どのくらい多いのかというと当主級と匹敵するほどの魔力量を持っているのだ。
いや、単純に当主級と言っていいものかどうかわからない。
最近当主級になったばかりのエルビスよりも魔力量が多いのではないだろうか。
口調は厳しくこちらに向けて発しているが、見た目から受ける印象とギャップがある。
どちらかというと、ふんわりした可愛らしい15歳くらいの女の子なのだ。
だが、その力強さは王族であると名乗るに相応しいものだった。
大雪山を挟んで東と西ではかなり違うんだな。
シャーロットを見て、心のなかで呟いていた。
俺が生まれた西では教会が名付けや継承の儀を行って王家や貴族家の力を過去から現在にかけてつないできた。
が、東では教会のような手法は取られていなかったようだ。
よくわからんが、どうも魔力の強い者同士が結婚して子をなすことで、代々王家などの強さを高めてきたのだという。
シャーロットは歴史あるブリリア魔導国の王女というだけあって、生まれながらにして当主級に匹敵するだけの魔力を持っているのだろう。
そのシャーロットが言うには、どうやら俺も王族クラスの魔力量があるようだ。
が、シャーロットの父親でブリリア魔導国の国王には全く敵わないらしい。
それが身内贔屓の評価ではないのであれば、とんでもなく強い相手だ。
少なくとも一騎討ちは絶対にしないようにしないといけないな。
『ところで、シャーロット様にお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?』
『……なんでしょうか』
『質問の前にこの絵をご覧ください。どうです、ちょっとかわいい系ですがシャーロット様と同じ年頃の男性なのですが』
『……そうですね。ですが、それよりもものすごく精巧な絵ですね。これはどなたが描かれた絵なのでしょう?』
『その辺の話は今は置いておきましょう。シャーロット様、ご結婚はまだですか? どうです、私の弟のカイルのところに嫁に来ませんか?』
『な……、なにを言っているのですか。わ、私は歴史あるブリリア魔導国の王女なのですよ。それが、いきなりどこの誰かもわからない相手に結婚を申し込まれるいわれはありません』
『そうおっしゃらずに。いやー、実は私の弟の結婚相手に相応しい女性を探すのに苦労していて。こうして、シャーロット様と相まみえたのは天のお導きでしょう。いや、本当に今日は吉日ですね』
『ま、待ちなさい。わかりました。あなたとはもっとしっかりと話し合う必要があるようですね。あなたの本当の狙いはなんですか? なぜ、この地を狙って攻撃を仕掛けてきたのです。目的を言いなさい。話によっては聞いてあげなくもありませんよ』
『そんなに照れなくてもいいですよ、シャーロット様。いや、私の妹になるならシャーロットと呼ばせてもらおうかな。大丈夫、カイルはとても優しいですし、すごい有能ですからね。幸せにしてくれますよ』
『お戯れはそれくらいになさってください。は、話を本題に戻しましょう。あなた方の目的を言ってください』
『うーん、結構本気なんですけどね』
あながち冗談でもなかったんだけどな。
ただ、このシャーロットという王女様はどうやら気丈に振る舞ってはいるものの、そこまで交渉慣れしていないのかもしれない。
これならば、あとから来る軍を相手に戦ったり交渉するよりも多少相手しやすいのかもしれない。
こうして、俺はシャーロット相手に要求をぶつけることにしたのだった。
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