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先王の側近

「なぜだ! どうしてこうなった」


 あまりの出来事に私は頭を抱えてしまった。

 フォンターナ家が新たな王を名乗り、国を建てた。

 まさかこんな事態になるとは思いもしていなかった。


 私は先代の王とともについ数年前までフォンターナ領にいたのだ。

 そして、そのフォンターナ領から王都までの帰路で例の事件が起こった。

 王襲撃事件だ。

 王とともに王都へと向かって移動していた私だが、不幸中の幸いにもその難を逃れて命拾いした。

 が、その事件の際に王とその護衛を行っていたカルロス・ド・フォンターナ殿が命を落とした。

 襲撃者の手際は非常に周到で、ほとんど反撃させることもなく襲撃を成功させてしまったのだ。

 私もその場で命を落としていたかもしれない。

 が、運良くカルロス殿の配下の騎士リオン・フォン・グラハム殿と合流し、そこから逃れることに成功したのだ。


 まさか、こうして王がお命を狙われることになるとは思いもしなかった。

 王に剣を向けるというのがどれほど罪深いことか理解していないのだろうか?

 だが、そんな私の思いも、王都に帰り着いてからは別のことに忙殺されることになってしまった。

 それは王の身を守るために我々側近は本当に正しい選択肢をとったのか、という追及が始まってしまったからだ。


 馬鹿馬鹿しい。

 そもそも、王がフォンターナに向かったのは王自身が身の危険を感じたからこそだった。

 リゾルテ家が三貴族同盟に敗北し、覇権貴族としての地位から転落した。

 が、その三貴族同盟もリゾルテ家という大きな敵を倒すまではよかったが、それからは水面下ではドロドロの争いをしている。

 まともに収まりがつかない状況だったからこそ、その三貴族同盟に少しでも対抗できる可能性があると判断したフォンターナ家を頼って王は身を寄せたのだ。


 事実、フォンターナ家は王をよく助けてくれた。

 他の貴族家ではできなかった王の保護という難題を見事にこなし、そして、当主自らが命をかけて戦ったのだ。

 それにもかかわらず、フォンターナ家を頼った我らの判断が間違っていたなどとはあんまりだろう。

 だからこそ、先代王とともにフォンターナ領に同行していた我らは必死の説得を行ったのだ。

 フォンターナの働きとともに、いかにフォンターナが豊かであるかということを。


 王都圏で生まれ育った私は今まで最北の貴族領であるフォンターナ領について、ほとんどなにも知らなかったと言っていい。

 王都圏よりも雪がよく降り、寒い地域のため、作物の収穫量が少なく、それゆえに領地の面積に比して住民の数は少なめである、といった一般的なことしか知らなかった。

 それは我らを追及してきている連中も同様だろう。


 だが、違った。

 フォンターナ領は非常に豊かだったのだ。

 畑はよく耕され、収穫物は多い。

 堅牢な建物があり、しかも、見たこともないほどのしっかりした道路が領地中を張り巡らせるかのごとく整備されているのだ。

 特にその道路がよかった。

 今まであれほどの道路を見たことはない。

 たとえ王都圏であってもフォンターナの道路の質には敵わないだろう。

 普通ならば移動で乗る騎獣車は地面からの振動で揺れてしまうが、そのようなこともない。


 さらにフォンターナは商人の活用もうまいようだ。

 多くの商人が行き交い、威勢よく売り買いをしている。

 その光景は非常に活力溢れるものだった。


 私はそれを見られただけでもフォンターナに行ったかいがあったと思ったほどだ。

 近年フォンターナが隣接する貴族に勝利したというが、それは決して戦上手というだけではない。

 よく土地を治めているからこそ、あれほどの力をつけることができているのだ。

 そのことを王都に帰り着いた私は必死になって説明した。

 その結果がこれか。


 生き残った先代王の同行者が行った必死の説得は思わぬ方向へと話がころんだのだ。

 先代王がお隠れになったことによって次なる王になられた当代の王がこう言ったのだ。

 フォンターナがそれほど土地の整備を上手く行えるのなら、この王都圏でもそれをしてはくれないだろうか、と。

 おそらく、それは王にとっても話を聞いた際に漏れ出たただの感想だったのだろう。

 王都の道路も荒れているところがあるからな。

