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悪魔の実験

「おっさん、来たぞ!!」


「早いな、坊主。確かに呼んだけど、こんなに早く来るとは思いもしなかったぞ」


「何言ってんだ。例の件についてだろ? 成功したのか?」


「……ああ。喜べ、坊主の実験は成功した。こっちだ、実際に見てみるといい」


 フォンターナの街で仕事をしていた俺にバルカニアにいたおっさんから連絡が入った。

 密かに行っていた実験の結果が出た、という報告を受けたのだ。

 それを聞いて俺はすぐにバルカニアへとやってきた。

 今は何をおいてもその結果について確認しなければならなかったからだ。


 おっさんに続いて歩いていく。

 バルカ城にある関係者以外立ち入り禁止の場所へと進んでいく。

 フォンターナで宰相や大将軍などという地位に昇りつめた俺ではあるが、基本的にバルカの重要なものについてはこうしてバルカニアで厳重に管理している。

 その中でも、特に重要な極秘区画へと進んでいった。


「クーン」


「……本当だ。鉄を銀に変えている。やったな、おっさん。この犬人は錬銀術を使っているぞ」


「ああ。この錬銀術は偶然じゃない。俺も坊主に連絡する前に何回も確認したからな。こいつは間違いなく鉄を銀に変換することができるんだ。やったな、坊主。まさかこんなことができるとは思わなかったぞ」


「そうだな。実際、俺もうまくいくとは思っていなかった。だけど、この実験が成功したのは大きい。とてつもなく大きな成功だ」


 極秘区画で俺が見たのは白い犬人がバルカニアにある炎高炉で作った鋼を銀に変える魔法を使っている姿だった。

 犬人。

 かつてバイト兄が統治するバルト騎士領の鉱山に出現した魔物で、俺が連れ帰ってきたのは通常とは少し種類が違う白い体毛をした犬人だった。

 その犬人は特別な魔法が使えた。

 通常の犬人という魔物であれば鉄の形を変える魔法を使うのだが、白い犬人であるタロウと名をつけた個体は鉄を銀に変えたのだ。

 鉱山に落ちているような精錬していない鉄鉱石では純度が低く、武器としても使いにくい銀にする魔法しか使えないため、タロウのような白い犬人は通常の黒っぽい犬人よりも立場が下だったようで、犬人の集団内で虐げられて生活していた。

 だが、俺にとっては銀を作ることができるというのは非常に得難い魔法だったため、こうしてバルカニアへと連れ帰ってきていた。


 そして、今、おっさんに呼ばれてやってきた俺が見ている犬人はタロウにそっくりな、しかし、タロウよりも幼い犬人だった。

 タロウとは別の白い犬人。

 タロウと同じ鉄を銀に変える魔法を使える犬人がこうして俺の目の前にいる。

 それは、バルカがより多く銀を手に入れられることを意味していた。




 ※ ※ ※




「やったな、タロウ。仲間が増えたぞ」


「クーン?」


「まあ、こう言ってもタロウにはわからないか。でも良かったな。こいつはお前と同じなんだぞ。遺伝子まで全く同じ、タロウのクローンなんだ」


 タロウという存在を手に入れた俺は極秘裏にその飼育を開始した。

 が、すぐにそのタロウの錬銀術を利用することになってしまった。

 それもこれもすべて金欠が悪い。

 俺はタロウが作った今までにない高純度の銀を見せ金にして、お金を持つ連中から金を借りるためにバルカ銀行券を発行したのだ。


 バルカ銀行券は言ってみれば国債と似たようなものだ。

 バルカ銀行が金を借り、一定期間が経過すればこちらが決めた利子を付けて返済する。

 そして、その返済能力を担保するために使った見せ金がタロウの作った純銀だった。


 が、これは非常に危険な行為でもあると言えるだろう。

 もし、なんらかの事情によってタロウを失ったり、純銀を手に入れられなくなれば、あるいは領地運営が傾けば、即返済不能になる可能性もあるのだ。

 そのために、俺はなんとかしてタロウと同じ魔法を使える存在を確保できないだろうかと考えていたのだ。


 最初はタロウが人間やヴァルキリーに対して名付けをしてくれれば、人間側が好きなだけ鉄を銀に変えられるのではないだろうかとも考えた。

 だが、その実験は失敗だった。

 だから、別のアプローチを行ったのだ。

 それが、タロウのクローンを作るという実験だった。


 バイト兄に頼んで、新たに生きた犬人を確保してもらう。

 白い犬人が手に入れば実験するまでもなかったが、見つかったのは通常種の黒系統の犬人だった。

 なので、その黒の犬人を調達してきたのだ。


 クローンの作り方は前世の記憶を思い出して参考にした。

 と言っても、詳しいことはさすがに知らない。

 どこかで聞いた曖昧な知識を思い出して、それを利用したのだ。


 まず、用意したのは黒い犬人のメスから採取した未受精卵だ。

 未受精卵を母体から取り出して、ガラス職人に作らせていたガラスのシャーレの上に置く。

 そして、その未受精卵の中心にある核をこれまたガラス製のスポイトで抜き取ったのだ。

 非常に細かい作業だったが、これは俺が全魔力を眼に集中させて作業した。

 その核を抜いた未受精卵にタロウの細胞から培養した組織を詰め込む。

 そうしてできた加工済み未受精卵をメスの母体に戻して出産させる。

 そうすれば、タロウの遺伝子情報をもとにしたクローンができるかもしれないと考えたのだ。


 だが、そう簡単にはクローンはできなかった。

 多分、ちゃんとした知識もなしにド素人が適当にやっているからだろう。


 が、諦めずに何度もチャレンジした。

 そうして今回無事に成功したのだ。

 成功の秘訣は回復魔法にある。

 俺はいろんなことを試したが、今回成功したクローンはその実験途中に回復魔法を使っていたのだ。


 回復魔法は恐るべきことに失った手足すらも再生することが可能なとんでもない魔法である。

 そんなものすごい効果のある回復魔法を加工済み未受精卵にかけてから、母体へと戻して妊娠させたのだ。

 もしかしたら、おかしな加工をされた未受精卵が回復魔法によって正常な成長をする状態に戻ったのかもしれない。

 が、それは紛れもなくタロウの遺伝子を引き継いだ白い犬人として生まれてきたのだ。

 それも錬銀魔法を使える個体として。


「いけるぞ、おっさん。この手法ならさらに白い犬人を増やすことができる。それはつまり、銀を量産できるってことだ」


「ああ、そうだな。そのとおりだ、坊主。ってことは、つまり……」


「……銀貨を作ろう。フォンターナ王国の外が騒がしくなっているからな。もしかしたら、通貨の流通に問題が出るかもしれない。そうなる前に、信用度の高い通貨を用意しておくべきだ」


 おっさんと二人で見つめ合いながら、うなずく。

 タロウのクローンが今後も安定して増やせるのであれば、文字通りバルカ城のこの極秘区画は隠し銀山となるわけだ。

 その銀を利用しない手はない。

 今後もバルカ銀行券の担保として利用するのはもちろんのこと、新たな通貨も作ろう。

 こうして、バルカでは新通貨を作る造幣所を作ることになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 生命の神秘にメスを入れてて草
[一言] なんつーか、他の漫画や小説なら、正義に倒される悪役みたいなことばっかりやってるよね(笑)
[一言] 犬人への扱いが酷すぎるのでポイントを下げました。
感想一覧
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