戦後分析
「連合軍とは言ってもしょせんは烏合の衆だったな」
「お疲れさまです、アルス様。この度の防衛戦、見事な手腕でした」
「いや、相手の自滅っていうのが最もしっくりくるだろう。メメント家の上位魔法である【竜巻】がやっかいだったが、結果的にはなんとかなったな。でも勝ったのは運が良かったのも大きいと思うぞ、リオン」
「確かに、あの上位魔法は非常に厄介でしたね。それに他の貴族家の魔法もそれぞれ強敵でした。が、アルス様が用意した防衛網の前には相手が悪かったのではないかと、相手が気の毒になってしまいますよ」
「まあ、結構上手く機能したと自分で思うよ。カーマスの防御壁と転送石の連携は間違いなく大軍相手に機能した。いいものが作れたよ」
ドーレン王家が王命を発してフォンターナに対して討伐軍を差し向けてきた。
さまざまな貴族が軍を出して連合軍としてやってきたその討伐軍の数は実に25万以上もいた。
さすがにそれだけの数を相手にするには分が悪すぎる。
こちらの最大兵数は4万であるが、連合軍が来る東ルートだけではなく、西に対しても備えておく必要があったからだ。
実質的には2万ちょいの数で25万を相手にする必要があるということになった。
まともに戦っては勝ち目はない。
ということで、俺が選んだのは防衛戦だった。
こちらから出向いていって連合軍に対して合戦を仕掛けて勝てれば一番いいが、それが無理であれば防衛するしか無い。
普通ならばこの防衛戦はいい戦い方とは言えないだろう。
なにせ、王国として独立するというフォンターナに対して援軍が来ることはないのだから。
援軍なしに守りを固めてもいずれすり潰されて終わる。
が、そんなフォンターナにとって唯一勝機を見出すポイントがあった。
それはフォンターナ王国の位置が関係している。
フォンターナは背後を森に囲まれている最北の土地なのだ。
東は大雪山と接するウルク地区であり、西は湿地帯があるアーバレスト地区だ。
つまり、守りを固めたときに南にだけ注意を向けていられるのだ。
なにせ、背後を大自然に囲まれているため、そこからの攻撃を心配しないでいいのだから。
そして、その唯一の利点をさらに補強することにした。
以前のメメント軍と対峙したときよりもさらに少し南に位置する旧カーマス領に壁を作ったのだ。
それもただの壁ではない。
横に長く長くつなげて、まるで万里の長城やハドリアヌスの長城といったものに相当する防御壁を作り上げたのだ。
これは一種の賭けだった。
防御のための壁を作っても、作りかけの時点で攻撃されてしまえばどうなるだろうか。
おそらくは相手側に防御を突破され、逆にその壁を連合軍に利用されてさらなる攻撃にさらされることになる。
そうなれば、どう頑張っても勝つ要素は無くなるだろう。
だが、その賭けに勝った。
旧カーマス領に「カーマスの防御壁」という長城を作り上げ、そこからフォンターナに続く道を封鎖してしまうことに成功したのだ。
が、いくらバルカの【壁建築】という魔法があったとしても時間的には厳しかった。
これが成功したのはひとえにドーレン王家が面子を優先したための失策があったからこそだと俺は思っている。
ドーレン王家は王命を発してフォンターナ討伐のための連合軍を用意した。
が、そこで下手を打った。
あるいはそれは昔からのやり方だったのかもしれないが、王家は連合軍を一度王都に招集してからフォンターナに向かわせたのだ。
ただでさえ王都とフォンターナは地理的に距離がある。
大規模な軍は進む速度がただでさえ遅いのだ。
一度軍を集めてからみんなで北に向かってお散歩といった有様で、実際にフォンターナの国境線に来るまでには王命が発せられてから数ヶ月かかっていたのだ。
もしこれが無ければ連合軍との戦いの結果は違ったものになっていたかもしれない。
その時間的猶予がフォンターナを、俺を救ってくれた。
ギリギリでカーマスの防御壁が完成したのだ。
基本的には高さ10メートルである【壁建築】を使って国境線に物理的な壁を作り上げた。
そして、その壁は等間隔に監視塔や砦を作って、国境を見張らせている。
それぞれにリード家の人間を配置しているので、なにか発見があればすぐに【念話】で連絡が来るのでいち早く対処できる。
が、それ以上に役に立ったのが転送石だった。
カーマスの防御壁にあるいくつかの砦に俺は転送石を作り上げて、それぞれの砦を当主級のものであれば一瞬で移動できるようにしていたのだ。
時間をかけてやってきた連合軍が狙いを定めた砦に攻撃を仕掛けてきたが、それを見て、当主級の実力者がすぐに救援に向かうことができる。
それだけではなく、一瞬で攻撃を受けている砦から別の砦へと当主級の者が移動して、その別の砦から援軍に向かうこともできるようになっていたのだ。
俺が今まで経験した戦で感じたのは当主級が使う上位魔法は基本的に攻撃に特化している。
なので、砦にこもって守りの指揮を執るのは別に当主級でなくともよく、あえて攻城側を外から攻撃する遊撃隊のほうに当主級を用意する作戦をとったのだ。
相手からすればある日は攻撃している砦に当主級がいるかと思えば、別の日には遊撃してくる軍に当主級がいるように感じただろう。
おそらくは、こちらにいる実際の数よりも多くの当主級を相手にしているように錯覚していたことだろう。
そして、最終的に決め手になったのは飛行船による食料庫の爆撃だ。
実はこれは俺の作戦ではなかった。
俺としては一度メメント軍に見せた戦法だったために、二度も通じないだろうと考えていたのだ。
だが、カイルから進言された。
飛行船を使うべきだと。
カイルは攻撃を受けている砦から連合軍の動きを見て、こう思ったそうだ。
相手の連合軍はお互いに連携がうまく取れているようには見えない、と。
そして、それは事実だった。
いくつもの貴族軍で構成されている連合軍は目的こそフォンターナの討伐であり、その総指揮を執っているのはメメント軍であると決められていた。
が、微に入り細を穿つというほど情報を共有しているわけではなかったのだ。
つまり、以前メメント軍が受けた飛行船の攻撃の情報を連合軍全体が共有しているわけではなかったのだ。
実際に、メメント軍は食料庫を燃やされにくいように対策していたが、多くの貴族軍は空から食料が燃やされるとは考えもしていなかったようだ。
双眼鏡などを使って確認しても、全く警戒している感じがしなかった。
そのために、俺はカイルの進言を受け入れて、全く同じ戦法で連合軍を攻撃することにしたのだった。
そして、それは見事に成功した。
俺が空から氷炎剣を使って燃える氷を撃ち落として食料を燃やしていく。
それだけで、連合軍は事実上機能停止してしまった。
さすがにすぐに退却するわけではなかったが、その後しばらくして大軍を賄う食料の確保ができなくなったところで連合軍は退いていった。
もちろん、そんな美味しい機会を見逃すはずもなし。
いつものように夜にヴァルキリーに乗って夜襲を行えば、連合軍は闇夜の中で反撃してきて味方である他の貴族軍に攻撃が当たってしまった。
結果、同士討ちで多くの兵を失ったようだ。
こうして、フォンターナ王国は独立に反対するドーレン王家主導の討伐軍を見事に跳ね返して、その力を見せつけることに成功した。
が、この戦いによって争いばかりだったこの地域はさらに大きく状況が動き始めることになったのだった。
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