ブーティカ家の魔法
「よう、どうだ、グラン? ブーティカ家の連中とは仲良くやれているか?」
「おお、アルス殿。もちろんでござるよ。いやー、拙者、今までで一番アルス殿についてきてよかったと思っているでござるよ。あの時、アルス殿と出会ったのはまさに天の導きでござった」
「そんな大げさな。ブーティカ家と共同研究できるだけでそこまで喜ぶことなのか?」
「何を言っているのでござるか。当然でござろう。実は拙者、前からブーティカ領でものづくりをしてみたいと考えていたのでござるよ」
「へー、そうなんだな。前からってことは東からこっちにきて、あちこちを転々と旅していたときってこと?」
「そうでござるよ。なにせブーティカ家は他ではない魔法技術で拙者には作れないものを作っていたからでござる。ただ、外の人間がその技術を学ぶのは難しかったのでござるよ」
「そりゃそうだろうな。もともと、他の貴族領とも作った物の販売くらいでしか交流していなかったみたいだしな。よそ者が教えを請いにきても門前払いしかされないわな」
「そのとおりでござるな。拙者などは特にどこの出自かわからぬとあって、話もまともに聞いてはくれなかったのでござるよ」
「それが今や、グランの技術を得るために領地ごとフォンターナに降伏することになるとはな。世の中、何がどうなるかわからんもんだな」
「不思議なものでござる。が、全てアルス殿によるものでござる。感謝しているのでござるよ」
「ああ、その代わりしっかりとブーティカ家の技術を学んでくれよ、グラン。と言っても、ブーティカ家は魔法を使ってものづくりをするんだろう? ブーティカの名付けでもしてもらわないとグランには旨味がないんじゃないのか?」
「どうでござろうな。とりあえず、拙者はバルカの名を捨てるつもりはないでござるよ、アルス殿。ブーティカ家との共同研究では色々と試している段階でござるしな。今はブーティカ家の【合成】を使って、新しい素材が作り出せないか研究しているところでござるよ」
「【合成】か。ブーティカ家も面白い魔法を持っているもんだ」
フォンターナ軍の軍制改革に一段落ついた俺はブーティカ領に来ていた。
旧ルービッチ領や旧エルメス領はフォンターナがそれぞれの貴族から領地を取り上げてエランスやワグナーへと統治を任せることになった。
が、戦う前の段階で降伏を選んだブーティカ領についてはそのままブーティカ家に統治を任せている。
一応、フォンターナ憲章に従っての統治となるが、基本的には以前までとそれほど変わっていない。
ブーティカ領はエルメス領の南東に位置しており、東に大雪山を背負うようなところにある。
ここもエルメス領と似たように山がちになっていて、農作物などはあまりたくさん採れるわけではない。
が、エルメス領のように薬草や魔力茸ではなく鉱石が採れる山が多いという違いがあったようだ。
いくつもの良質な鉱山を持ち、そこに本拠地を構えるブーティカ領。
山の中で攻めづらいという点はエルメス家と似たようなもので、こちらはいい装備を使って攻めてくる相手を何度も跳ね返すことに成功していた。
ちなみに領地が隣り合っていたがエルメス家やルービッチ家とは比較的良好な関係を保っていたようだ。
エルメス家の魔力茸から作られる魔力回復薬はものづくりにおいて触媒などとしても使用されることがあるために、よく取引が行われていた。
対してルービッチ家とは剣の取引が活発に行われていた。
ルービッチ領の西隣にいたカーマス家などは【王水津波】などといった酸による魔法攻撃を持っていたため、領地を接するルービッチ家はカーマス家と小競り合いのたびに装備がよく傷んでいたのだという。
ようするにお得意様の関係だったのだろう。
そして、このブーティカ領にグランやグランに師事して鍛冶の仕事ができるようになっている職人を送り込んだ。
ブーティカ家が降伏条件として望んだグランとの共同研究の実施のためだ。
ブーティカ家としてはお家の悲願達成のために、不死者の王とやらを倒せるだけの武器を作ることが狙いだ。
対して、こちらはブーティカ家で作られる魔法防御力の高い鉄を用いた装備の確保といったところだろうか。
この魔法防御力をあげる装備を作るためにブーティカ家は魔法を使用する。
【属性付加】というらしい魔法だ。
鉄と魔石を用意して【属性付加】を使用すると魔法防御力が上がるらしい。
ちなみに、炎鉱石や魔電鋼を使って【属性付加】をすることも可能なのだそうだ。
本来であれば、魔石は迷宮などで産出されるものを買い取って【属性付加】するのだが、ブーティカ領には迷宮などはない。
ゆえに輸入したものを素材として【属性付加】する必要があったが、今は違う。
バルカは【魔石生成】という呪文で魔石を作り上げることができるので、いくらでも魔法に強い金属を作り出してくれることだろう。
ブーティカ家には他にも使える魔法がある。
それが【性能強化】だ。
例えば鉄に対して炎鉱石を使用して【属性付加】をしたとする。
すると、炎鉱石ほどは火力が出ないものの、その鉄は魔力を通すと炎を出すことができるようになる。
が、あくまでもそれは炎鉱石だけから作る九尾剣と比べると劣化品という扱いになる。
しかし、その劣化品であってもブーティカ家が【性能強化】を使用して武器を振るうと効果が跳ね上がる。
本来ではオリジナルに劣るコピー品であるにもかかわらず、オリジナルと同等程度の性能を引き出すことができるのだとか。
これがブーティカ家が今まで領地を守ることができた力の源だろう。
各地から持ち込まれる素材で武器を作り、他の貴族に販売する。
が、その際に残った素材を使って【属性付加】して作った武器を使って、オリジナルと同じ魔法剣として扱うことができるのだ。
仮にそれが奪われたとしてもブーティカ家以外は劣化品としてしか使用することはできないということになる。
そして、それらの魔法以外にもブーティカ家が使用できる魔法があった。
それは【合成】だ。
【属性付加】と似ている魔法ではあるが、【合成】すると複数のものをひとまとめにした新たな素材とすることができるそうだ。
ブーティカ家が自分たちの悲願を諦めていないのはこの【合成】があるからでもあるのだろう。
不死者の穢れを祓うことができる聖剣以上に不死者特効を持つ神鉄を作り上げる。
これこそがブーティカ家の願いなのだ。
もっとも、神鉄なるものが伝説上の素材なのではっきりいって実現可能なのかどうかもあやしいのだが。
そういうわけで、俺が軍制改革なんかをしている間にグランは一足先にここにきて【合成】を試していたのだそうだ。
ブーティカ家、バルカ家、そしてグランの知る東の知識をもとに、いろんな素材をいろんな配分で【合成】していた。
その面白そうな実験結果を見ながら、俺もその実験に参加することにしたのだった。
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