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「お疲れ様、カイル」


「あ、そっちこそお疲れ様、アルス兄さん。ごめんね。思ったよりも怪我人が多く出ちゃった」


「回復魔法使いっぱなしでほんと大変だったよ。けど、教会の司教とかに回復を頼んだらお金がかかるしな。しょうがないよ」


「ごめんね。……で、どうだったかな? ボクの指揮は」


「俺から言うことはないな。どこにも文句をつけようのない統制の取れた軍の動きだったよ。まさか、包囲殲滅戦をするとは思わなかったけど」


「えへへ。ボクは今まで領地で仕事をしていることが多かったでしょ? 軍について動いた最初のころは輜重隊の指揮がほとんどだったしね。あんまり戦術って知らないんだ。だから、今までアルス兄さんがしてきた戦の報告書を読んで自分なりに勉強してきたんだ」


「ああ、それでか。壁を使った包囲戦はウルクのキーマ騎兵隊との戦いだったな。あれの報告書を読んであの作戦を実行したのか? あれは角ありヴァルキリーだったからできたけど、よくまあ人間をあそこまで上手く使ってできたもんだな」


「実際に隊を動かすのはそれぞれの指揮官だからね。その人たちに指示を出して動いてもらうだけだから、ヴァルキリーとそう変わらないんじゃないかな?」


「いや、全然違うだろ。角ありヴァルキリーなら群れ全体で一個の集団だ。だけど、人間はそうもいかない。フォンターナ軍は指揮系統をわかりやすく構築したとはいえ、流動的な戦場で、自分も実際にその場にいながら的確な指揮を出し続けるのは大変だと思うよ。カイルはよくやったよ」


「ありがとう、アルス兄さん。でも、それは別にそんなに大変じゃないでしょ? 複数のことを同時に考えるなんて誰でも普段からやっているんだし」


「……え、そうかな? いや、そんなことないんじゃないかな? ちょっと待って。カイルは普段から常に複数のことを考えながら行動しているのか?」


「もちろん。アルス兄さんもそうでしょ? 書類を読みながら、計算して、他の人への指示を今後の動きを考えてって、同時進行で考えてやらないと時間の無駄なんだから」


「いや、なんかごめん。俺はそんなことあんまりできないんだけど。え、じゃあ、もしかして、今俺と話しながらも色々別のことを考えていたりするのか?」


「うん、そうだよ。【念話】でいつも頭に直接話しかけられているしね」


「……じゃあ、もしかして、一度に10人くらいの人がカイルに話しかけても、全員が何を言っているか理解できたりするのか?」


「うん。それくらいできるに決まってるでしょ?」


 え、まじで?

 そんなことできるの?

 いや、やれと言われれば頭に魔力を集中させれば可能なのかもしれない。

 けど、普段から俺はそんなことをしているかと言われたら、やってないとしか答えられないんだが。

 こいつは聖徳太子かなにかか?


 でもそうか。

 カイルは俺がバルカ騎士領の当主になったころから領地の仕事を任せたりしていた。

 俺が初めてウルクと戦いに出かけたときなどは、領地の仕事をまだ年齢一桁のときのカイルに任せたりしていたのだ。

 そして、そのころからカイルはしっかりと仕事をこなしていた。

 というよりも、当時からすでに俺よりも領地運営をきちんとしていたように思う。


 もしかすると、その頃から同時に複数のことを考える癖でもついていたのかもしれない。

 というか、そうでなければあの量の仕事をできなかったのかもしれない。


 そこで、周りにいた連中を集めて、カイルに対して同時に話しかけてもらう実験をしてみた。

 すると驚いたことに、10人どころか数十人を超えても誰が何を話しかけたかカイルは理解しているということが判明した。

 相談事などは順番に的確に返事を返すというおまけ付きだ。

 さすがに魔力を頭に集中させれば頭の回転が速くなるとはいえ、ここまでは俺もできないかもしれない。


「カイル、お前のそれは他の人はできないと思うよ」


「ええ、それはうそでしょ、アルス兄さん。じゃあ、同時に話しかけられたときにどうやって聞き分けるの?」


「いや、だから、大抵の人は同時に話しかけられたら混乱して全員何言ってんのかわからなくなると思うよ」


「ホントかな? このくらい誰でもできると思うんだけどな」


「……ああ、なるほど。カイルは昔からそれが当たり前にできていたから、その状態が普通なんだな。だからできない人の気持ちが理解できないんだよ」


「アルス兄さんもできないの?」


「俺は数人なら聞き分けられるかな。でも、カイルほどじゃないと思うよ。というか、俺は普段からそこまでいろんなことを同時進行で考えたりしてないし。なんていうんだったかな。まるで、並列思考とか並列処理でもしているみたいだな」


「……並列処理。他の人にはできない考え方。頭の使い方、か。アルス兄さん、それって魔法にしたら便利かな?」


「並列処理を魔法に? ……そうだな。多分、リード姓の人間のほとんど全員がその並列処理はできないだろうから、魔法にできれば恩恵を受ける人は多いと思うぞ」


「わかった。じゃあ、新しく呪文を作ってみるね」


 軍事演習を終えたカイルとの軽い雑談。

 俺としては攻撃魔法を持たずにルービッチ軍を完封したカイルを褒めようと思っていたのだ。

 ただそれだけのつもりだった。

 が、思わぬ形でカイルの優秀な面が判明した。


 常に複数のことを同時に処理する頭の使い方。

 それをカイルは当たり前に他の人間全員がしているものだと思っていたようだ。

 だが、そうではない。

 多くの人にとってはそこまで同時に情報を処理できるものではないだろう。


 自分では気が付かなかったその事実を知ったカイルは、それならばそれを呪文化して魔法にしてしまおうと考えたようだ。

 新たな呪文、【並列処理】を生み出すために、それからしばらくカイルはずっと「並列処理」とつぶやき続けながらも仕事を続けることになったのだった。


 そして、その呪文はしばらく後にしっかりと呪文として完成した。

 【速読】でどんなに分厚い本をも瞬時に理解しながら、【自動演算】であらゆる計算を完了させ、【念話】で遠方のリード姓の人と頭の中で会話しつつ、【念写】でその通信記録を紙に写し出す。

 【並列処理】を使うと、それらを同時にこなすことができるようになってしまった。

 こうして、カイルがこの新たな魔法を開発したことによって、フォンターナ王国は一度に大量の聖徳太子もどきが出来上がったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] アルスは前世の記憶があるから、まあ納得だけどカイルは本物の天才やな…
[一言] カイルさんぱねぇッス(笑) 世間を驚かせまくりのアルスを 驚かせられる希有な存在(笑)
[一言] 今までの騎士・貴族制度って 沢山の優秀な人材取りこぼしてたんやなあ 農民の子供が3人も魔法作るようになるなんて そうそう想定出来るもんでは無いとはいえ 内一人は魔法無くても文官系で優秀だし …
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