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新部隊

「そういえばフォンターナ軍にあれを導入していなかったな」


「ちょっと待ってください。次は何をする気ですか、アルス様。フォンターナ軍は兵に対して魔法を授けたりしたばかりです。これ以上変なことをしないでください」


「いや、そんな変なことをする気はないよ、リオン」


「なるほど。アルス様にとってはそうなのでしょうね。しかし、騎士になるわけでもない兵に魔法を授けるという行為がいかに今までの常識から外れているのかもう少し理解してください。これ以上、変なことをするようであれば他の者達もアルス様についてこなくなりますよ」


「確かにそれは困るけど、今回のは本当に大丈夫だよ」


「……わかりました。私もちょっと落ち着きましょう。……では、どうぞ。次は軍に対して何をする気なのですか?」


「そこまで慎重にならんでもいいだろ。何って衛生兵を作ろうかと思っただけだよ」


「衛生兵? なんですか、それは?」


「医療を担当する専門の兵とその部隊だよ。今までいなかっただろ? せっかく、軍の編成を工兵やら騎兵やら通信兵なんかに分けたんだ。この際だから衛生兵も作っておいたほうがいいだろう」


 フォンターナ王国の各地を回り、地元住民から過去に何度も氾濫したことのある川の聞き取り調査を行い、河川工事をする。

 そんな仕事の合間にふと思いついたことがあった。

 それは新たな部隊の創設。

 フォンターナ軍に衛生兵を作ろうという考えだった。


 リオンに言った通り、衛生兵というのは軍の兵のなかで医療を担当する者のことだ。

 が、リオンはなんだそれはという感じで俺の言った言葉を聞き返してきた。

 まあ、それもそうだろう。

 なぜなら、今までの軍には衛生兵に相当する役割のものが存在しなかったからだ。


 もともとこのあたりの一般的な軍は貴族が騎士とその従士に命じて農民を招集させて、その農民たちをまとめて軍としている。

 軍と軍がぶつかり合っての戦となった場合、当然死傷者も出る。

 が、あまり医療が発展していなかった。

 それにはもちろん理由がある。


 貴族や騎士は戦場で怪我をすると貴族領の領都にいる司教に回復魔法を頼むのだ。

 あるいは大貴族であれば当主などは自分で回復魔法を使える者もいるだろう。

 するとあら不思議、回復魔法はあっという間に傷を修復してしまう。

 つまり、高貴なる者に対しての医療というのは、すなわち教会で受けることのできる回復魔法と同義だった。

 そのため、回復魔法の使用できない医師が行う医療というのは、ある意味おまじないレベルとしか見なされていなかったのだ。


 もちろん回復魔法が誰でも受けられるわけでもないため、当然ながら貴族や騎士以外のけが人を治療するための方法ももちろんある。

 が、それは体系立てて整理された医学ではなく、逆に人体に悪影響のある治療法も数多くあった。


 俺もそのことは身にしみてわかっていた。

 かつて、俺も農民から騎士へとなって軍を率いていたが、軍の中で怪我をしたものに「その傷にはこの治療が良いぞ」といって動物のフンを混ぜた泥状のなにかを擦り付けている行為を見たものだ。

 俺自身は戦でそこまで大きな怪我をしたこともなく、幸いにもそんなものを塗りたくられることはなかったが、ようするに一般的な軍の中ではそんなおかしな行為が蔓延していたのだ。


 だからこそ、俺はミームという医師に出会った際に、治療効果の有無の確認をさせる仕事を任せた。

 そして、少なくとも俺が率いている軍の中では明らかに人体に害のある治療もどきは行わないように指導を行ったのだ。

 が、あとはせいぜいミームの知り合いの医師に軍に同行してもらい働いてもらったくらいで、きちんとした専属の医療担当というものはいない。


 これはよくないだろう。

 少なくとも昔と違って今は数万人の組織として活動しているのだ。

 医療の心得があるものを軍医として少数引き連れていったくらいでは到底その手は足りない。

 そんな当たり前のことが俺の中からすっぽりと抜け落ちていた。

 俺自身が回復魔法を使えるようになったからかもしれない。

 が、現状軍で怪我したものをすべて回復魔法で対応するのは無理だ。

 であるならば、しっかりとした医療技術を持つ専門集団を用意しておいたほうがいいだろう。

 それに、ある程度の知識を持つ衛生兵ならば、軍を退役したあとに地方に戻って医療者としての仕事をしてくれるかもしれない。


「なるほど。そういうことでしたか。それはいい考えだと思います。では、各地の医者を集めてその衛生兵とすることにしましょう」


「いや、ちょっと待ってくれ。医者を集めるのもいいけど、何も知らない若いやつだけを衛生兵にしたほうがいいかもしれない」


「なぜですか? 知識がある者を使ったほうがいいのではありませんか?」


「その知識が邪魔なんだよ。ミームの研究で害ありと証明した行為を、今までこのやり方でやってきたから大丈夫だ、と言い出しかねないだろ? むしろ余計な知識がないまっさらな状態から教えたほうがいいかもしれない」


「ですが、それだと時間がかかりそうですね。医療行為を教えるには時間もかかるでしょう」


「だから軍医と衛生兵を分けるんだよ、リオン。衛生兵はあくまでも軍でよく起こる外傷系の治療なんかに絞って教えていこう。それも簡単なやつを。難しいのは軍医に任せる形にしたほうがいいと思う」


「軍医と衛生兵は違うものでしたか。わかりました。では、そのように」


 衛生兵の治療行為をどうするかはミームとも相談してみよう。

 まあ、なんだったら【洗浄】を使って清潔に保つことを徹底する係でも最初はいいだろう。

 あとは治療の優先順位をつけるトリアージとかでも導入してみようか。

 軍医が治せない大怪我ならば下手にその場で治療するよりも教会に担ぎ込んだほうが早い場合もあるだろうしな。


 こうして、フォンターナ軍にまた新しい役割をもった部隊が作られることになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 兵士全体にある程度応急救護を教えるだけでかなり変わるんじゃ数日程度で言い訳だし 怪我をしたら、洗浄! だけでもかなり違う気がする バルカ兵に洗浄が必要なのかがわからないが ヨーチン係が洗浄で…
[一言] 衛生兵の創出により、さらなる死傷者の死亡率低下に繋がるのは誠に素晴らしいです。 次はどんなことを作者が想像していくのか楽しみです。 そういえば、そろそろ辺境伯の周囲侵略についての援助申請や報…
[一言] バルカの土木魔法なら骨折の治療くらい出来そうな気がするw
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