エルメス城攻略戦
「見つけた。あの山の上に城がありますね」
「……本当だ。まさか、こうまで簡単にエルメス家の城を発見してしまうとは……」
「あの城、いい場所にありますね。遠目からでは視界が通りにくい場所にありますよ、ブラムス殿。たとえ迷いの森という結界が無くとも発見は困難だったかもしれません」
「確かにそうですね、大将軍殿。山という地形をうまく使った山城です。が、相手は幻を見せるだけが得意なエルメス家の者どもです。大将軍殿、ぜひとも我らルービッチに先陣を切らせていただきたい」
「危険ですが、よいのですか?」
「もちろんです。この戦場で我がルービッチ家がこれからはフォンターナ王国のために働くということをこの身で以って証明してみせましょう」
「わかりました。それでは先陣はルービッチ軍にお願いします。ただし、こちらも相手の出方をみて動きます」
「もちろんです。それでは……、行くぞ者ども、今こそ我らが剣の腕の見せ所だ。かかれ!!」
いくつかの山を越えるようにして進んできたエルメス領。
エルメス領は長年ルービッチ家などの進軍を拒んできた領地でその防衛力は見事だが、欠点もある。
それは領地のほとんどが山しかないというところだろうか。
大規模な畑を作り出すことができないため、あまり住んでいる人の数は多くないようだ。
が、それでも山々で採れる貴重なものを売って領地を運営していた。
だが、それも近年では厳しくなってきていたという話だ。
山で採れたものを売るのだが、その相場が少しずつ下がってきていたのだという。
その一番大きな影響を与えていたのが、実は俺だったらしい。
エルメス家の領地では昔からよく魔力茸が採れることで有名だったのだ。
魔力茸は魔力回復薬として非常に高価な薬になり、それを作って売ることで農作物が収穫しづらいこの地の運営をしてきた。
が、それが最近になって大きく状況が変わったのだ。
本来は採れる時期が限られているはずの魔力茸が、年中季節を問わず取引されるようになってきたという。
売買の値段が低下していき、エルメス領で採れない時期であっても売り出されている魔力茸。
かつては魔力茸といえばエルメス家、と他の貴族たちも口を揃えて言っていたはずが、その地位を奪われ始めた。
その相手が、同じく森に接する貴族領にあった小さな騎士領だったという。
俺が事前に送ったエルメス家への降伏勧告に対しても、そのことが書いてあった。
我がエルメス家と交渉したいのであればバルカでの魔力茸の販売をやめろと名指しで非難されていたところを見るとよほど影響が大きかったのだろう。
まあ、そうは言っても魔力回復薬はただの薬ではなくいろんなものに使える。
バルカでは紙の製造でもその魔力回復薬を使用しているので、実際はそこまでエルメス家に影響を与えてはいないはずだと思うのだが、やはり一年中いつでも手に入る場所があるということが許せないのだろう。
まあ、そんなことを言われてもこっちも困る。
そもそもが、こんな秘境のようなところで細々と収穫している魔力茸に財政を頼っているのが割と致命的だったのではないかと思わざるを得ない。
ちなみに、魔力茸以外の薬草などもこのエルメス領は豊富なのだが、そちらも以前この地に来たことがあったという医者のミームが薬草各種をバルカに持ってきてガラス温室で栽培しているのでそれも影響があるようだが、たまたまだろう。
バルカは悪くないはずだ。
「お、始まったか」
そんなこんなをつらつらと考えていたところで、戦いが始まった。
ルービッチ軍がエルメス城へと近づいていったところで、弓による反撃が始まった。
普通ならばそれで被害が出るはずだが、しかしルービッチ軍も大口を叩くだけあった。
若き新当主ブラムスが先頭を走りながらそれに他の騎士もついていく。
その騎士たちが剣を振るうと、飛翔してきた矢を切り落としていった。
聞いた話ではかつての剣聖は生涯どんな矢もすべて剣で叩き落としてきた強者だったという伝説があるらしい。
それを後方で見ながら、ルービッチ家の魔法に感心してしまう。
【剣術】という非常にシンプルな魔法だが、それを唱えるだけで一騎当千の強さを手に入れられるのだ。
しかも、一言【剣術】という呪文をつぶやくだけでしばらくはその効果が継続する。
だが、ルービッチの男たちはその魔法にあぐらをかくことなく修練を積んでいるのだそうだ。
曰く、肉体をしっかりと鍛え上げていないといくら【剣術】という魔法を使っても体がついていかないから、ということらしい。
雨あられと降り注ぐ矢の攻撃を剣で防ぎながら、ルービッチ軍は城門まで接近してしまった。
というか、騎士や従士だけではなく農民たちまでもがそれなりに剣の腕があるというのがすごい。
フォンターナとは偉い違いだなと思ってしまった。
「お、見ろよ、アルス。あいつら、剣で城門に切りかかっているぞ」
「本当だな、バイト兄。けど、無駄な行為ってわけじゃなさそうだ。分厚い城門を切り倒しそうだぞ。ルービッチ軍が城門を突破したらフォンターナ軍も突入しよう。準備させといてくれ」
「おう、了解だ」
見事なものだ。
ルービッチ家、とくに貴族の当主になったブラムスという青年はその城門をスパスパと叩き切っていた。
どうやら、ブラムスが持つ疾風剣は魔法剣であるらしい。
代々のルービッチ家当主がその魔力によって育てた家宝の剣で、所持者の敏捷性を大幅にあげる効果があるらしい。
しかも、硬牙剣に匹敵するほどの硬さがあり、剣同士で打ち合ったり、あるいは城門に切りかかっても刃こぼれしないという性能付きだ。
それで、エルメス城の城門を切り落としてしまった。
が、その城門が倒れた奥から出てきたエルメスの騎士がルービッチ軍に襲いかかる。
どうやら、こうなることは予想していたようで城門の向こうにすでに待機していたのだろう。
その騎士たちが手を振って木の葉を宙に舞わせる。
次の瞬間、その木の葉が人になった。
「おお、忍術だ!!」
「何言ってんだ、アルス? あれはエルメス家の騎士が使う魔法の【分身】だろ」
「いやいや、分身の術こそ忍者っぽいんだって。いやー、良い技持っているぜ、エルメス家の連中は」
「なんでそんなに興奮しているんだよ、お前。そんなことより、行くぞ。俺たちも城に突入する」
「くそ、この興奮をわかってくれるやつはいないのか」
いや、実際すごい魔法だと思うんだが。
騎士が木の葉を使って分身体を作るのだが、その分身体の強さもどうやら元の騎士と同程度らしいのだ。
しかも、その分身体は幻術ではなく実体のあるものなのだ。
一人の騎士が複数枚の木の葉を分身体にしているので、単純に考えて本来の数倍の騎士を相手にしないといけないわけだ。
これは結構大変なことだと思う。
だが、もともとがそれほど大きな領地ではなく、したがって騎士の数も少なかったようだ。
達人と呼ばれる実力を持つルービッチ家に加えて、ヴァルキリーに騎乗したバイト兄を先頭にフォンターナ軍が城内に突入したことで、さすがにエルメス家も持たなかった。
こうして、ルービッチ家に続いて、エルメス家もフォンターナ軍によって敗北したのだった。
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