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貨幣の価値

「……銀貨、でござるか。それはなかなか難しいことに挑戦しようとしているでござるな、アルス殿」


「え? 銀を使って硬貨を作るのはそこまで難しいのか、グラン?」


「そうでござるな。いろいろと考えねばならぬこともあるでござろう。偽造されないようになどはもちろんでござるが、一番は銀貨だけでは貨幣としては足りないという点でござるな」


「えっと、それはつまり銀とは価値の違う金貨や銅貨みたいなさまざまな種類がないと貨幣経済を支えられないとか、そういうことか?」


「そうでござる。拙者はもともとこの地ではなく大雪山の向こうで生まれ育って生活していたのでござる。そこにはいくつもの国があり、そしてその国ごとに貨幣があったのでござる。同じような銀貨でも価値が違ったりという問題もあるので、銀貨づくりをするのであれば相当検討をしたうえでなければ大変なことになりかねないでござろうな」


「……うーん、たしかにそう言われると時期尚早かな。だけど、せっかく銀を手に入れる目処がついたのにもったいな気もするんだけど、しょうがないかな」


「ふむ、たしかに銀の入手の目処がついたこと自体は非常にいいことであると思うでござる。であれば、こうしてみるのはどうでござろう、アルス殿」


 タロウのクローンを作り、より安定的に、そして持続的に銀を手に入れる手段を得た俺はさっそくその銀で銀貨を作ろうとグランに相談した。

 グランならばうまいこと銀貨を作ってくれるだろうと安易に考えていたからだ。

 が、グランは俺とは違い冷静だった。

 銀貨を作れるようになったこととは別に、貨幣を作る危険性を示してきたのだ。


 まあ、たしかにグランの言うとおりだろう。

 適当に銀を流し込んで銀貨を作ったところで、それはあくまでも銀としての価値しか持ち合わせていないことになる。

 貨幣とはあくまでもそのお金が価値あるものであるという信用によって成り立っているのだ。

 今も流通している銀貨は銀としての価値だけではなく、お金としての価値を認められているからこそ商売などに用いられている。

 もし、単純に銀の塊であるコインを作ったところで、それが既存の銀貨以下の価値しかないとなれば溶かして銀の延べ棒にでもされかねない。


 ようするに銀貨のようなコインを作っても、そこに信用が付属しなければそれはあくまでもただの銀だ。

 だから、それに貨幣としての価値をつけなければならないが、それをするには相当に周到な準備をして、しかも、その価値が損なわれることがないように今後もコントロールしていかなければならない。

 が、俺はそんなことができるほどの知識もないし、グランやおっさんも似たようなものだ。

 だからこそ、グランは提案してきた。

 信用を作ることができないのであれば、すでに信用度のあるものを集めるための道具としようと。


 グランの考えはこうだ。

 まずはタロウシリーズが作り出した銀を使って、バルカ銀行が新銀貨を作る。

 そして、バルカ銀行がお金を持っている連中から金を借りて規定の期間が経過したら返済することを約束したバルカ銀行券をその銀貨を使って返済しようというものだった。

 金を借りた際は現在流通して使われている硬貨を受け取っている。

 そのためにバルカの銀貨を渡して返済すれば、手元にはすでに信用のある貨幣が残ることになる、ということらしい。


 ……うまくいくんだろうか?

 結局それはバルカの発行する銀貨が信用されなければ意味がないような気もする。

 だがまあ、既存の銀貨と同じ銀の配合比と重量にしておけば、多少ごまかされてくれるのではないだろうか?

 だめかな?

 どうなるか、全くわからん。

 わからんが、単純に銀貨を作るだけよりも同じ金額で交換したほうがいい気もする。


 悩む。

 かなり悩んだが、結局俺は銀貨作りをすることにした。

 どっちにしろ、フォンターナは王国として独立し、しかも国境には物理的な壁まで作ってしまったのだ。

 もしかしたら、貨幣が入ってこなくなる可能性がないわけでもない。

 そのときになってから急に貨幣作りをしようとしても遅いだろう。

 で、あるならば、交換用の記念硬貨みたいな扱いでもいいから貨幣作りをしておくのはありだと思う。

 設備があるかどうかだけでも違うのだ。

 失敗したときはその時だ。

 銀塊でなんとかごまかそう。


「と、いうわけだから銀貨にするときの絵を担当してもらおうかな、画家くん」


「……え、なぜこの場に呼ばれたのかわからなかったのですが、私がその銀貨の意匠を決めるのですか?」


「じゃなきゃ、こんな話し合いの場に呼ばないだろ。このバルカで銀貨を作るなら、画家くんに絵を描いてもらわないと。なんかこう、いかにもバルカっぽい感じでいい絵を描いてくれ」


「ちょっと待ってくださいよ。バルカっぽいものって、なんですかそのいい加減な絵の指定は」


「いや、だってしょうがないだろ。俺には絵が描けないし。まあ、けど条件がないわけでもないかな。銀貨の大きさに合うような絵柄を裏表に入れて、絵とは別に製造年と金額がわかる数字もある方がいいだろうな」


「はあ。それでバルカっぽいものというのは?」


「画家くんの好きに決めていいよ。もう何年もバルカで絵を描いてきたんだし、それくらいの発想はあるでしょ。じゃ、頼んだからな」


 バルカの銀貨を作る。

 そうと決めた以上は善は急げだ。

 早速そのためのデザインも決めることにした。

 デザイン担当は画家のモッシュだ。

 画家くんはなんで自分が、と驚いているが当たり前だろう。

 今も教会関係者のロングセラーになっている人体解剖の本には作画担当者の名前としてモッシュ・リードの名が書かれている。

 つまり、現在のバルカにいる絵描きの中ではトップレベルの知名度を誇るのがこの画家くんなのだ。

 銀貨に対してより価値をつけるのであれば、デザイン担当も有名人のほうがいい。

 こうしてバルカではバルカ銀行券の返済用硬貨としてのバルカ銀貨づくりが進められていったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ファンタジーでありながら工夫して成り上がって行くのが楽しく読んでいました。 [気になる点] さすがにクローンは飛びすぎててついていけない。 まだ他の白い犬人をみつけたとか白と黒で交配させた…
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