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戴冠式

「かつてこの地は不毛の大地、魔の領域、人類の生存圏外などと呼ばれていた。


 その地にこうして我々人間が魔物から身を守り、不死者の穢れを祓って、生存領域を拡大してきた。


 それには長い歴史が必要だった。


 我々は先祖代々続く長く、しかし着実な歩みでこの地を人が住む場所へと切り開いてきたのだ。


 そうして、その長い歴史の中に登場したのが王家である。


 はるか昔に現れた初代王はこの地を平定し、さらなる繁栄をもたらした。


 自身の強大な力とともに、塩を作り出すという稀有な魔法を持つことによってだ。


 初代王はこの塩を臣下に分け与えることで、多くの魔法使いと共闘しながら各地を治めて国を作り上げた。


 それが我々の住む国の歴史である。


 しかし、それも暴君ネロ王によって終焉に向かうことになった。


 ネロ王は国を分裂させ、王家の力を激減させた。


 その結果、どうなったかは皆も知ってのとおりだろう。


 それぞれの土地を治めていた貴族家は王家から離れて独自に動き出し、好き勝手に土地を切り取る群雄割拠の様相を呈するようになってしまったのだ。


 貴族家が離れたことによって、王家もかつての力を失ってしまった。


 それゆえに、塩の供給も弱まった。


 かつて、王家が力ありし頃は塩はもっと安く大量に、安定して供給されていたのだ。


 信じられるだろうか?


 我々は今、塩は貴重品であると認識している。


 王家が人々の生存を保障するために供給していた塩が明らかに不足しているのだ。


 そして、それを王家は解消できていない。


 どころか、自分たちが儲けを得るために塩の相場が安くならないように供給を抑えている始末だ。


 こんなことでは、我々はいつまで経っても貧しいままだ。


 この状態はなんとしてでも解消しなければならない。


 そのためにフォンターナ家先代当主のカルロス様はこの私、アルス……フォン・バルカに命じたのだ。


 フォンターナに住むすべてのものが安心して生活できるように行動せよ、と。


 そして、今、フォンターナでは塩を安定的に供給するを得るに至った。


 カルロス様の遺言を実行することができるようになったのだ。


 我々はこれから塩に悩まされること無く生活していくことができるようになるだろう。


 そして、それは教会も認めるところである。


 かつて、初代王が人々に塩をもたらしたとき、教会は彼の人を王であると認め、その頭上に王である証を掲げたという。


 それ以降、その儀式は戴冠の儀式として現在までも続いている。


 その教会がこの度、ガロード様を新たな王であると認め、戴冠の儀式を執り行う。


 そうだ、つまり、この儀式とともに我らが当主であるガロード様は初代王についで、二人目となる新たな王となるのだ。


 いわば初代王の再来とも言えるだろう。


 ゆえに、この日をもってフォンターナ家は貴族家ではなく、王家となる。


 そして、ここに宣言する。


 今日という日をもって、フォンターナ家は独立し、フォンターナ王国の建国をここに宣言する。


 我々はこれから再び、かつての繁栄を取り戻すのだ。


 ガロード・フォンターナ様、万歳!!!」


「「「「「ウウォオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ」」」」」


 俺が大急ぎで魔法建築したフォンターナの街の教会の建物で声を張り上げる。

 今はもう真夏になる。

 暑い日差しが降り注ぐ中、大勢の人が教会の外にまで広がっていた。


 王家からの使者と決別し、俺は塩を作り出して国を作るための動きを始めた。

 その間、リオンなども協力し、大まかな国としての体制も整え始めた。

 そして、塩の販売というカードを使って教会に依頼した戴冠の儀式も無事に執り行えることになった。


 といっても、教会もかなり葛藤したのだろう。

 今まで唯一の王であったドーレン王家とは別に王家を作ることが許されるのかどうか。

 王家との関係が悪くなることを教会も望んではいない。

 が、塩の販売が約束されるというのであれば、フォンターナ家からの要請を突っぱねるのはうまい手ではない。

 では、波風立てないで甘い汁だけを吸うにはどうすればいいか。

 そんな風に結構悩んだのだろう。


 で、結局のところ、フォンターナ家を新たな王とする戴冠の儀式を執り行うことになったものの、責任を逃れる言い訳は用意した。

 それが戴冠の儀式の執行者がパウロ大司教であるところに表れている。

 そもそも、命名の儀や継承の儀式のように魔法的になんらかの効果のあるものと違い、戴冠の儀式は本当にただの儀式、セレモニーであるといってもいい。

 つまり、なにか特別な魔法があるわけではなく、ゆえに特定の誰かが執り行わなければ意味がないものでもない。

 つまり、本来ならば教会のもっと上の人間が仕切ることになるはずだが、パウロ大司教が儀式をしても問題ないのだ。


 ようするに、唯一の王家であるドーレン王家とは別の王を戴く戴冠の儀式を本来執り行う役職には無い大司教が行うことによって、ドーレン王家をないがしろにしているわけではないと主張したいのだろう。

 もしかしたら、フォンターナがなんらかの理由でたちいかなくなった場合は、北部の教会が勝手にしたことだとパウロ大司教ごと切り捨てたりするのかもしれない。

 が、そんな言い訳を用意しつつ、塩の販売はしっかりと行うらしい。

 なかなかしたたかなことだと思う。


 が、それでも、戴冠の儀式が無事に行われることになった。

 教会の中での位置づけがどうであれ、フォンターナ領に住む人々にとってはあまり関係が無い。

 なによりも教会がこれまでドーレン王家にだけにしてきた戴冠式をフォンターナ家当主であるガロードに対して行ったという事実のみが重要なのだ。


 こうして、この地には新たな王と新しい王国が誕生した。

 ガロード暦元年の夏、フォンターナ王国が建国されたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで一気読みした こういう宣言とかは胸熱 [気になる点] ガロード・フォンターナ様、万歳!!! ガロード・フォンターナ陛下 では?
[一言]  ガロード・フォンターナの後の自伝のタイトルが”俺、何か王になっちゃいました?”とか”何か自我に目覚める前に王にされちゃったんですけど!?”とか書いてそう。
[気になる点] 塩が貴重品なの? 序盤で貧乏な農家すら、ハツカの塩漬けとか作ってたのに?
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