食器代わりに
「いろいろ試したけど、先に鞄を作ってから転送石と【合成】したほうがいいみたいだな」
「どうもそのようでござるな、アルス殿。先に革そのものと転送石を【合成】した際は、下手に裁断するとその効果を失うようでござるからな。失敗をしないという点では鞄を先に作ったほうがいいように思うでござる」
「お二人の考えに同感です。鞄の中に角と転送石、そして魔石も詰めて【合成】する。これでほぼ失敗せずに【合成】できて、容量に比例して収容量が変動した鞄ができるようですね」
どうやら最初に【合成】したものが魔法鞄になったのは運が良かったのもあったようだ。
【合成】するときに革と転送石の置き方や、その後できた革を鞄へと加工する際のやり方で失敗作もできてしまった。
ちなみに、ルークがいうには一度失敗するとそれはもう【合成】には使用できないらしい。
さらにその後、共同研究所にて二人と頭を突き合わせながらあれこれしてみた。
どうやら、ヴァルキリーの毛皮を使ったのがよかったようだ。
これがもし大猪の毛皮や牙などでは魔法鞄の材料にはならなかった。
もしかしたら、ヴァルキリーの持つ固有の魔法【共有】がいい効果を発揮しているのかもしれない。
「けど、いいものができたな。これなら領地問題にちょっと希望が見えるかも」
「領地問題? どういうことでしょう、アルス様」
「ん、いやなに、こちらの話ですが、今後フォンターナでは基本的には中央集権化が進んでいくことになります。その際に、活躍した貴族や騎士にいちいち国土の一部を領地として渡すと王国としての力が減るでしょう。なので、そのかわりに爵位と金目のものを渡すことが増えることになるわけですよ」
「なるほど。つまり、その褒美の品として魔法鞄を下賜する、というわけですか。確かに、領地を得るほどの活躍をしたのであれば何もなしでは不満がたまります。それを満足させるためには相応の品が必要。魔法鞄をそれに充てようというわけですね」
「その通りです。最初は魔法剣を与えようかと思っていたのですが、魔法鞄であれば魔法剣の代わりの宝物としても十分通用する、はずですよね?」
「当然です。というよりも、本来であれば偶発的に得られるだけで人工的に作り上げる例のない品です。むしろ、ものによっては魔法剣よりも価値があると言われるでしょう。それに報酬として提示されるのであれば容量の規格や意匠にもこだわったほうがいいかもしれませんね」
「そうか。フォンターナ王家からの賜り物であるとわかるように鞄の表面を仕上げたほうがそれっぽいのか。なるほど。参考になります、ルーク殿」
「いえ、ですが、ぜひとも我らブーティカ家にも転送石を融通していただければありがたいのですが」
最初は俺の身内だけでこの魔法鞄を独占しようかとも考えていた。
が、これを使用すればどんなに隠そうとしても目立つだろう。
鞄の中からどんどん物が飛び出してくるというのを、バルカの人間だけが使っていれば明らかにおかしい。
しかも、貴重であるとはいえ魔法鞄そのものが他にも実在しているのだ。
であれば、バルカの鞄がその魔法鞄に該当するかもしれないと考えるものがいないはずはない。
いずれ気づかれるだろう。
そのとき、周りはどういう反応をするだろうか。
やはりほしいと思うのが人情だろう。
ルークの話を聞いていると、容量の大きな魔法鞄は普通の魔法剣以上の価値、それこそ貴族の当主が代々育てた家宝の剣くらいの価値がありそうな感じだった。
ならばそれを上手く使ったほうがいいかもしれないと思い直した。
今、フォンターナで仕事をしている人間は今後フォンターナ王国の領土が増えることがあれば領地を与えられる可能性はあるだろう。
が、国を安定させるためにはある程度中央集権として国に力をもたせておいたほうがいいのではないかと思っている。
フォンターナ王家の領地をそう簡単に切って分け与えるわけにもいかない。
が、外に領土を広げるにしてもいずれどこかで限界はくる。
なんらかの手を打っておく必要があった。
そこで思い出したのが前世で聞いた歴史の話だった。
かつて戦国時代があり、そこを統一目前に近づけた織田信長は家臣に刀や茶器を褒美として与えていたという。
刀はまあ戦場で使えるからまだ理解できないこともないが、茶器なんてものを褒美にもらって嬉しいのかと思ったことを覚えている。
が、その当時は茶器ひとつがものすごい資産価値になっていたらしい。
というか、織田信長自身が茶器のブランドイメージをあげるように色々動いていたのだという話を聞いたことがあった。
できるなら俺もそれを真似したい。
領地をあげる代わりに食器をやるから満足しろ、といって騎士たちを納得させたい気持ちはある。
が、かつて白磁器やガラス食器を作って行商人をしていたおっさんに売ろうとしていたときには全く売れないと言われてしまった。
今ならば、もうちょっと高値でトレードできるかな?
けど、いきなり急に俺が食器アピールをし始めて、領地代わりに食器を配ったら騎士は激おこだろう。
それをこの魔法鞄は解決してくれる。
すでに価値があるものであると認められているのだ。
しかも、現状でこれを作れるのは転送石を魔法で作れる俺と、【合成】ができるブーティカ家の共同作業のみだ。
ほかでは簡単に手にすることができない以上、値崩れも心配いらないだろう。
それになにより、氷炎剣や九尾剣、雷鳴剣といった貴重な素材を使った魔法剣を報酬に提示しなくともよくなる。
そう考えた俺は、一度フォンターナの街に戻り、フォンターナ家が古くから仕事を任せている革職人たちにヴァルキリーの鞄を作らせて、さらに細工職人に意匠の限りを尽くして、最高級の鞄を作らせた。
そして、それをもう一度ルークのもとに持っていき、【合成】して魔法鞄にしたのだ。
その結果、迷宮で発見される探索者が使った実用性オンリーの無骨な魔法鞄ではなく、王侯貴族が使用してもおかしくない気品あふれる魔法鞄が次々と製造されることになったのだった。
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