新たな問題
「よっしゃ、完璧だ!」
出来上がった宿屋、もとい新築の我が隠れ家を見てガッツポーズを取る。
建築物の再現は完璧だった。
どこからどう見ても街で宿泊した宿だった。
中に入ってみる。
入り口を通り、受付カウンターの奥へ行くと大して広くない食堂スペースがあり、その奥に厨房と生活スペースもある。
入り口へと戻り、階段を登っていく。
階段もしっかりした作りでおそらく建物が急に崩れるようなこともないだろう。
以前俺が作った旧隠れ家の壁が異常に分厚かったのも崩落の危険性を考えてのものだった。
建築の素人の俺が作った場合、耐震性の脆弱なものにならないかと心配だったのだ。
この新しい建物はもともとはこの世界のプロが建てたものだと思うので、少なくとも俺が作るよりは遥かにいいだろう。
「だけど殺風景だな……」
だが、新築が完成したものの、少し頭の中のイメージとは違っていた。
俺の中では宿の再現を目指していたのだ。
それは建築という面だけで言えば実現できているはずである。
しかし、住居として考えると不完全と言わなくてはならない。
なぜなら、扉のたぐいのものが存在しないからだ。
入り口も開けっ放しであれば、各部屋の間仕切りにも扉がない。
食堂や厨房もテーブルや棚のようなものがない。
ようするに土から建物を再現したものの、建物に付属するものはなにもないのだ。
まあ、仕方がないか。
そういう風に魔法を使ったのだから。
贅沢はいいっこなしだろう。
仮説と実感があったものの、この規模の建物を一度に魔法で作り上げることができるとは以前ならば考えられなかったからだ。
俺の成長の証と考えておこう。
「扉以外も必要なものもありそうだな」
さらにほかにも気になる点はある。
やはり他の建物を丸パクリしたつけが出ている。
というのも、街にあった宿屋は城壁都市の中にある建物の宿命として、他の建物と密接して建てられたものだったということがある。
ようするに、本物の宿屋の隣には別の建物があったので、宿の壁面はなんの飾り気もないのっぺらぼうのようなものだったのだ。
街の中であれば他の建物があるため側面の壁など見えないので、気にもならないだろう。
だが、俺が開拓した土地は広く、隣に建物など存在しない。
横から見るとまたバイト兄からダサいだの何だの言われてしまうかもしれない。
「ちょっとだけ、建物も増築してみるか」
そう考えて俺は新たに魔法を発動した。
建物の家の高さに合わせて、側面にレンガの壁を建て、ぐるっと取り囲んでいく。
ここはこれからも増えるであろうヴァルキリーたちの寝床にしようと思う。
そうして、反対側の壁にも同じように壁を作り、ぐるっと囲む。
こちらは収穫物を保管しておく倉庫にでもしておこう。
ただ、やはり壁を作って取り囲む事はできたものの、屋根の部分は手作業で作ることになった。
どうも脳内イメージだけでは建物そのものを一度に作り出すことができないらしい。
時間をかけてレンガを積み上げていったのだった。
※ ※ ※
「なあ、アルス。ちょっといいか?」
「どうしたの、父さん?」
「木こりたちがいるだろ。あいつらが怒っているんだよ」
俺が新築に一段落を終えて家に戻ってきたときだった。
父がそう言って話しかけてきたのだ。
ちなみに、いずれは自分の拠点を開拓地に移そうと考えている。
だが、家具も道具もないので今はまだ家に帰って母の手料理を食べている。
いつものように夕食を楽しみにしていたときに父から厄介事の話を持ち出された。
どうやら、村にいる木こりを生業としている人たちに不満が溜まっているらしかった。
「なにがどうしたの?」
「それがな、お前が森の木を倒しているのに文句を言っているんだよ」
なるほど。
話を聞いていくと、木こりたちがいいたいこともわかってきた。
もともと、この村は周囲を木の柵で囲んでおり、その外には森が広がっていた。
そこで木を切る専門職の人もいたのだ。
だが、最近になって森の状況に変化が現れた。
それが俺の存在だという。
普通、木を切る作業というのは非常に大変だ。
斧を叩きつけて木を切るという作業そのものが大変だ。
だが、その切った木を移動させるのも重労働なのだ。
そういえば、テレビで見た伐採シーンなどでは切った木を流れのある川に落として下流で受け取ったりしている方法もあったように思う。
だが、このあたりは基本的に平地なので、引きずっての移動となる。
そんな重労働を俺は魔法と使役獣の存在でゴリ押し気味に乗り切っている。
それが木こりたちには許せないのだろう。
何より、自分たちの仕事に関わることで、稼ぎに直結してくる問題だ。
文句の一つも言いたくなる気持ちもわからなくもない。
どうしたものか……。
理論武装で対抗するなら、木を切って開拓した時点でその土地は俺のものであり、俺の土地であればその木をどうするかは俺の自由だ、ということはできる。
だが、それをすると揉めそうだ。
俺はさっそく土地問題で頭を悩ませることになったのだった。
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