後始末
「そこまで! 勝者、フォンターナ軍。これにて軍事演習は終了だ。両軍とも動きを止めろ。衛生兵部隊は直ちに現場にて負傷者の手当を行え。急げよ」
塔の上からフォンターナ軍とルービッチ軍の戦いを見ていた俺は、勝敗が決したと判断し声を張り上げた。
声に魔力を乗せて遠くまでよく通るように発声する。
怒号が飛び交う演習場たる平原にあっても、その声は両軍に対して届いたようですぐに動きを止めた。
そこに急行する衛生兵たち。
俺もすぐに塔を降りて現場に向かった。
今回の軍事演習に際して、あくまでもこれは実際の戦闘ではなく、訓練の一環であるとしていた。
そのため、武器などは衝撃を受けると赤い樹液が飛び出る不思議な木の枝などを使用していた。
が、おそらくそれでも怪我人続出だろう。
もしかしたら命を落としている者もいるかもしれない。
とりあえず、現場についた衛生兵たちは怪我をした者たちを振り分ける作業へと入った。
いわゆるトリアージとかいうやつだ。
無傷やすぐに治療をする必要が無い者、あるいはすぐに治療が必要な者、即座に回復魔法が必要な者などといったふうに治療の必要性に応じて区別していく。
これは軽い怪我をしている者の治療に軍医が手を取られている間に重傷者が手遅れにならないようにという意味がある。
そして、振り分けた中で軽いけが程度なら衛生兵が、すぐにきちんとした専門的な手当が必要な者は軍医が、それ以上の重傷者には回復魔法を使用して治療していく。
どうでもいいが、すぐに回復魔法が必要な重傷者が結構多い。
フォンターナ軍が大勝だったこともあるが、やっぱり訓練の戦闘で魔法を使うのは考えものだ。
わかっていたけど今後も軍事演習をするのなら、もうちょっとなにか対策をしないといけないな。
俺は魔法鞄から魔石を取り出しながら、何度も何度も回復魔法を使用していったのだった。
※ ※ ※
「カイル、よくやった。いい戦いだった。今後もフォンターナ軍の指揮を頼むぞ」
「ありがとうございます、ガロード様」
「ルービッチ軍もよく戦ったぞ、ブラムス。左右の軍が劣勢でも怯むことなく逆転に向けた次の一手を決断するその判断力が見事だった。今回は負けてしまったが、どうかこれからもフォンターナのために働いてほしい」
「はっ。ガロード様にはお見苦しい戦いを見せてしまいました。ルービッチ家当主として、今回の戦いを反省し、必ずやフォンターナ王国のために働くことを誓います」
「うむ、よろしく頼むぞ」
ざっと怪我人を治療してから、最後の締めに移った。
軍事演習を終えた両軍を休ませて、その指揮をとったカイルやブラムス、そして指揮官たちに対してガロードが声をかけていく。
一応、ガロードには絶対にルービッチ家を批判したりせずに労うような言葉をかけるようにリオンとともに言い聞かせていた。
あそこまで完敗して、さらに国王から責められたら俺なら嫌になると思うからだ。
うまくいくかどうかはわからないが、打ちのめされて落ち込んだときにこそ、優しい言葉をかけるべきだろう。
「ガロード様の言う通り、ルービッチ軍は急造軍であるにもかかわらずきちんとまとまりを持って最後まで戦っていました。それは紛れもなくブラムス殿の力によるところでしょう。どうでしょうか、ブラムス殿。ぜひ、フォンターナ軍で将軍として指揮をとってみるというのはいかがでしょう?」
「フォンターナ軍の将軍ですか、大将軍殿? ですが、今回の軍事演習で我らルービッチ家はその力を示すこともできずに敗北しました。そのような者が将になってついてくる者などいるのでしょうか。それに、負けたとはいえ、いまだに家中では農民に魔法を授けることに異論ある者もいるかもしれません」
「ブラムス殿がその指揮能力を示したことはガロード様もお認めになったところです。それに魔法を授ける件は今回は別問題として扱ってもいいのではないでしょうか? ひとまずその件は棚上げして、ブラムス殿は将軍としてフォンターナ軍を率いてもらいたいと考えています。どうでしょう?」
「……わかりました。ありがたいお言葉です。このブラムス、フォンターナのために働かせていただきたいと思います」
「ありがとうございます。これはめでたい。ではすぐにブラムス殿の将軍就任を祝って、宴を開きましょう。さあ、お集まりの皆様、思う存分食べて、飲んでください」
本当は剣兵としてフォンターナ軍の力を底上げしてくれれば言うことなしだったが、あまり望みすぎるのもあれだろう。
ひとまずはルービッチ家の人間や騎士を指揮官としてフォンターナ軍に取り込んでしまおう。
というか、そうしないと領地を持たない彼らは収入がないのだ。
軍に入ったあとにゆっくりと説得していくだけでもいいとしよう。
初の軍事演習はとりあえず成功という形で幕を下ろした。
だが、このことは結構周囲に影響があったようだ。
今まで奇襲という形での勝利が多かった俺のバルカ軍やフォンターナ軍だが、同数程度の規模の戦いでも圧勝するだけの力があることが示された。
それにその指揮をとっていたのはカイルであるため、フォンターナ軍では「当主級たる上位魔法を持たなくとも将軍として機能する」という認識が広がった。
そして、ルービッチ家のようにフォンターナ王国に組み込まれたのにもかかわらず反対意見が多いところは見せしめとして戦わされてその心をへし折られるかもしれないとも思われた。
そんなふうに周囲にいろんな意見が出た結果、それまで少なからず存在した俺の新しいやり方に反対する空気は薄くなり、逆にこの新しい風に乗って頭角を現してやろうと考える者が増えたようだ。
また、軍事演習もそのやり方を検討しながらも、ガロードという国王の前で行われる訓練兼行事として定着していったのだった。
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