戦利品
「うーん、駄目だな。この大きさだとさすがに完全再現できないか」
タナトスからの許可をもらって、大地の精霊が宿りし偉大なる石と呼ばれる巨大な精霊石に手を触れる。
そして、そこに魔力を通して【記憶保存】してから、俺の魔力で同じものが再現できないだろうかと考えたのだ。
が、どうやらそれは無理なようだ。
あまりにもでかすぎるからか、あるいは別の理由があるからなのか、いくらやってもうんともすんとも言わなかった。
「だが、小さいものであれば作れるのか。やはり、お前はすごいな、アルス」
が、再現できなかったのは巨大な精霊石のみだ。
ほかはできた。
つまり、ブリリア魔導国などが採掘していたような比較的小さな精霊石は俺の魔力で記憶してから、それを再現して作り上げることができたのだ。
感覚的には、このアトモスの里で採れる大地の精霊石と大雪山にあった吸氷石は似ているのではないかと思う。
吸氷石も精霊の宿る石と呼べなくもないし、あるいは氷属性の魔石とも言えるだろう。
「けど、口惜しいな。もしかしたら、アトモスの里にくれば俺も大地の精霊とかと契約できないかとちょっと期待していたんだけどな」
「反応はなにもないのか?」
「ないな。この巨大石に魔力を通してみたけど、なんにもない。カイルみたいに向こうから話しかけてきたり、契約を持ちかけてくれたら良かったのに」
「ならば、この里に伝わる儀式をアルスもしてみたらどうだ? そうすれば、大地の精霊が宿りし偉大なる石がなにか反応を示すかもしれない」
「うーん、その場合はよくわからん薬を飲んでから、殺し合いのような試合をしないといけないんだろ? ちょっと勘弁してほしいね」
アトモスの里に行くと決めた時から密かに期待していたことがある。
それは、精霊と契約できないだろうかということだった。
カイルはバルカニアの北の森で古の大木に呼ばれて、精霊と契約を交わした。
そのときに、タナトスは言っていたのだ。
俺たちアトモスの戦士も精霊と契約を交わしている、と。
それを聞いていたので、アトモスの里に行けば大地の精霊と逢えるかもしれないと思っていたのだ。
だが、実際にはどうも特殊な儀式の結果、なぜか巨大化する魔法技術を手に入れていたようだ。
これがカイルと同じような精霊と契約したことによるものなのかは定かではない。
が、少なくともカイルのときのように、相手のほうから直接俺の頭に魔力的に話しかけてくる存在がいるわけでもないので、ここで粘っても精霊との契約はできないのだろう。
残念だが諦めるしかないだろう。
「まあ、収穫がなかったわけでもないからな。思った以上にいいものが手に入ったよ」
「それは使えるのか?」
「ああ。ブリリア魔導国の連中が使っていた魔法の杖と魔装兵器の核。どっちも問題なく使えそうだ。タナトスも使ってみるか?」
「……そうだな。アトモスの戦士は自分の体を武器にして戦うが、岩巨人は強かった。今後はああいうのも相手にしないといけないのかもしれない。ならば、それを実際に自分でも使って特徴を知っておいたほうがいいのかもな」
「そうだな。まずは相手のことを知らないと一方的に負けることになるかもしれないからな」
そう言ってタナトスに今回得た戦利品を手渡す。
一つは杖だ。
木の杖の先にアトモスの里で採掘された黒曜石のような精霊石を取り付けている。
よく観察すると、この杖の先の石にも加工が施されているようだった。
一度表面をピカピカに磨いてから表面に模様を入れたようだ。
その模様になんらかの意味があり、魔法の杖としての効果を発揮しているのではないだろうか。
「こう、か。なるほど。杖に魔力を送るだけで魔法が発動できるのか」
「みたいだな。人の頭よりも一回り大きい石を発射する魔法の杖だな。俺も使ってみたけど、この大きさの石を出すにしては魔力の消費は少なくてすんでいるし、何よりも射程がそこそこある。結構使い勝手が良さそうな武器だね」
