内政と雇用対策
フォンターナ王国は強くあらねばならない。
ドーレン王家という旧来の権力と真っ向から対立し、それに対して力を示して独立を勝ち取った。
が、それで終わりではないのだ。
今後もフォンターナ王国は独立を維持し続けるために力を示し続けなければならない。
だが、それは決して常に外の相手と戦い続けるということを意味しているのではない。
むしろ逆だろうか。
仮に国境で人の行き来を封鎖されても耐えられるように、王国内部に力を蓄えなければならない。
内政を行い、国を富ませなければならないということだ。
まず、一番重要になるのが食料自給率の向上だ。
これにはバルカの魔法を使用するのが一番手っ取り早い。
が、バルカの人間をそれだけに取られるわけにもいかないので、今回フォンターナ軍に工兵として三個大隊にバルカの魔法を授けることにした。
この工兵を使って【整地】や【土壌改良】を行っていくことになる。
今までいくつもの土地を見てきたが、そのどれもが農業技術が低かった。
おそらくは新たに開拓して農地を広げるというよりも、既存の農地を【土壌改良】するだけでも大幅に収穫量が増すことは間違いない。
それに、フォンターナ軍として検地を行ういい機会でもある。
しっかりと農地の広さなどを確認しておくことにする。
それと同時に、各地に道路網と線路を張り巡らせる。
これも意外と馬鹿にはできない効果がある。
魔法鞄という不思議アイテムができたとは言え、あれはまだ貴重品で一部のものしか所有できない超高級品だ。
普通は荷車などに荷物を載せて移動せざるを得ない。
その場合、しっかりした道路があるかどうかで移動速度は劇的に変わってくる。
が、道路網の整備はそれ以上に転送石での移動が可能になるというのが個人的に大きかった。
どういうわけか、道路などでつながった土地であれば、転送石を設置するとほかの転送石からそこへと跳ぶことが可能となるのだ。
なので、カーマスの防御壁の外であるルービッチ地区やエルメス地区、あるいはブーティカ領にも道路を繋げなければならない。
だが、個人的にもっと重要度の高い内政仕事があった。
それは災害対策だ。
災害というのは非常に厄介なものだ。
人間の力が及ばない不可抗力の暴力を受けるようなものであり、その突発的な出来事によって領地は大きなダメージを受けることになる。
では一番対策しなければならない災害とはなにか。
数年前には大地震があった。
が、地震への対策は実はあまり重要視はされていない。
今まであまり地震が起きなかったというのが大きな理由だ。
それよりも、もう少し頻繁に起こり、領地への被害が大きい災害がある。
それは洪水だった。
洪水とは大雨などの影響で一時的に急激に水位が高まり、それによって川が氾濫する現象だ。
前世でも氾濫する川を「龍が暴れている」などと表現し、土地の名前にも龍や蛇という文字が使われた、などという話を聞いたことがある。
天候による影響であっという間に人もものも土地も押し流されてしまうという悪夢のような出来事。
だが、それでも人は川のそばを離れることはできない。
氾濫した川のそばの土地は、その水がひくと上流から流れてきた肥沃な土が農作物を育てるための肥料代わりにもなるのだ。
ゆえに、何度氾濫が起こっても再び人は川のそばの土地へと戻ってきて再び営みを開始する。
が、さすがにそれはそろそろ脱却するときだろう。
今は上流から流れてくる土に頼らずとも、農地に栄養を与える手段もある。
むやみに被害を出さず、安定した収穫を得られるようにしたほうがいい。
というわけで、俺はフォンターナ王国がより安定して成長できるようにするために、川の氾濫対策へと乗り出すことにしたのだった。
※ ※ ※
「久しぶりに来たな。どれどれ、カイルダムの様子はどうなのかな?」
川の氾濫に対しての対策。
とは言うものの、何も全く新しいことをしようというわけではない。
今までやってきたことをフォンターナ王国全体で行おうというだけの話だ。
氾濫を防ぐためには、一番重要なのは川の流れそのものを変えてしまうことだと思う。
自然に成立した川というのはグネグネと曲がっていることがあるが、あれはよくない。
カーブの部分でいくら堤防を作っていても、水位が上がるほどの大雨が降れば氾濫する危険性は高まってしまう。
そのために、川の流れそのものを変える工事もする必要があるだろう。
だが、それは事前に入念な調査を行って取り組む必要がある。
そちらは飛行船や双眼鏡などを使って空からの調査も行うことにした。
リード家の人間を空にあげて、上空から土地を見下ろして【念写】してもらうことにする。
そうして、情報を集めている間に俺はダムについて調べることにしたのだ。
ダム、というと大層なことに聞こえるかもしれないが、俺が以前作ったのは大きな溜池のようなダムだった。
これはカイルダムという名をつけている。
カイルダムは夏場でも水を溜めておいて、必要があれば水路に水を流して農地へと送るようにできるようにしている農業用水路として使う利用法もある。
これと同じようなものをフォンターナ中に作ろうかと思う。
が、その前に再調査が必要だった。
というのも、ダムというのは川の流れによって流されてくる土や砂で埋まってしまうことがあるのだ。
聞いた話によると数年程度でも溜池ダムは埋没してしまうこともあるとかなんとか。
なので、数年前に作ったこのカイルダムの様子を見に来たのだ。
このカイルダムは土砂の蓄積にたいして一応手を打っている。
それはダムの中にスライムを放流するというものだった。
スライムとは旧アーバレスト領にあるパラメア要塞のあったパラメア湖に住む粘性生物で、難攻不落の要塞の守り手でもあった。
かつてウルク軍を溶かすという残虐無道な攻撃手段として利用されたこともある恐るべき生物兵器。
「けど、生態系っていうのは不思議なもんだな。スライムと魚が共存しているみたいだ。それに土砂の蓄積もない。カイルダムはうまく機能しているみたいだな」
だが、このカイルダムは特に問題なく機能しているようだった。
パラメア湖を調べてスライムが住むにふさわしい環境をダムの中で再現したことで、スライムは魚を全滅させたりすることなく共存している。
さらに、ありがたいことにダムの底の土砂の蓄積もスライムが防いでくれていた。
ダムの管理を任せていた者によると、このカイルダムは数年間整備なしでも全く問題なしだという。
これなら実用性とともに継続性は十分にあると判断してもいいのではないだろうか。
カイルダムの視察を終えた俺はそう判断した。
こうして、フォンターナ王国は国中でダム建設が開始されることになった。
これも、王家の墓の建設などと同様に仕事の創出につながるだろう。
フォンターナ軍の工兵だけではなく、仕事を求めてやってきた難民もなんとか無事に受け入れながら、公共事業によって働く場を提供する。
もちろん、その仕事に対しての賃金はバルカ銀貨で支払っている。
その結果、フォンターナではバルカ銀貨はバルカだけでのローカル貨幣ではなく、広く一般的に使用される貨幣のひとつとして定着することになったのだった。
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