 ちょっと整備してくれたらいいなという程度だったのかもしれない。


 が、その直後に再びフォンターナ家についての情報が王都にもたらされたのだ。

 先代王襲撃事件の裏にいたのではないかというパーシバル家討伐についてだ。

 主にラインザッツ家とメメント家を主軸とした貴族家の連合軍がパーシバル家に対して攻めていたはずだった。

 だが、パーシバル家討伐戦の趨勢を決定づけたのはラインザッツ家やメメント家ではなく、フォンターナ家だった。

 先代当主のカルロス殿が亡くなられた弔い戦として北方から急襲してきたフォンターナ軍によって迷宮街が陥落したのだ。


 パーシバル家の迷宮街というのは今後の勢力争いに大きく関わる重要な地として誰もが認識していた。

 が、当然迷宮街に近づくまでにもいくつかの防衛用の砦や街が配置されているため、迷宮街にたどり着くだけでも非常に困難である。

 それがすべての貴族と、そして王都での考えでもあった。

 だが、迷宮街はあっという間に陥落した。

 フォンターナにおける精鋭の魔獣部隊がまたたく間に攻略してしまったというのだ。


 その情報は王都に少なからず衝撃を与えた。

 そして、いつの間にかあのような結論に至っていたのだ。

 フォンターナを覇権貴族にして、王都圏を守らせてはどうか、と。

 そのついでにフォンターナに王都の道路などの整備や、畑の改良なども行わせれば一石二鳥ではないか、と。


 ……なぜそうなるのだ。

 亡きカルロス殿は王家との関係を確かに重視しておられた。

 が、それは王都とは距離があるために塩などを始めとした品の確実な取引などの現実的なものであり、決して覇権貴族の地位を狙って行動していたわけではない。

 というか、実際に王の護送中にカルロス殿と話した際には、フォンターナ家は覇権貴族にはとてもなれる力はないとはっきりと言っておられた。

 道路整備を頼みたいのであれば、普通にその要請を出せばよいだろう。


 だというのに、新王の周りにいる連中ときたらどうだ。

 王に気に入られようとあれこれと都合のいいことばかりを吹き込んでいる。

 実際にフォンターナ家が覇権貴族になれるかどうかなど考えもせずに王に進言したに違いない。

 まあ、もしかするとパーシバル家の勢力後退によって力が増した他の大貴族の牽制のためという面もあるのかもしれんが。

 だが、うまくいくはずがないだろう。


 そんな私の予想は当たっていたのか。

 それとも大外れであると言ったほうがよいのだろうか。

 フォンターナ領に向かった使者は帰ってこなかった。

 それだけではない。

 フォンターナからはこんな返答を持った使者が送られてきたのだ。


 フォンターナ家は新たに王家として戴冠の儀式を行い、フォンターナ王国を建国する。


 ……なぜそうなる?

 フォンターナに向かった使者がどういう話をすれば、このような結論に至るのか。

 わけがわからない。

 が、それ以上に驚いたのが教会の動きだった。


 教会はフォンターナが王になるための戴冠の儀式を執り行うというではないか。

 しかも、それと同時に教会が塩の販売を始めるという。

 本当にどうなっているのだ?


 さらに事態は複雑化していく。

 王家から教会に対して説明を求めている際に判明したことだが、フォンターナ家だけではなくラインザッツ家やリゾルテ家なども戴冠の儀式を行う話が出ているらしい。

 ……もし、それが本当だとすればどうなるのだろうか。

 ドーレン王家以外が王になろうとするなど、今まで考えたこともなかった。

 どれほど大貴族が力をつけても、王家と同盟を結んで覇権貴族を目指すのが当たり前だったからだ。

 だが、その流れを断ち切るように新たな時代のうねりがやってきたように感じる。


 ……嫌な予感がする。

 まるで天地がひっくり返るのではないかというような足元の定まらない感覚すらしてしまうほどだ。

 王家はとにかくフォンターナ家が王になるということに対して、決して許さずという構えを表明して各貴族に号令をかけた。

 大貴族パーシバル家に次いで、今度はフォンターナ家討伐戦の号令だ。

 だが、果たしてうまくいくのだろうか。


 私はフォンターナ領で一度だけ見かけた少年の姿を思い出して、体の震えが止まらなくなったのだった。

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