「だが、これはアトモスの戦士にはさほど脅威にはならん。問題はもう一つのほうだ」
「そうかもね。こっちが魔装兵器の核だが、これも魔力を通したら発動する。で、発動させたら使用者の魔力を吸収して動くようだ。やってみるか?」
「ああ。……ほう、すごいな。かなり自由に動かせる」
「みたいだね。魔力を送り込んで起動させた者の意思に沿って行動するみたいだ。いやー、けどほんとすごいよ。二足歩行させるのは大変だと思うんだけどな。というか、岩だけでどうやって動いてんだって話だけど」
「いや、そこを気にするのか……。それよりも問題なのはこいつの修復機能だと俺は思う。如意竜棍があったから俺はまだ戦えたが、あれくらい硬い武器がなければアトモスの戦士も戦いにくいはずだ」
「ライラも硬化レンガの棍で戦っていたけど、決定打が与えられない感じだったからな。戦場で猛威を振るうアトモスの戦士に強敵現るってところか?」
「笑い事ではない。アルスがいなかったらやばかった」
「俺というより氷炎剣が役に立ってくれたからな。泥人形を倒した経験があったのも良かったよ」
魔法の杖の次は、魔装兵器の核をタナトスと試す。
こちらも精霊石を加工し、表面になんらかの模様がある。
杖のものよりも大きな精霊石を使用しているようだが、それよりもこの模様に秘密があるのか杖のときとは模様の形状が違っていた。
魔導国という名が示すように、この模様にこそブリリア魔導国の秘技が隠されているのではないだろうか。
ちなみにだが、俺の魔力では原材料の精霊石は作り出せても杖や魔装兵器用に加工されたものは再現できていない。
おそらくはなんらかの魔法的な処置を施しているのだろうと思う。
そして、どうやらこの杖や魔装兵器は魔力を込めれば誰でも使えるようだった。
魔装兵器の核に対して魔力を通すと、岩でできた巨人が姿を現す。
最初は使用者の魔力を使って岩の体を出し、傷ついたら周囲の岩や石でも修復可能なようだ。
ということは、地面がないところでは修復できないのだろうか?
まあ、地面はほとんどの戦場であるので、実質的には回復材料はそのへんにいくらでもあることになるのだろう。
魔力を込めると現れた魔装兵器は、起動した者の意思通りに動くようだ。
コントローラーなどは無いようで、こちらの頭で考えたとおりに動かせる。
が、オートマチックな自律行動はできなかった。
ということは、あの時俺たちが魔装兵器と戦っていたときにはどこかから使用者が見ながら操作していたのだろうか。
案外、魔装兵器を相手にするよりも使用者を見つけ出してそっちを倒すほうが簡単なのではないだろうかと思ってしまった。
「これ、いいな。アルス、これは俺にもくれないか?」
「魔装兵器が気に入ったのか、タナトス?」
「ああ。杖は巨大化したときに使えないからいらないが、こっちは使える。岩巨人を出して一緒に戦えば、戦い方にもっと幅が広がるかもしれない」
「アトモスの戦士が岩の巨人を引き連れて戦場に現れたら手がつけられなさそうだな。いいよ、俺とタナトスとライラで手に入れたのを分けようか」
どうやらタナトスは魔装兵器を結構気に入ったようだ。
同時に3つ起動させて岩の巨人を従えるようにして操っている。
前言撤回だ。
タナトスのようなアトモスの戦士がこの魔装兵器を使ったらさっき考えたように簡単には倒せない。
使用者のタナトス自身も手に負えない強さを持っているのだから。
これはもしかして、ブリリア魔導国はアトモスの戦士の代わりとなる兵器を開発したのに、その実、アトモスの戦士を強化する結果になったのではないだろうか。
大渓谷の中の少し開けた場所でタナトスが巨人化し、魔装兵器を起動させて仮想敵と戦うシミュレーションをしているのを見ながら俺はそう思ったのだった。
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